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第3章 私の時間、あなたの時間
2.初出勤
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目が覚めたら朝だった。
「おはよう」
「……おはよう」
私の髪を一房取り、そこにちゅっと朔哉は口付けを落とした。
昨日と同じ手順を踏んで身支度を調える。
今日はレースの掛け衿が付いた朱い着物だったけど、裾は子供用の姫浴衣みたいなスカート状になっていた。
「……こんなの、どこで知ったの?」
「秘密」
昨日の着物といい、今日の着物といい。
こんなの、コスプレかイラストでしか見ないよ。
朝食が済んで、昨日の鳥居の前に立つ。
「うか様のお住まいは日本でいうところの京都なんだけど。
これを使えばすぐだからね」
昨日は場所の説明なんかなかったから、近くなんだと思っていた。
だって、歩いて十分もかからずに着いたから。
本当はそんなに遠いんだ。
「今日は、っていうか毎日送り迎えは私がするよ」
「えっ、いいよ!
朔哉だってお仕事あるんだし!!」
「私がしたいからいいんだよ」
……やっぱり朔哉は、凄く過保護だ。
私が人間だから、いろいろ心配なのかな。
目隠しする前に、朔哉は白のふりふりエプロンを私に着けてくれた。
「お仕事、だからね」
見た目はちょっと、大正ロマンみたいで可愛い。
テンション、あがる。
「あと、この鈴はうか様になにか言われても着けてて。
いいね?」
「うん」
今日の私ももちろん、鈴付き。
うか様の屋敷で素顔の誰かに会ってしまわない防止でもある。
「じゃあ行こうか」
目隠しをしてもらい、朔哉に手を引かれて歩く。
鳥居を出たとおぼしき辺りで、今日も抱き抱えられた。
「おっ待たせー!」
昨日と同じと思われる部屋でうか様を待っていたら、朝からハイテンションで現れた。
「心桜の目隠し、外してあげてー」
すぐにするりと目隠しが外され、辺りが見えてくる。
うか様は昨日とはまた別の面だったけど、相変わらずキラキララメラメだった。
「なに?
朔哉に送られてきたの?
ひとりで来なさいよー」
「……ひとりだと、目隠しで目の見えない心桜が困りますので」
朔哉は静かに答えたけれど、必死に冷静を装っているのか声が少し震えていた。
「連絡くれたら出口まで迎えをよこすけどー?
それなら目隠し無しできても問題ないし?
はい、そういうわけで明日から、心桜はひとりで来ること!」
「はい」
「……はぁーっ」
朔哉の口から諦めのため息が落ちる。
きっとうか様にはなにを言ったって無駄なのだろう。
会うのはまだ二度目だけど、私も悟ってしまった。
「はーい、じゃあ心桜はお預かりしました。
お昼過ぎには帰すから、朔哉はさっさと帰った、帰った」
しっ、しっとうか様が朔哉を追い払う。
「……わかりましたよ。
じゃあ心桜、なにかあったらすぐに呼ぶんだよ?
頑張ってね」
「はい」
見るからに仕方ないって感じでおもむろに朔哉は腰を上げ、部屋を出ていった。
昨日はあんなに大丈夫だって言い切って見せたくせに、いなくなると不安になる。
「さて。
いまから心桜にやってもらうことだけど……」
「はい」
姿勢を正し、うか様を見つめる。
高校生時代はアルバイトなんてしたことなかった。
これが、初めての仕事。
ちょっとだけわくわくする。
――パンパン!
うか様が手を叩き、やはり面を着けた、巫女装束の人たちが重そうに段ボール箱を抱えて入ってきた。
どさどさと置かれたそれは、軽く十箱を超えている。
「これ。
過去の願い帳なんだけど。
このままだと保管場所に困るから、データにしてしまいたいのよね。
全部入力してもらえるかな?」
すっと、目の前の応接テーブルの上にノートパソコンが置かれる。
「これ全部、ですか……?」
「そう、全部。
簡単な作業だし、できるよね?」
簡単な作業なんだろうけど。
いまだに次々に、段ボールが運び込まれているんですが……。
「……ちなみに、何年分くらい?」
「とりあえず、百年分?」
いまとりあえずって言いましたか、とりあえずって!!
