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第6章 初めてのデート。しかもお泊まり
5.きっかけ
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食事のあとは、部屋に付いているテラスで空に浮かんだ満月を眺めていた。
「飲むか?」
蔭木さんの手には、食前酒に出たお酒の瓶が握られている。
「あー、……少しだけ」
決めてはきたものの、いざとなると緊張してしまう。
もう少しだけ酔って、勢いを付けた方がいいかも。
「わかった」
すぐにグラスを用意し、蔭木さんはお酒を注いでくれた。
「可愛い翠に」
ちょっとグラスを上げて、彼が一気に中身を飲み干す。
「……いただきます」
反対に私は、ちびちびと中身のお酒を飲んだ。
「……翠に会って俺の世界が変わった、って言っただろ」
「……はい」
蔭木さんは手持ち無沙汰にグラスをぐるぐると回している。
「あの日、やっぱりあいつのせいで店に行った。
俺と寝た女に、泥棒猫、雌豚とか罵るあいつと、こうなることがわかってて寝た癖に、しくしくと泣く女を褪めた目で見ていた」
いつ、のことだろう。
心当たりが多すぎてわからない。
それほどまでに音成さんの起こす騒ぎは多いのだ。
「話がついて、女も出ていったし、あいつも友達と約束があるって帰った。
友達っていっても、はべらせている男だっていうのは知っていたさ。
なんで俺、こんなことをしているんだろうって虚しくなって、ぼーっと外を見ていたら、片付けに入ってきたのが翠だった」
その日のことは記憶がある。
いつもの騒ぎ、ヘラヘラ笑ってそれを見ている御曹司。
でも、片付けに入った応接室に立っていたのは、幽霊みたいに、生気がない男だった。
「後悔するならしなきゃいい、と言われたな」
ふっ、と自虐するように笑い、グラスの中身を蔭木さんが呷る。
「あと、あなたが思っているほど、人はあなたに関心がない」
そんな失礼なこと……言った。
本当にあのときの蔭木さんは、消えてしまいそうだったから。
「救われたんだ、それで。
次期トップとして、常に周りからの視線にさらされてきた。
後継者にふさわしい実績を見せろ。
婚約者をコントロールするのも実力のうち。
嫌で嫌で仕方なかった」
こぽこぽとグラスを酒に注ぐ音が、静かな夜に響く。
「でも、翠の言葉で救われた。
肩が急に軽くなった。
自分が思っているほど、あの人たちは俺に関心がない。
だから俺も、気にする必要はない。
そう気付いたら、それまで閉じていた世界が、一気に広がった」
蔭木さんのひとり語りは続いていく。
喉が渇いたのか、彼はグラスを口に付けた。
「あいつに反抗するのも馬鹿馬鹿しくなってやめた。
それよりも翠が欲しい。
翠だけが欲しい。
そう、願うようになっていた」
真っ直ぐに彼が私を見る。
その瞳は少しも揺るがず、私だけを映していた。
「こんなにひとりに執着したのは初めてだった。
翠が欲しい。
なんとしてでも。
それであんなことをした。
……すまなかったと思っている」
すっ、と彼の視線が逸れる。
それは本当に後悔しているようだった。
「……私は」
渇いた喉が貼り付き、言葉を出すのを阻害する。
グラスの酒で少し湿らせ、再び口を開いた。
「あんなことをされたのは少し……いやかなり、怒りはありましたけど。
でも、蔭木さんの事情を知って納得もできました。
それにいまは、蔭木さんが、好き、だから」
「翠……」
彼の声は湿気を含んでいた。
「……ありがとう」
蔭木さんの手が、私の手を掴む。
私もその手を握り返した。
ちびちびとお酒を飲みながら、どうでもいい話を続ける。
「なあ。
今日、神社でなんのお願いした?」
手酌で酒を注ぎ、一息に蔭木さんは飲み干した。
「えっと……」
誤魔化すように残りの酒を一気に空ける。
すぐに彼が、私のグラスと自分のグラスに酒を注いだ。
