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第2章 可愛いってからかってるんですか?
8.毎日のお迎え
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「雪花」
終業時間になり、今日もはるくんが職場まで迎えにきた。
「冬月ー、今日も彼氏がお迎えにきてるぞー」
ニヤニヤ笑っているのは佐々木さんだけじゃなく、部内の男性はほぼ全員だ。
女性からはちくちく刺さる痛い視線が。
ここしばらくではるくんが私を迎えにくるのは、総務部名物になってしまった。
「その。
迎えにこなくても大丈夫なので」
シートベルトを締めつつ、軽く抗議する。
でもはるくんには全く効いていない。
「僕が迎えにいきたいだけだ。
なにか問題があるのか」
大ありです、なんて言えたらいいんだけど。
私にそんな勇気はない。
「でも、毎日お迎えとかお仕事大丈夫なんですか?」
この二週間で迎えにこなかったのは、接待が入っていた二回だけだ。
はるくんのいる営業統括本部は全事業部の営業部を束ねる場所で、社内でも一、二位を争う激務だって聞いている。
そんなところの課長が、毎日定時に私を迎えにきて帰宅するんだよ?
心配になるに決まっている。
「雪花は優しいな。
でも気にすることはない。
そもそも、残業なんて無能がすることだ」
うっ、耳が痛い。
月末を来週に控えたいま、残業が増えていっている。
それでまた、はるくんをお待たせすることになるわけで。
しかもはるくんはそのまま総務にいて待っているし。
おかげで焦ってミスを連発、さらに遅くなるという悪循環を繰り返している。
「あの、終わったら連絡するので、どこかで待っていてくれた方が助かります……」
「なぜ?
僕は仕事が終わったら一刻も早く雪花に会いたい。
それのなにが悪い?」
どうしてそんなに、少しの時間を惜しんでまで私に会いたいのかな。
あれかな、私をからかって愉しんでいる?
それ以外、考えられない。
「とにかく。
迎えにくるのだけはやめてください。
いろいろ困るので」
「なにが困るんだ?」
なにが? って。
あれだけ見ていて気づかないのかな。
男性社員のからかいはまだいいけど、女性の妬みの視線とか。
残業のときにはるくんのおかげでミス連発とか。
「困るものは困るんです。
だから、お願いします」
「……わかった。
考慮しとく」
しぶしぶといった感じではあったけどそう言ってもらえてこれで明日からは安心かな、って思ったんだけど……。
翌日もはるくんと一緒に出勤した。
今日はきっと迎えにこないって思うだけで気が軽い。
昼間の仕事はとにかく、私にとって安らげる時間。
はるくんに振り回されない、気にしなくていい。
地味に、本来の自分で過ごせるのでのびのびできる。
「あ」
頼まれて会議室の準備をしていたら、隣の部屋からはるくんの声が聞こえてきた。
低い、長身からくるよく通る声。
顔だけじゃなくはるくんはイケボだ。
「怒ってる、のかな……?」
壁越しに「こんなやり方は古い」とか、「こんな会議は無駄だ」なんて激しい声が聞こえてくる。
忘れていたわけじゃないけど、はるくんは会社では怖い人で有名だ。
「怒らせないように気をつけよう……」
そんなことを誓いつつ、準備が終わって会議室を出た。
会議が終わったと聞き、今度は片付けに降りる。
「全く、話にならん!」
隣の部屋――はるくんがいた部屋のドアがバン!と勢いよく開き、顔を真っ赤にしたおじさんが足音荒く出ていった。
「なんだろ、あれ……」
それを皮切りにそちらも会議が終わったらしく人が出てくる。
人波をかき分けてその奥の会議室に行く勇気はなくて、そのまま立って人がいなくなるのを待つ。
「夏原は上層部をないがしろにしすぎだ。
自分がやることがなんでも正しいと思うなよ」
「昔ながらのやり方はそれなりに理由があるんだ。
それを無駄?
