極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 襲った償いは秘密の結婚でした!?

6.結婚を迫られて

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「これにサインしろ」

食後、私の前に置かれたのは婚姻届だった。

「……本気、ですか?」

真っ直ぐに、レンズ越しに蔭木課長の瞳を見つめる。
けれどそれは少しも揺るがない。

「本気に決まってるだろ。
俺が冗談を言うとでも?」

冗談、だとは思っていない。
しかし責任を迫られてつい口から出た出任せだとは思っていた。

「婚約者がいらっしゃるのに?」

「それがどうした。
結婚しているわけじゃないから問題ない」

それはそうなんだろうか。
仮にそうだったとしても、彼らの結婚は会社にとって大変大事なものなのだ。
それをやめるなんて許されるはずがない。
それに、音成さんの意思だって。

「そもそも、いまどき政略結婚なんて馬鹿げていると思わないか。
俺の結婚相手は俺が決める」

強い、意思のこもった視線で彼が私を射る。
私と同じことを言う蔭木課長には共感できた。
それに俺様御曹司とはいえ、意に沿わぬ結婚をするのはつらいだろうと同情していた部分もある。
けれどその相手をこんなことで決めてしまっていいんだろうか。

「その相手が私でいいんですか。
しかもこんなことの償いで」

「かまわない。
俺は翠を愛する自信がある。
思いっきり甘やかして、可愛がりたい」

「はぁ……」

その自信はどこからくるのだろう。
まともに話したのは昨日の飲み会が初めてだというのに。

……いや。
そもそも相手に困らないだろう彼が何故、酔い潰れた私を無理矢理犯す、などということにおよんだのか。
そこからすでに謎なのだ。

「結婚して損はさせない。
してみてやっぱりあわないなと思ったら、容赦なく離婚すればいい。
そのときはきちんと、慰謝料も払う」

「えっ、と……」

どうしてそこまで、蔭木課長が私との結婚に拘るのかわからない。
即離婚で慰謝料を払う気があるのなら、この件も結婚なんかしなくてそれで解決すればいい。
お金で済まされるのは腹が立つが、それが周囲に波風を立てずに一番ベターな選択のはず。

「それに親が見合いを勧めてきて困ってるって言っていただろ。
結婚すればそれがなくなる」

「それは確かにそうですが……」

そのために合コンに行っていたのだ。
あの鬱陶しい、父と兄の干渉がなくなるのは嬉しい。
嬉しい、が。

「いいからここに、黙ってサインしろ。
サインするまで家から出さないからな。
俺は休みだからいつまでかかってもいいが」

「ひぃっ!」

眼鏡の奥からじろっ、と眼光鋭く睨まれ、思わず悲鳴が漏れる。
腕を組んでじっと私を見下ろす蔭木課長を前に、テーブルの上の婚姻届を睨んでいた。
時間は刻一刻と過ぎていく。
一度、家に帰る時間は欲しいが、すでにそんな時間はなさそうだ。
それどころかこのままでは遅刻するかもしれない。

「……結婚、したら」

「ん?」

私がぽつりと呟くと、蔭木課長は腕を解いて少し前のめりになった。

「私は蔭木課長を好きにならないといけませんか」

苦手な彼を好きになれる自信なんてない。
しかもきっかけが最悪なだけに。

「……無理に、とは言わない」

レンズの向こうで泣きだしそうに彼が瞳を歪める。
らしくないその姿に心臓が一度、とくんと鼓動した。

「わかりました」

置かれたペンを握り、必要事項を埋めていく。
完全に納得したわけじゃない。
けれど少しだけだけど、蔭木課長と結婚しても大丈夫だと思えたから。

「準備しろ。
送っていく」

書類を確認し、彼がクリアファイルにそれらをしまう。
書類は婚姻届だけじゃなく戸籍を取るための委任状まで抜かりなく準備してあった。

手早く身支度を調え、蔭木課長の家を出る。
ガレージには車が三台も並んでいて、今日はそのうち深いワインレッドの、SUVタイプの外車に乗せられた。

「一度、家に寄ってやる」

「え?」

ここがどこかわからないが、もう直接職場に向かっても遅刻するかもしれないくらいの時間。
なのに家に寄るとは?

「その服のまま行ったら、昨日のことを感づかれるだろうが」

「ああ……」

確かにそうなんだけど。
でも遅刻……。

「俺が昨日、送っていった際に携帯落として、本部まで持ってきてもらったことにしといてやるから心配しないでいい」

くいっ、とその大きな手で、覆うように彼が眼鏡を上げる。

「じゃあ……それでよろしくお願いします」

それが通じるのかよくわからないが、御曹司が言うことだからたぶん大丈夫なんだろう。

車は滑るように街を走っていく。
住んでいるマンションに到着し、バタバタと着替えてまた車へ戻る。

「終わったら迎えにいく。
少し先にH&Bホテル、あるだろ?
あそこのロビーで待ってろ」

「はい」

車は店より一区画手前の裏手で停まった。

「ここで降りろ」

「あっ、はい。
ありがとうございました」

そっか、店の前に御曹司の車で乗り付けたりしたら、騒ぎになっちゃうもんね。

「翠」

シートベルトを外そうとした手を蔭木課長が押さえる。
反対の手が私のあごを掴み、自分の方へ向かせた。
なにが起こっているのかわかっていない間に、彼の唇が私に唇に触れて離れる。

「頑張ってこい」

「えっ、あっ、はい。
いって、きます」

今度こそシートベルトを外し、ギクシャクと車を降りる。
車が見えなくなってようやく、我に返った。

……え、ええーっ!?
いまのがファーストキスになるの、かな……?
それにしても蔭木課長、あんな顔するんだ……。

どきどきと速い心臓の鼓動は落ち着かない。
目尻を下げ、うっとりと笑う彼の顔が、いつまでたっても離れなかった。

「遅くなりました……」

こわごわ出社した職場だけれど、誰も私を咎めない。
もうすでに、蔭木課長が連絡を入れてくれているみたいだ。

「美月ちゃん。
昨日、大丈夫だった?」

私が席に着くとすぐに、中尾さんが椅子を少し寄せて訊いてきた。

「蔭木課長が送っていったみたいだけど……」

彼女が心配する理由はよくわかる。
だってあの、蔭木課長なのだから。

「ああ、はい。
ちゃんと家まで送ってくださいました」

笑顔を作って嘘を吐く。
まさか、酔い潰れていたところを襲われ、さらにその責任を取るとかで結婚を迫られたなんて言えない。

「なら、いいんだけど。
ごめんね、旦那がナナの様子がおかしいいとか半狂乱で電話してきて。
相手してる間に蔭木課長が美月ちゃん連れて帰ってたから」

「ナナちゃん、大丈夫だったんですか」

ナナ、とはお子さんが独立してから飼いはじめた、ミニチュアダックスのことだ。
旦那さんはナナちゃんを娘のように溺愛しているらしい。

「平気、平気。
私がいないのをいいことにおやつあげすぎて、ごはんを食べなかっただけだから」

「そうなんですか。
もう、旦那さん毎度毎度ですね」

「そうなのよ!」

ケラケラと可笑しそうに彼女が笑う。
もう何度も同じ話を聞いていただけに、私も一緒に笑っていた。
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