「俺は早く、翠と俺の子が欲しいとお願いした。
……できれば、三人」
またくいっ、とお酒を全部飲み、新たな酒でグラスを満たす。
「三人……」
そんなに欲しいんだ、なんてことはいまは言わないでおく。
「翠はなにをお願いしたんだ?」
目をあわせるのが怖いのか、彼はこっちを見ない。
そしてグラスがまた、空になって満たされる。
さっきから妙に、ピッチが速い気がするけれど、気のせいだろうか。
「わ、私、は」
「うん」
先の言葉を促すように、グラスの酒を呷る。
「幸せな家庭が築けますように、って。
か……紘太朗、さん、と、いつか生まれる子供と、三人で」
酔いが回ったのか、身体が熱い。
蔭木さん――紘太朗さんは黙ったまま、なにも言わない。
「子供は、ひとりか?」
「あ、紘太朗さんが、欲しいっていうなら、三人、でも」
「よかった」
ようやくこちらを見た彼が笑う。
見ているこっちすら、幸せにするような顔で。
「じゃあ、いまから。
……子作り、するか」
「あ、うん。
そぅ、ですね」
うっ、声が裏返った。
緊張しているの、バレバレ。
「おいで」
紘太朗さんに導かれてベッドへと向かう。
そっと、押し倒された。
「……いいか」
さっき確認したというのに、そっと頬を撫でてまた、彼は訊いてきた。
「……はい」
頷くと、唇が重なる。
――そして。
「……あっ、やぁっ、……あたま、ぐちゃぐちゃになる……!」
顔を見られたくなくて腕で隠す。
けれど。
「もっと可愛い翠の顔、見せてくれ」
紘太朗さんの手が、私の腕をベッドに縫い留める。
「やぁっ……」
「涙まで流して、可愛いな、翠は」
唇で紘太朗さんが涙を拭った。
それだけでまた、体温を上げていく。
「……紘太朗さん」
「ん?」
「愛して、……!」
言い終わらないうちに、噛みつくように唇を塞がれた。
さらに彼が、私の中をかき乱していく。
「そんなことを言われたら、止められない」
また、彼が私の身体を揺らしはじめた。
あの日と違い、ひたすら快楽に溺れていく。
何度も何度も求められ、私はついに、意識を手放した――。
「飲むか?」
蔭木さんの手には、食前酒に出たお酒の瓶が握られている。
「あー、……少しだけ」
決めてはきたものの、いざとなると緊張してしまう。
もう少しだけ酔って、勢いを付けた方がいいかも。
「わかった」
すぐにグラスを用意し、蔭木さんはお酒を注いでくれた。
「可愛い翠に」
ちょっとグラスを上げて、彼が一気に中身を飲み干す。
「……いただきます」
反対に私は、ちびちびと中身のお酒を飲んだ。
「……翠に会って俺の世界が変わった、って言っただろ」
「……はい」
蔭木さんは手持ち無沙汰にグラスをぐるぐると回している。
「あの日、やっぱりあいつのせいで店に行った。
俺と寝た女に、泥棒猫、雌豚とか罵るあいつと、こうなることがわかってて寝た癖に、しくしくと泣く女を褪めた目で見ていた」
いつ、のことだろう。
心当たりが多すぎてわからない。
それほどまでに音成さんの起こす騒ぎは多いのだ。
「話がついて、女も出ていったし、あいつも友達と約束があるって帰った。
友達っていっても、はべらせている男だっていうのは知っていたさ。
なんで俺、こんなことをしているんだろうって虚しくなって、ぼーっと外を見ていたら、片付けに入ってきたのが翠だった」
その日のことは記憶がある。
いつもの騒ぎ、ヘラヘラ笑ってそれを見ている御曹司。
でも、片付けに入った応接室に立っていたのは、幽霊みたいに、生気がない男だった。
「後悔するならしなきゃいい、と言われたな」
ふっ、と自虐するように笑い、グラスの中身を蔭木さんが呷る。
「あと、あなたが思っているほど、人はあなたに関心がない」
そんな失礼なこと……言った。
本当にあのときの蔭木さんは、消えてしまいそうだったから。
「救われたんだ、それで。
次期トップとして、常に周りからの視線にさらされてきた。