何様だ、貴様」
エレベーター前で年配の男性陣はブツブツと文句を言いあっている。
「今日も夏原課長はおっかなかったな」
「でも、あの人の言うことに間違いはない。
見たか、老人どもの顔」
でも、後ろの方の若い社員達はこそこそと話しながら笑いあっていた。
エレベーターが到着し、ほとんどの人がいなくなる。
「どういうことなのかな……?」
ようやく人がいなくなったので隣の会議室へ入ろうとしたら、はるくんが出てきた。
何者も寄せ付けない、張り詰めた空気、なにもかもを凍らせてしまいそうなほど冷たい目。
仕事中のはるくんは私が知っている彼とは全く違った。
はるくんは私に気づかないまま去っていく。
いなくなってようやく、ほっと詰めていた息を吐き出した。
それほどまでにはるくんが――怖かったから。
「まるで別人だ……」
きっとはるくんは過去にしがみつく人たちと戦っている。
だから会社では気が抜けない。
私の前ではあんなに甘い顔なのが不思議だけど。
そして、終業時間がやってくる。
終業時間になり、今日もはるくんが職場まで迎えにきた。
「冬月ー、今日も彼氏がお迎えにきてるぞー」
ニヤニヤ笑っているのは佐々木さんだけじゃなく、部内の男性はほぼ全員だ。
女性からはちくちく刺さる痛い視線が。
ここしばらくではるくんが私を迎えにくるのは、総務部名物になってしまった。
「その。
迎えにこなくても大丈夫なので」
シートベルトを締めつつ、軽く抗議する。
でもはるくんには全く効いていない。
「僕が迎えにいきたいだけだ。
なにか問題があるのか」
大ありです、なんて言えたらいいんだけど。
私にそんな勇気はない。
「でも、毎日お迎えとかお仕事大丈夫なんですか?」
この二週間で迎えにこなかったのは、接待が入っていた二回だけだ。
はるくんのいる営業統括本部は全事業部の営業部を束ねる場所で、社内でも一、二位を争う激務だって聞いている。
そんなところの課長が、毎日定時に私を迎えにきて帰宅するんだよ?
心配になるに決まっている。
「雪花は優しいな。
でも気にすることはない。
そもそも、残業なんて無能がすることだ」
うっ、耳が痛い。
月末を来週に控えたいま、残業が増えていっている。
それでまた、はるくんをお待たせすることになるわけで。
しかもはるくんはそのまま総務にいて待っているし。
おかげで焦ってミスを連発、さらに遅くなるという悪循環を繰り返している。
「あの、終わったら連絡するので、どこかで待っていてくれた方が助かります……」
「なぜ?
僕は仕事が終わったら一刻も早く雪花に会いたい。
それのなにが悪い?」
どうしてそんなに、少しの時間を惜しんでまで私に会いたいのかな。
あれかな、私をからかって愉しんでいる?
それ以外、考えられない。
「とにかく。
迎えにくるのだけはやめてください。
いろいろ困るので」
「なにが困るんだ?」
なにが? って。
あれだけ見ていて気づかないのかな。
男性社員のからかいはまだいいけど、女性の妬みの視線とか。
残業のときにはるくんのおかげでミス連発とか。
「困るものは困るんです。
だから、お願いします」
「……わかった。
考慮しとく」
しぶしぶといった感じではあったけどそう言ってもらえてこれで明日からは安心かな、って思ったんだけど……。
翌日もはるくんと一緒に出勤した。
今日はきっと迎えにこないって思うだけで気が軽い。
昼間の仕事はとにかく、私にとって安らげる時間。
はるくんに振り回されない、気にしなくていい。
地味に、本来の自分で過ごせるのでのびのびできる。
「あ」
頼まれて会議室の準備をしていたら、隣の部屋からはるくんの声が聞こえてきた。
低い、長身からくるよく通る声。
顔だけじゃなくはるくんはイケボだ。
「怒ってる、のかな……?」
壁越しに「こんなやり方は古い」とか、「こんな会議は無駄だ」なんて激しい声が聞こえてくる。
忘れていたわけじゃないけど、はるくんは会社では怖い人で有名だ。
「怒らせないように気をつけよう……」
そんなことを誓いつつ、準備が終わって会議室を出た。
会議が終わったと聞き、今度は片付けに降りる。
「全く、話にならん!」
隣の部屋――はるくんがいた部屋のドアがバン!と勢いよく開き、顔を真っ赤にしたおじさんが足音荒く出ていった。
「なんだろ、あれ……」
それを皮切りにそちらも会議が終わったらしく人が出てくる。
人波をかき分けてその奥の会議室に行く勇気はなくて、そのまま立って人がいなくなるのを待つ。
「夏原は上層部をないがしろにしすぎだ。
自分がやることがなんでも正しいと思うなよ」
「昔ながらのやり方はそれなりに理由があるんだ。
それを無駄?
何様だ、貴様」
エレベーター前で年配の男性陣はブツブツと文句を言いあっている。
「今日も夏原課長はおっかなかったな」
「でも、あの人の言うことに間違いはない。
見たか、老人どもの顔」
でも、後ろの方の若い社員達はこそこそと話しながら笑いあっていた。
エレベーターが到着し、ほとんどの人がいなくなる。
「どういうことなのかな……?」
ようやく人がいなくなったので隣の会議室へ入ろうとしたら、はるくんが出てきた。
何者も寄せ付けない、張り詰めた空気、なにもかもを凍らせてしまいそうなほど冷たい目。
仕事中のはるくんは私が知っている彼とは全く違った。
はるくんは私に気づかないまま去っていく。
いなくなってようやく、ほっと詰めていた息を吐き出した。
それほどまでにはるくんが――怖かったから。
「まるで別人だ……」
きっとはるくんは過去にしがみつく人たちと戦っている。
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私の前ではあんなに甘い顔なのが不思議だけど。
そして、終業時間がやってくる。
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