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6.やっぱり帰る!
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次の日。
ひとりで行くっていう私に、千草はひかる歯科までついてきた。
病院の中に私を押し込んで、
「がんばって」
と背中を叩くと会社に戻っていった。
「都築さーん」
すぐに順番になって診察室に呼ばれた。
やっぱり椅子に座ると、器具を準備するがちゃがちゃという音やコップに水がじゃーっと入る音がドナドナを盛り上げる。
「じゃあ、今日は右上の親知らず、抜きますね」
椅子が倒されて和久井先生の顔が上に見えた。
……マスクはずしてもイケメンだったけど。
マスクして、目元だけしか見えない方がもっとイケメンに見える。
あ、なんかどきどきするんだけど。
いやいや、これは歯を抜くのが怖いからで。
「相当痛い麻酔なしで激痛に襲われながら抜くのと、結構痛い麻酔して痛くなく抜くの、どっちがいいですか?」
レンズの奥の瞳が、愉悦を含んで歪む。
……やっぱりこいつは、変態ドS眼鏡だ。
抵抗して、別の病院行くべきだった。
「どっちも嫌です。
というか帰ります」
「んー?
椅子に縛り付けた方がいい?」
「帰る!」
起きあがろうとしたら、思いっきり押さえつけられた。
細く見えるくせに、意外と力、強い。
よく見たら結構腕、筋肉付いてる。
着やせするタイプなんだろうか。
「はーい、おとなしくしてくださいねー。
冗談ですよ、なるべく痛くないように麻酔してあげますから」
「……」
涙目で睨みつけると、余裕な顔してた。
というか、あきらかに喜んでる。
変態ドS眼鏡!!
「小学生でも我慢できること、できないんですか?」
「……」
莫迦にしたようにそんなこと云われると、おとなしくなるしかない。
「じゃあ、麻酔しますねー」
仕方なく、椅子に身体を預けて口を開ける。
ちくっ、どころか容赦なくぶすっとささった針に泣きそうになった。
しかも一回だけじゃなくて何度も。
「あーあ。
泣きそうな顔して。
可愛いね」
麻酔の注射が終わると、なぜか和久井先生はゴム手袋とマスクをはずした。
間近に見える、口元のほくろ。
「リラックス、リラックス。
あとはもう、痛いことなんてないから」
髪を撫でる手がなぜか気持ちよくて、落ち着いていく。
「ん?」
見上げると、レンズ越しにあった目が優しく笑った。
「そろそろ麻酔、効いてきたかな」
軽く私のあたまをぽんぽんすると、和久井先生は椅子を立ってどこかにいってしまった。
戻ってきたときには手袋とマスクを再び装着してたから、手を洗いに行ってたのかな。
「口、開けて」
比較的素直に口を開けると、器具をつっこまれた。
一番奥の親知らずだから、ずっと大きく口を開けてるのは疲れたけど、和久井先生の腕はいいのか、ぜんぜん痛くなく歯は抜けた。
「がんばったご褒美」
脱脂綿噛んで血が止まるのを待ってる私に、マスクをはずすと和久井先生はおでこに口付けしてきた。
「……んんー!」
「ん?
治療が全部終わるまで、こっちへのキスはお預けだよ?」
長い指で私の唇をちょんちょんすると、楽しそうに和久井先生が笑う。
……滅茶苦茶顔が熱い。
おかげで血がどばって出た気がする。
どきどきと早い心臓の鼓動。
いや、これはだいっきらいな歯医者にいるからで。
吊り橋効果なんだから、勘違いするな、私ー!!!!!
【終】
ひとりで行くっていう私に、千草はひかる歯科までついてきた。
病院の中に私を押し込んで、
「がんばって」
と背中を叩くと会社に戻っていった。
「都築さーん」
すぐに順番になって診察室に呼ばれた。
やっぱり椅子に座ると、器具を準備するがちゃがちゃという音やコップに水がじゃーっと入る音がドナドナを盛り上げる。
「じゃあ、今日は右上の親知らず、抜きますね」
椅子が倒されて和久井先生の顔が上に見えた。
……マスクはずしてもイケメンだったけど。
マスクして、目元だけしか見えない方がもっとイケメンに見える。
あ、なんかどきどきするんだけど。
いやいや、これは歯を抜くのが怖いからで。
「相当痛い麻酔なしで激痛に襲われながら抜くのと、結構痛い麻酔して痛くなく抜くの、どっちがいいですか?」
レンズの奥の瞳が、愉悦を含んで歪む。
……やっぱりこいつは、変態ドS眼鏡だ。
抵抗して、別の病院行くべきだった。
「どっちも嫌です。
というか帰ります」
「んー?
椅子に縛り付けた方がいい?」
「帰る!」
起きあがろうとしたら、思いっきり押さえつけられた。
細く見えるくせに、意外と力、強い。
よく見たら結構腕、筋肉付いてる。
着やせするタイプなんだろうか。
「はーい、おとなしくしてくださいねー。
冗談ですよ、なるべく痛くないように麻酔してあげますから」
「……」
涙目で睨みつけると、余裕な顔してた。
というか、あきらかに喜んでる。
変態ドS眼鏡!!
「小学生でも我慢できること、できないんですか?」
「……」
莫迦にしたようにそんなこと云われると、おとなしくなるしかない。
「じゃあ、麻酔しますねー」
仕方なく、椅子に身体を預けて口を開ける。
ちくっ、どころか容赦なくぶすっとささった針に泣きそうになった。
しかも一回だけじゃなくて何度も。
「あーあ。
泣きそうな顔して。
可愛いね」
麻酔の注射が終わると、なぜか和久井先生はゴム手袋とマスクをはずした。
間近に見える、口元のほくろ。
「リラックス、リラックス。
あとはもう、痛いことなんてないから」
髪を撫でる手がなぜか気持ちよくて、落ち着いていく。
「ん?」
見上げると、レンズ越しにあった目が優しく笑った。
「そろそろ麻酔、効いてきたかな」
軽く私のあたまをぽんぽんすると、和久井先生は椅子を立ってどこかにいってしまった。
戻ってきたときには手袋とマスクを再び装着してたから、手を洗いに行ってたのかな。
「口、開けて」
比較的素直に口を開けると、器具をつっこまれた。
一番奥の親知らずだから、ずっと大きく口を開けてるのは疲れたけど、和久井先生の腕はいいのか、ぜんぜん痛くなく歯は抜けた。
「がんばったご褒美」
脱脂綿噛んで血が止まるのを待ってる私に、マスクをはずすと和久井先生はおでこに口付けしてきた。
「……んんー!」
「ん?
治療が全部終わるまで、こっちへのキスはお預けだよ?」
長い指で私の唇をちょんちょんすると、楽しそうに和久井先生が笑う。
……滅茶苦茶顔が熱い。
おかげで血がどばって出た気がする。
どきどきと早い心臓の鼓動。
いや、これはだいっきらいな歯医者にいるからで。
吊り橋効果なんだから、勘違いするな、私ー!!!!!
【終】
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