先が思いやられるけど、やるしかないんだよね……。
これがうか様が私に課した、試練なんだし。
「わかりました。
やります」
「上等」
ニヤリと、うか様の口もとが歪んだ。
「じゃあ、お願いねー。
あ、この部屋には誰も入らないように言っておくから大丈夫。
なにあったときは呼んでね」
簡単に入力の仕方を説明し、うか様は部屋を出ていった。
「……頑張りますか」
運び込まれた箱は部屋の大半を占め、圧迫してきて息苦しい。
これを全部なんて途方に暮れてしまうが、やるしかないのだ。
箱の中身は和綴じの本になっていた。
ページを捲り、ひたすらカタカタとキーを叩く。
幸い、なのかブラインドタッチは得意だ。
隠していたわけじゃないが、高校では生徒会の書記をしていて毎日のようにキーを叩いていた。
それがこんなふうに役に立つなんて。
「どれくらい進んだー?」
突然、陽気なうか様の声が聞こえてきて、びくっと身体が震える。
手が止まったついでに顔を上げた。
「ようやく半箱、です」
キーを打つのは早いが解読が難航していた。
なんといっても崩し文字で書いてあるのだ。
読むのに時間がかかる。
「遅いなー」
そこしか見えていない、うか様の口がニヤニヤと意地悪く笑っている。
もしかして、もしかしなくてもこれって、私に対する嫌がらせなのだろうか。
「もうお昼だからそろそろ帰りなさい?
あ、朔哉にはひとりで帰らせるって連絡入れてるから」
「はい」
やりかけの分を保存してパソコンを落とす。
帰れ、はいいけれど、鳥居のところまでひとりで行っても大丈夫なのかな。
それにここまで目隠しありで来たから、どこにあるのかがわからない。
「ああ。
入り口まで案内をつけるから」
「ありがとうございます」
立ち上がると、腰に付けた鈴がチリンチリンとうるさく鳴った。
「なにその鈴。
猫みたい」
ケラケラとおかしそうにうか様が笑う。
確かにそうなんだけど、なんだか莫迦にされているみたいでムッとした。
「ちょうどいい。
……陽華ー」
「……はい、ここに」
入ってきた男の人はやはり、宜生さんと同じように神主さんの普段着みたいな格好だけど袴の色が違った。
宜生さんは紫に白の文様が入っているのだけど、この人は白袴。
そういえば、朔哉の家の人もいろんな色の袴を穿いているけど、なにか意味があるのかな。
帰ったら聞いてみよう。
「心桜を鳥居まで案内して。
うるさい鈴が付いてるから、誰も近づかないから」
「はい」
「よろしくお願いします……」
そういいながらも不安だった。
陽華さんはお出かけするときの私と同じように――目隠しをしていたから。
「大丈夫。
陽華にとってこの敷地内はもう、自分の庭だから」
うか様は興味なさげに、テーブルの上に置いたままだった、和綴じの本をぺらぺらと捲っていた。
「行きましょうか」
「……は、はい」
促されて、部屋を出る。
陽華さんは見えていないなんて嘘みたいに、すたすたと歩いていた。
「その。
……陽華さんも人間なんですか」
目隠しが必要な人など、この世界ではそれしか思いつかない。
「はい。
二十年前に偶然、迷い込みまして。
うか様に惚れて、そのときから置いていただいております」
ということは、三十過ぎくらいなのかな。
「陽華さんはうか様の……旦那さん、なんですか」
だって、神様は人間が子供の間しか会ってはいけないのだと言っていた。
だからこそ私は朔哉と結婚したのだ。
なら、陽華さんだって。
「まさか」
なぜか、くすくすと可笑しそうに陽華さんは笑った。
「僕がうか様の夫だなんて畏れ多い」
「でも……」
違うのならば、彼がこの年にになってもうか様の傍にいられることに説明がつかない。
「ああ。
子供のうちにしか神にまみえられないのをご存じなんですね。
簡単ですよ、神から眷属として認めてもらえばいいだけです」
「……はい?」
じゃあ私はもしかして、結婚する必要なんてなかったってこと?
「それでも、俗世は捨てなければなりませんけどね」
「そうなんですか……」
朔哉が私を眷属ではなく結婚して妻にしてくれたのは、もしかしたらいままで通り対等な立場にするためだったのかもしれない。
そうだと、いいな。
陽華さんは私の前を危なげなく歩いて行く。
よっぽど見えない生活に慣れているみたいだ。
彼がこれだけできるのなら、私だってやればできるんだろうか。
「いつも目隠しで生活しているんですか」
「ああ、これですか」
振り返った陽華さんが、するりと自分の目隠しを外す。
その下からは……酷い傷痕が現れた。
「うか様のご尊顔を拝するなどという間違いがあってはならないので、その手で抉っていただきました。
あのときほど恍惚とした気分になれたことは他には……あ、いえ」
こほんと咳払いして誤魔化したけれど。
もしかして陽華さんって変態さん!?