後継者にふさわしい実績を見せろ。
婚約者をコントロールするのも実力のうち。
嫌で嫌で仕方なかった」
こぽこぽとグラスを酒に注ぐ音が、静かな夜に響く。
「でも、翠の言葉で救われた。
肩が急に軽くなった。
自分が思っているほど、あの人たちは俺に関心がない。
だから俺も、気にする必要はない。
そう気付いたら、それまで閉じていた世界が、一気に広がった」
蔭木さんのひとり語りは続いていく。
喉が渇いたのか、彼はグラスを口に付けた。
「あいつに反抗するのも馬鹿馬鹿しくなってやめた。
それよりも翠が欲しい。
翠だけが欲しい。
そう、願うようになっていた」
真っ直ぐに彼が私を見る。
その瞳は少しも揺るがず、私だけを映していた。
「こんなにひとりに執着したのは初めてだった。
翠が欲しい。
なんとしてでも。
それであんなことをした。
……すまなかったと思っている」
すっ、と彼の視線が逸れる。
それは本当に後悔しているようだった。
「……私は」
渇いた喉が貼り付き、言葉を出すのを阻害する。
グラスの酒で少し湿らせ、再び口を開いた。
「あんなことをされたのは少し……いやかなり、怒りはありましたけど。
でも、蔭木さんの事情を知って納得もできました。
それにいまは、蔭木さんが、好き、だから」
「翠……」
彼の声は湿気を含んでいた。
「……ありがとう」
蔭木さんの手が、私の手を掴む。
私もその手を握り返した。
ちびちびとお酒を飲みながら、どうでもいい話を続ける。
「なあ。
今日、神社でなんのお願いした?」
手酌で酒を注ぎ、一息に蔭木さんは飲み干した。
「えっと……」
誤魔化すように残りの酒を一気に空ける。
すぐに彼が、私のグラスと自分のグラスに酒を注いだ。
「俺は早く、翠と俺の子が欲しいとお願いした。
……できれば、三人」
またくいっ、とお酒を全部飲み、新たな酒でグラスを満たす。
「三人……」
そんなに欲しいんだ、なんてことはいまは言わないでおく。
「翠はなにをお願いしたんだ?」
目をあわせるのが怖いのか、彼はこっちを見ない。
そしてグラスがまた、空になって満たされる。
さっきから妙に、ピッチが速い気がするけれど、気のせいだろうか。
「わ、私、は」
「うん」
先の言葉を促すように、グラスの酒を呷る。
「幸せな家庭が築けますように、って。
か……紘太朗、さん、と、いつか生まれる子供と、三人で」
酔いが回ったのか、身体が熱い。
蔭木さん――紘太朗さんは黙ったまま、なにも言わない。
「子供は、ひとりか?」
「あ、紘太朗さんが、欲しいっていうなら、三人、でも」
「よかった」
ようやくこちらを見た彼が笑う。
見ているこっちすら、幸せにするような顔で。
「じゃあ、いまから。
……子作り、するか」
「あ、うん。
そぅ、ですね」
うっ、声が裏返った。
緊張しているの、バレバレ。
「おいで」
紘太朗さんに導かれてベッドへと向かう。
そっと、押し倒された。
「……いいか」
さっき確認したというのに、そっと頬を撫でてまた、彼は訊いてきた。
「……はい」
頷くと、唇が重なる。
――そして。
「……あっ、やぁっ、……あたま、ぐちゃぐちゃになる……!」
顔を見られたくなくて腕で隠す。
けれど。
「もっと可愛い翠の顔、見せてくれ」
紘太朗さんの手が、私の腕をベッドに縫い留める。
「やぁっ……」
「涙まで流して、可愛いな、翠は」
唇で紘太朗さんが涙を拭った。
それだけでまた、体温を上げていく。
「……紘太朗さん」
「ん?」
「愛して、……!」
言い終わらないうちに、噛みつくように唇を塞がれた。
さらに彼が、私の中をかき乱していく。
「そんなことを言われたら、止められない」
また、彼が私の身体を揺らしはじめた。
あの日と違い、ひたすら快楽に溺れていく。
何度も何度も求められ、私はついに、意識を手放した――。
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