前世の婚約者ってなんですか?~溺愛御曹司と甘い現世生活~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 気になるのは……

3.好きだよ、愛してる

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「涼鳴、ごめんねー!」

帰ってきた清人さんがいきなり抱きついてくる。

「ごめんね、今日もいっぱい、酷いこと言ってー!」

打ち合わせのあった日は、こうやっていつも家で詫びてくれるんだけど……。
会社モードの姿でうっすら涙さえ浮かべてあやまられると、ギャップが凄くてときどきついていけなくなる。

「お仕事だったんだから仕方ないですよ」

「涼鳴、やさしー!」

眼鏡が汚れるのなんてかまわずに、清人さんはあたまをぐりぐり胸に押しつけ甘えてきた。

「ほら、着替えてきてください、ごはんにしましょう?
その間に温めておきますし」

「うん、そうだね。
遅くなったから涼鳴、お腹空いちゃってるもんね」

「はい」

やっと私から顔を離し、にぱっと笑った清人さんの顔から眼鏡を抜き取る。
サイドテーブルに常備してある眼鏡拭きを取って、それをきれいに拭いてあげた。

「はい」

眼鏡を両手で支え、彼にかけさせてあげる。

「涼鳴が拭いてくれるのが、一番きれいになるんだよねー」

清人さんは上機嫌だが、そんなことがあるはずがない。

「じゃあ、着替えてくるね」

「はい、その間に準備しときます」

清人さんが自分の部屋へ消えていくのを見送り、私もキッチンへ向かう。
いままではこんなにあとであやまってくるなら、会社であんな態度を取らなきゃいいのに、とか思っていた。
でも、今日は会社であのおじさんたちを見てなんとなく清人さんの立場を理解したから。

「さてと」

今日はお手伝いさんが来てくれる日だったから、晩ごはんは温めるだけでいい。
ラップのかかっている器を慎重に、貼られているメモの通りに電子レンジへかけていく。

「涼鳴ー、なんか手伝うー?」

「じゃあ、運んでください」

「わかったー」

しばらくしてスエットパンツに長袖Tシャツとラフな格好に着替えた清人さんが姿を現した。
当然、髪は崩してあるし、眼鏡は銀縁ハーフリムから黒縁ウェリントンへチェンジだ。

「いただきます」

今日の晩ごはんはきのこの炊き込みご飯にきのこスープ、それに豆腐のきのこあんかけと鮭ときのこの包み焼きと、きのこづくしのメニューだ。

「仕事はどう?」

「どこかの会社のお仕事以外、順調ですよ」

「……涼鳴、意地悪」

ジト目で眼鏡の上の隙間から清人さんが睨んでくる。

「でも今日は残念だったね。
せーっかく氷見ひみがいなくなったから、涼鳴とゆっくり話せると思ったのに」

本当に残念だったのか、若干いじけモードで清人さんはちみちみとご飯を食べている。
氷見、というのは秘書のことだ。

「えっと。
なんで氷見さんがいなくなったらゆっくり話せるんですか……?」

今日一瞬、おうちモードの優しい清人さんだった理由は理解したけれど。
でも、それに氷見さんが関係しているのがわからない。

「あいつ、本部から派遣されてきているお目付役なんだ。
僕がなにか変なことしないかいちいちチェックして、柴山専務に報告してる」

「それは……」

おじさんたちの会話で会社の清人さんは大変そうだと感じた。
でも、一番近くにいる秘書がそれって、思った以上だ。

「ほんとは涼鳴ともっと楽しく仕事したいし、涼鳴だけじゃなく付き合いのある業者とは仲良くしたいんだけど。
でも、僕には許されてないからさー。
あー、ヤダヤダ」

清人さんは本気で嫌そうだ。
大会社の御曹司で若社長なんて楽そうだな、なんて思っていたけど、実際はかなり苦労が多そうだ。

「その。
私にできることがあったらするので、なんでも言ってください」

「なんでも?」

きゅるんと眼鏡の下で清人さんの瞳が光り、しまったと思った。

「で、できる範囲、で」

若干、引きつった顔で曖昧な笑みを浮かべる。

「じゃあさ、週末、僕とデート、しよ?」

可愛く小首を傾げ、清人さんが提案してきた。

「デート、ですか?」

「そ、デート。
涼鳴をうーんと可愛くして、デートしたい」

「それくらいだったら……」

もっと無茶なことをお願いされるのではと心配していた。

――身体の関係、とか。

でも意外なお願いで拍子抜けした。

「やったー」

小さな子供のように清人さんは喜んでいる。
なんだかそれが、とても可愛く見えた。

食後にコーヒーを飲みながら、リビングでまったり過ごす。
どんなに忙しくても一日最低三十分、こうやってふたりで過ごそうって取り決めだ。

「涼鳴はマニキュア、塗らないのー?」

そう言って、私の指先にちゅっ。

「えっ、あっ」

私の爪は短く切ってあるだけで当然、整えたりしていない。

「僕は爪だけじゃなく、涼鳴にもっときれいにしてもらいたいな。
この髪もきれいだけどさ、もっともーっと可愛くしたい」

うっとりと笑った清人さんの唇が私の唇にちゅっと触れた。
それでフリーズすることはなくなったけど、それでもまだ全身が熱くなる。

「週末、エステ予約しておくからさ。
僕のために可愛い涼鳴になってデート、しよ?」

「えっと……」

清人さんは勧めてくれるけれど、まず、店員さんと意思の疎通を図るのが困難なわけで。
そもそも、私なんて素材をいくら磨いたところで代わり映えがしようもない。

「いいお店、予約しとくからさ……」

レンズの向こうから清人さんがじっと私を見ている。
ゆっくりと顔が近付いてきて唇が重なった。
じれったそうに何度か啄んで唇が離れる。

「涼鳴」

少し掠れた声が私の名前を呼ぶ。

「好きだよ、愛してる」

するりと私の頬を撫で、立ち上がる清人さんを間抜けにもただ見つめていた。

「じゃ、僕はまだ仕事があるから部屋に行くね。
おやすみ、涼鳴」

彼が私のあたまをぽんぽんし、リビングを出ていく。
いなくなってようやく、我に返った。

「はぁぁぁぁーっ」

魂が抜けるような息を吐き出し、ソファーに崩れる。

「『好きだよ、愛してる』、か」

ひと月ほど一緒に暮らし、私が清人さんに好意を持っているのは確かだ。
でもそれは彼が私に対して持ってくれているものとは違う……と、思う。
私はいつか、彼の思いに応えることができるんだろうか……?
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