それに悪いけど、あのわがままなうか様に惚れ込んだとか。
うん、立派な変態さんだ。
「このとおり醜い傷痕が残ってしまいましたので、皆様を不快にさせないよう隠しております」
目隠しを結び直し、また陽華さんは歩きだした。
「あの、うか様の力で傷は治るんじゃ……?」
私が酷いやけどをして痕が残ってしまったとき。
朔哉が簡単に消してくれた。
朔哉にできるんだから、うか様にできないはずがない。
「そんな。
せっかくあの方からいただいた傷痕を消すなど……!」
若干、陽華さんの呼吸がはぁはぁと荒い。
おかげで一歩、後ろへ下がってしまった。
「私はこれで満足しているのです。
短い間ですが、精一杯お仕えさせていただきますよ」
まあ、幸せの形は人の数だけあるんだろうし、陽華さんがそれでいいのならいいんだろう。
けれど。
――短い間。
その言葉は鋭い棘になって私の胸に突き刺さった。
「おはよう」
「……おはよう」
私の髪を一房取り、そこにちゅっと朔哉は口付けを落とした。
昨日と同じ手順を踏んで身支度を調える。
今日はレースの掛け衿が付いた朱い着物だったけど、裾は子供用の姫浴衣みたいなスカート状になっていた。
「……こんなの、どこで知ったの?」
「秘密」
昨日の着物といい、今日の着物といい。
こんなの、コスプレかイラストでしか見ないよ。
朝食が済んで、昨日の鳥居の前に立つ。
「うか様のお住まいは日本でいうところの京都なんだけど。
これを使えばすぐだからね」
昨日は場所の説明なんかなかったから、近くなんだと思っていた。
だって、歩いて十分もかからずに着いたから。
本当はそんなに遠いんだ。
「今日は、っていうか毎日送り迎えは私がするよ」
「えっ、いいよ!
朔哉だってお仕事あるんだし!!」
「私がしたいからいいんだよ」
……やっぱり朔哉は、凄く過保護だ。
私が人間だから、いろいろ心配なのかな。
目隠しする前に、朔哉は白のふりふりエプロンを私に着けてくれた。
「お仕事、だからね」
見た目はちょっと、大正ロマンみたいで可愛い。
テンション、あがる。
「あと、この鈴はうか様になにか言われても着けてて。
いいね?」
「うん」
今日の私ももちろん、鈴付き。
うか様の屋敷で素顔の誰かに会ってしまわない防止でもある。
「じゃあ行こうか」
目隠しをしてもらい、朔哉に手を引かれて歩く。
鳥居を出たとおぼしき辺りで、今日も抱き抱えられた。
「おっ待たせー!」
昨日と同じと思われる部屋でうか様を待っていたら、朝からハイテンションで現れた。
「心桜の目隠し、外してあげてー」
すぐにするりと目隠しが外され、辺りが見えてくる。
うか様は昨日とはまた別の面だったけど、相変わらずキラキララメラメだった。
「なに?
朔哉に送られてきたの?
ひとりで来なさいよー」
「……ひとりだと、目隠しで目の見えない心桜が困りますので」
朔哉は静かに答えたけれど、必死に冷静を装っているのか声が少し震えていた。
「連絡くれたら出口まで迎えをよこすけどー?
それなら目隠し無しできても問題ないし?
はい、そういうわけで明日から、心桜はひとりで来ること!」
「はい」
「……はぁーっ」
朔哉の口から諦めのため息が落ちる。
きっとうか様にはなにを言ったって無駄なのだろう。
会うのはまだ二度目だけど、私も悟ってしまった。
「はーい、じゃあ心桜はお預かりしました。
お昼過ぎには帰すから、朔哉はさっさと帰った、帰った」
しっ、しっとうか様が朔哉を追い払う。
「……わかりましたよ。
じゃあ心桜、なにかあったらすぐに呼ぶんだよ?
頑張ってね」
「はい」
見るからに仕方ないって感じでおもむろに朔哉は腰を上げ、部屋を出ていった。
昨日はあんなに大丈夫だって言い切って見せたくせに、いなくなると不安になる。
「さて。
いまから心桜にやってもらうことだけど……」
「はい」
姿勢を正し、うか様を見つめる。
高校生時代はアルバイトなんてしたことなかった。
これが、初めての仕事。
ちょっとだけわくわくする。
――パンパン!
