極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第5章 婚約者とか言わないで!

5.こんなの、嬉しい

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「うー、身体痛い……」

さすがに、ソファーで夜明かしした翌日はつらい。
少し動くだけで身体がバキバキ鳴る。

「寝不足?」

「えっ、あっ、昨日、携帯小説読みながらソファーで寝落ちちゃって……」

椅子を寄せて訊いてきた中尾さんに、適当なことを言って誤魔化した。
それに、ソファーで寝落ちたのは嘘じゃない。

「ほんとに?
昨日、美月ちゃんが國方マネージャーに連れていかれたって噂になってるよ。
しかも婚約者だとか」

「はいーっ!?」

嘘。
待って、なんで?
って、終わり時間が一緒だった人たちが多数通過していくあそこであれだと、一発ですね……。

「誤解ですよ、誤解。
私、あの人と結婚する気なんてこれっぽっちもないですから」

「ふーん。
ま、詳しい話はお昼ごはん食べながら訊かせてもらうから」

「うっ」

椅子を離し、中尾さんは仕事を再開した。
さらに面倒なことになったとは思うが、これはある意味、いいチャンスかも。
中尾さんは情報通だが、悪い噂だけは流さない。
反対に、デマの類いは知り得た限りの正しい情報を流して否定してくれる。
だから彼女に本当のことを言えば、もしかしたら國方マネージャーも迂闊に私に近づけなくなるかも。
少しだけ希望が見えて、キーを打つ手が軽くなる。

「美月さん。
ごめん、会議室にお茶ひとつ、いいかな」

「はい、わかりました」

ひとつくらいなら、ご自分で淹れてもいいんですよ、なんて中年男性社員にツッコみながら席を立つ。
給湯室でお茶を淹れたものの、ふと首を傾げた。
ひとつって来客じゃないのかな……?

「失礼します」

指定された会議室の中では、蔭木さんが窓から外を見ていた。

「ああ、ありがとう」

私を見てにっこりと笑い、そのまま横を通過してドアまで行く。
そしてカチリと鍵をかけた。

「……翠」

後ろからぎゅっと、彼が私を抱き締める。

「遅くなって、すまない」

上から降ってくる声は、後悔でいっぱいだった。

「どう、したんですか。
予定より早いし、それに」

身体に回る彼の腕を掴む。
するとますます、その腕に力が入った。

「予定繰り上げて朝一の飛行機で帰ってきた。
それで、店で調べたいことがあるからって、少しだけ出てきた」

「そんな無理、しなくても」

「あんな翠、放っておけないだろ」

見上げると、レンズの向こうの泣きだしそうな瞳が見えた。
ゆっくりと顔が降りてきて、ちゅっと唇を触れさせて離れる。

「思ったよりも元気そうでよかった」

私を腕の中に閉じ込めたまま、彼は離してくれない。

「昨日、蔭木さんの声を聞いたら少し元気になれました。
それに、いまも」

まさか、わざわざ時間を作って会いに来てくれるだなんて思わなかった。
どうせ今晩、家に来るんだろうに。

「よかった」

「あのー」

「ん?」

少し首を傾け、私をのぞき込む。

「お時間はいいんですか」

「ああ、そうだな」

頬に口付けし、ようやく蔭木さんは私を離した。

「翠の淹れてくれたお茶を飲んだら、本部に戻る」

椅子を引き、私にも座るように促す。
向かいあって座り、彼は私が置いた湯飲みに口を付けた。

「翠の淹れてくれたお茶は旨いな」

ずっ、と本当に美味しそうに彼がお茶を啜る。

「そんなことないですよ。
普通です」

「いや。
ここに来るとき、翠の淹れてくれたお茶を飲むのが楽しみなんだ」

そんなことを楽しみにしているなんて、変な人だ。
お茶の話をしながら、さっきから感じていた違和感の正体に気付いた。

「今日、香水付けてないんですか」

いつもなら甘いけれどどこかセクシーな香りがしているのだ。
でも今日は、ない。

「この間、香に移り香で疑われただろ?
また翠に匂いを移して疑われたら大変だからな」

当然のように言っているが、そんなことまで考えてくれているんだ。
そういう小さな心遣いが、嬉しい。

「ん、ごちそうさま。
じゃあ、また夜な」

ちゅっとまた私に口付けし、蔭木さんは会議室を出ていった。

「……あ。
お礼、言い忘れた」

ちゃんと自分の気持ちを伝えられない自分が嫌になる。

「今日はお礼に、ジャガイモのグラタンを作ろう」

蔭木さんに食べに連れていってもらってから、試行錯誤してきた。
大好きだって言っていたし、作ったら喜んでくれるかな。
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