極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
9 / 61
第1章 襲った償いは秘密の結婚でした!?

8.秘密ってどういうこと!?

しおりを挟む
「そうだ。
籍は入れたがこの結婚は誰にも秘密だ。
親にもな」

「……ハイ?」

デザートになって切りだされた言葉で、フォークに指した、タルトのグレープフルーツがぽろりと落ちていく。

「秘密、とは……?」

「誰にも口外してはいけない。
会社はもちろん、友人知人、家族にもだ」

「え……」

会社はなんとなくわかる。
蔭木課長と結婚したなんてしれたら争いの元だし。

でも親は?
結婚すれば親から見合いを勧められることがなくなると言ったのは誰ですか?

「家もこのまま別居、生活は基本、いまのまま変わらない」

それは安心だけれど、不信感ばかりが募っていく。
じっと、左手薬指に嵌められた指環を見つめていた。

「指環も当然、指には着けるな。
代わりに……これを」

テーブルの上を滑ってきた箱の中には、なんの飾りもないネックレスが入っていた。

「首から下げとけ。
俺もそうする」

そこまで隠さないといけないこの結婚っていったいなに?

「……そんなに」

「ん?」

「そんなに後ろめたいんなら、結婚なんてしないでください!」

指環を外し、テーブルへ叩きつけていた。
瞬間、店内がしん、と静まりかえる。

「あ……。
すみません、でした」

視線に耐えられなくて、おずおずと椅子に座り直す。

「……離婚、してください。
結婚した、ばかりだけど」

蔭木課長の手が、私の結婚指環を拾う。

「……嫌だ」

左手が伸びてきて、私の左手を掴む。
抵抗したけれど離れない。
反対の手が強引にまた、左手薬指へと指環を嵌める。
外させないかのように上から強く、手を握られた。

「俺は翠がいい。
翠と結婚したい。
絶対に翠を幸せにする。
……誓う、から」

切羽詰まった声があたまの上から振ってくる。
信じろ、って?
そんなの……。

「……嘘ばっかり」

目頭がじん、と熱くなり、慌てて鼻を啜る。
それで初めて、蔭木課長を少しだけ、信じはじめていた自分に気付いた。
彼と結婚しても幸せになれるんじゃないか、心のどこかでそう思っていた。

「嘘じゃない。
俺は絶対に翠を幸せにする。
絶対に、だ」

縋るように掴まれた手が痛い。
大声を出せばきっと、誰かが助けてくれる。
わかっていたけれど、できずにいた。

「好きになってくれなくてもいい。
俺を……嫌わないでくれ」

泣きだしそうな声につい、顔を上げていた。
視線のあった彼は、レンズの向こうで瞳を涙でうるわせていた。

「……なんでそんなに、必死なんですか」

胸が錐で刺されたかのように鋭く痛む。

「翠が好きだ。
愛している。
……こんなことを言っても、信じてもらえないだろうが」

眼鏡の奥から蔭木課長が真っ直ぐに私を見つめる。
その瞳はレンズと同じで、どこまでも曇りがない。

「……離して、ください」

びくん、と小さく、彼の身体が揺れた。

「逃げたりしませんから。
離して、ください」

おそるおそる、彼の手が離れていく。
ずっと掴まれていた手は、赤くなっていた。

「結婚を秘密にしないといけない理由を訊いても?」

「……いまは、言えない」

彼は頑なで、はぁーっと私の口からため息が落ちていく。

「いまは、ってことは、いつか話してくれるんですよね?」

「……話せるようになったら、話す。
そのときは結婚も秘密でなくなっているはずだ」

そこまでして隠さないといけない理由ってなんなんだろう。
けれど蔭木課長にとってはそれだけ、深刻な問題なのだ。

「……わかりました」

私の言葉で、びくっと彼の肩が跳ねた。

「離婚は保留します。
入籍したその日に離婚とか、スピード離婚にしても早すぎますもんね」

ふふっと小さく笑ったら、彼の空気が少し緩んだ。

「……でも」

私が真顔に戻り、蔭木課長もビシッと背筋を正す。

「約束は守ってくださいね。
私を幸せにしてくれるんでしょう?
少しでも不幸にしたら……」

ごくり、と蔭木課長の喉仏が動いた。

「……即離婚、ですからね」

薄らと笑い、私にできる精一杯で高圧的に見下してやる。
蔭木課長はこくこくと壊れた人形のように頷いていた。

帰りはタクシーで送ってくれた。

「これは翠が持っていてくれ」

例の、婚姻届受理証明書が挟まれたフォルダーが差し出される。

「次、別れたくなったときは、容赦なくそれを破いて渡してくれ」

これは蔭木課長なりの覚悟、なんだろうか。
なんだかちょっと可笑しい。

「わかりました。
お預かりしておきます」

それを受け取り、バッグの中へとしまった。

「明日からドイツへ出張なんだ。
しばらく会えない」

こつ、こつ、と蔭木課長の右手が、隣りあう私の左手に当たる。

「できるだけ電話もするし、LINEもする」

その手は一瞬、私の手を掴んだけれど、私の指がびくんと反応した途端にさっと離れた。

「土産はなにが欲しい?
翠が欲しいもの、なんでも買ってきてやる」

もう一度触れた手は、今度はこわごわ指を絡めてくる。
ぎゅーっと強く握られるその手を、そっと握り返した。

「お土産なんていいですよ。
お仕事、頑張ってきてください」

「ん」

それっきり蔭木課長は黙ってしまい、着くまで無言で私の手を握っていた。

「送ってくださり、ありがとうございました」

マンションの前でタクシーを降りる。
蔭木課長は突っ立ったまま、なにも言わない。

「じゃあ、おやすみなさい」

なにを考えているのかわからない彼に心の中で小さくため息をつき、その場をあとにしようとした、ら。

「翠」

いきなり手を引っ張られ、ぎゅっと抱き締められた。

「愛してる。
おやすみ」

身を屈めた彼が、ちゅっと私の唇に口付けを落とす。

「……おやすみなさい」

「ん」

今度こそ、ひらひらと手を振る彼に見送られてマンションに入る。
どきどきと落ち着かない心臓の鼓動は、私が男慣れしていないから?

お風呂に入り、ばふんと仰向けにベッドへ寝転んだ。

「怒濤の一日だったな……」

高く上げた左手薬指には、指環が光っている。
それを見てもまだ、現実味はない。

「秘密の結婚、か……」

蔭木課長はなにを隠しているのだろう。

「あー、やめやめ!」

考えるとドツボにはまりそうなのでやめた。
それに前向きに考えたら、それはまるで自分の書いている小説のようで、ネタにできるかもしれない。

「うん、もうこれは楽しむしかないでしょ!」

無理矢理にでもそう思ってみる。
そうじゃないときっと、この結婚生活はやっていけない……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...