蜜婚遊戯~ファーストキスから溺愛されています~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 好きだなんて自覚したくなかった

5.地味ね

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旅行に行った翌週末は、結納を兼ねた両家の顔合わせだった。

「なあ、雪花。
陽人さんがお前の会社の御曹司って本当か」

会場の豪華なホテルに、父も、母も、今日のために帰ってきた兄夫婦も場違いだとばかりにそわそわしっぱなしだ。

「うん、本当。
私も向こうの両親に会うまで知らなかったけど」

「と、いうことは親御さんはあの、FoSの社長なんだよな……。
だいたい、雪花がFoSに勤めること自体、ありえないと思ってたのに……」

はぁーっと父が魂の抜け出るようなため息を吐き、苦笑いしかできない。
私だってまさか、自分の会社の御曹司と結婚することになるなんて思いもしなかった。
それも、ファーストキスの責任を取るなんて理由で。

「なにか粗相したらどうしよう……。
俺ひとりの責任ならいいが、会社にまで迷惑かけて倒産とかなったら……」

「親父、腹括れ。
オレはもしものときのために、退職願書いて会社の引き出しに入れてきた」

晩翠ばんすい……」

父と兄は肩を叩きあっているが、さすがに心配しすぎだよね。
兄、晩翠の奥さん、夏花なつかさんなんて呆れちゃっているし。
ちなみに今日は向こうの親御さんに預けてきた娘の名前は心春こはるちゃんで、次に子供が生まれたら秋にちなんだ名前にして家族で四季を揃えるのが目標らしい。

「あ、もう向こうも揃ったみたい」

ドアのところに立っていたはるくんが頷き、私も頷き返す。
部屋の中へ入っていく父と兄はまるで、死刑場に向かう罪人のようだ。

「本日は我々のためにご足労いただき、ありがとうございます」

爽やかにはるくんが挨拶し、奇声こそ発しなかったが母と夏花さんの目がハートになった。
さすが、社内一のモテ男だよね。

今日はさっきも言ったように、私の家族は両親と兄夫婦。
はるくん側はご両親と弟さん夫婦、それに妹さん。
弟さんと妹さんははるくんと違い、系列の別会社で役職に就いている。
長男のはるくんだけ、実力を測るために一般社員として働いているらしい。

「地味ね」

はるくんの妹――涼美すずみさんの一言で、その場が凍りついた。
はるくんの四つ下の涼美さんは兄妹らしくよく似ていて、モデルと間違われてもおかしくないくらい美人だ。

「すーずーみー」

はるくんの低い声がテーブルの上を這っていく。
でも。

「だって、地味だもの」

涼美さんはものともせず、跳ね返してしまった。

今日の私、……地味、かな?

結納はしないことになったけど、それでも母は成人式のときの振り袖を着せてくれた。
しかも、せめて着物くらいは派手にしないと、と揃えた真っ赤な振り袖を。
髪もちゃんとセットしてもらったし、今日は可愛い雪花で許すってはるくんが言うからお化粧だってちゃんとしてもらい、眼鏡だって細縁アンダーリムの方にした。
なのにそんなに強調するほど、地味ですか?

「陽人兄さんの結婚相手だからどんな美女が来るかと思ったんだけど、地味よ、地味。
今日は着飾ってきたみたいだけど、着物だけが浮いてる」

涼美さんは行儀悪く、テーブルに頬杖をついた。
父も兄もおろおろするばかり。

それにしても着物だけが浮いている、か……。
そこまで言われると否定できない。
だって、もともと地味子だもん。
はるくんが可愛いって可愛がってくれて、自信がついても。

「確かに今日の雪花はよくない!
せっかくの可愛い顔が派手な着物に負けている」

今度ははるくんまで声高に肯定してきた。
もう、ちょっと泣きそうだよ……。

「でもちゃんとすれば雪花は可愛いんだ。
我が社一の美女、いや、世界一の美女だ!」

自信満々にはるくんが言い切る。
夏花さんとはるくんの弟、青葉あおばさん夫婦はなぜか、小さく拍手していた。

「あっ、そー」

興味なさげにそれだけ言い、涼美さんが向きを変えて壁を見る。

「なんだ、もういいのか?
どれだけ雪花が可愛いか、これから存分に話してやるつもりだったのに」

「もういい。
それに父さんと母さんが賛成なら、もう私に口出しする権利なんかないし。
好きにやって」

ひらひらと手を振り、バッグから携帯を出して涼美さんは操作をはじめた。

「許してやってください。
こいつ、陽人兄さん大好きっ子だから」

苦笑いしながら青葉さんがフォローしたけれど。

「うっさい、青葉」

涼美さんはばっさりと切って捨てる。
でも青葉さんはちょっと、肩をすくめただけだった。

「僕は親のいいところなどなにひとつ受け継がずこのように平凡な容姿ですが、陽人兄さんは違う。
小さいときから涼美自慢の兄でした。
その兄さんが結婚するんです、拗ねてるんですよ」

邪険に涼美さんに扱われても笑っている青葉さんは、はるくんのふたつ下。
自分でも言うように派手な顔の、家族の中では唯一地味だった。
いや、家族と比べればってだけで、地味一家のうちの兄よりも断然イケメンだけど。

「だからうっさい、青葉」

今度噛みついた涼美さんにさっきの勢いはない。
顔もほのかに赤くなっている。
これは青葉さんの言うとおりなのかな。

「僕としては兄さんの結婚に賛成です。
もし、立場の違いを気にしてらっしゃるのなら問題ない。
僕の妻は町の定食屋の娘ですから」

目配せしあったふたりが小さく笑う。
それはとても幸せそうで、私には眩しかった。
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