うか様が手を叩き、やはり面を着けた、巫女装束の人たちが重そうに段ボール箱を抱えて入ってきた。
どさどさと置かれたそれは、軽く十箱を超えている。
「これ。
過去の願い帳なんだけど。
このままだと保管場所に困るから、データにしてしまいたいのよね。
全部入力してもらえるかな?」
すっと、目の前の応接テーブルの上にノートパソコンが置かれる。
「これ全部、ですか……?」
「そう、全部。
簡単な作業だし、できるよね?」
簡単な作業なんだろうけど。
いまだに次々に、段ボールが運び込まれているんですが……。
「……ちなみに、何年分くらい?」
「とりあえず、百年分?」
いまとりあえずって言いましたか、とりあえずって!!
先が思いやられるけど、やるしかないんだよね……。
これがうか様が私に課した、試練なんだし。
「わかりました。
やります」
「上等」
ニヤリと、うか様の口もとが歪んだ。
「じゃあ、お願いねー。
あ、この部屋には誰も入らないように言っておくから大丈夫。
なにあったときは呼んでね」
簡単に入力の仕方を説明し、うか様は部屋を出ていった。
「……頑張りますか」
運び込まれた箱は部屋の大半を占め、圧迫してきて息苦しい。
これを全部なんて途方に暮れてしまうが、やるしかないのだ。
箱の中身は和綴じの本になっていた。
ページを捲り、ひたすらカタカタとキーを叩く。
幸い、なのかブラインドタッチは得意だ。
隠していたわけじゃないが、高校では生徒会の書記をしていて毎日のようにキーを叩いていた。
それがこんなふうに役に立つなんて。
「どれくらい進んだー?」
突然、陽気なうか様の声が聞こえてきて、びくっと身体が震える。
手が止まったついでに顔を上げた。
「ようやく半箱、です」
キーを打つのは早いが解読が難航していた。
なんといっても崩し文字で書いてあるのだ。
読むのに時間がかかる。
「遅いなー」
そこしか見えていない、うか様の口がニヤニヤと意地悪く笑っている。
もしかして、もしかしなくてもこれって、私に対する嫌がらせなのだろうか。
「もうお昼だからそろそろ帰りなさい?
あ、朔哉にはひとりで帰らせるって連絡入れてるから」
「はい」
やりかけの分を保存してパソコンを落とす。
帰れ、はいいけれど、鳥居のところまでひとりで行っても大丈夫なのかな。
それにここまで目隠しありで来たから、どこにあるのかがわからない。
「ああ。
入り口まで案内をつけるから」
「ありがとうございます」
立ち上がると、腰に付けた鈴がチリンチリンとうるさく鳴った。
「なにその鈴。
猫みたい」
ケラケラとおかしそうにうか様が笑う。
確かにそうなんだけど、なんだか莫迦にされているみたいでムッとした。
「ちょうどいい。
……陽華ー」
「……はい、ここに」
入ってきた男の人はやはり、宜生さんと同じように神主さんの普段着みたいな格好だけど袴の色が違った。
宜生さんは紫に白の文様が入っているのだけど、この人は白袴。
そういえば、朔哉の家の人もいろんな色の袴を穿いているけど、なにか意味があるのかな。
帰ったら聞いてみよう。
「心桜を鳥居まで案内して。
うるさい鈴が付いてるから、誰も近づかないから」
「はい」
「よろしくお願いします……」
そういいながらも不安だった。
陽華さんはお出かけするときの私と同じように――目隠しをしていたから。
「大丈夫。
陽華にとってこの敷地内はもう、自分の庭だから」
うか様は興味なさげに、テーブルの上に置いたままだった、和綴じの本をぺらぺらと捲っていた。
「行きましょうか」
「……は、はい」
促されて、部屋を出る。
陽華さんは見えていないなんて嘘みたいに、すたすたと歩いていた。
「その。
……陽華さんも人間なんですか」
目隠しが必要な人など、この世界ではそれしか思いつかない。
「はい。
二十年前に偶然、迷い込みまして。
うか様に惚れて、そのときから置いていただいております」
ということは、三十過ぎくらいなのかな。
「陽華さんはうか様の……旦那さん、なんですか」
だって、神様は人間が子供の間しか会ってはいけないのだと言っていた。
だからこそ私は朔哉と結婚したのだ。
なら、陽華さんだって。
「まさか」
なぜか、くすくすと可笑しそうに陽華さんは笑った。
「僕がうか様の夫だなんて畏れ多い」
「でも……」
違うのならば、彼がこの年にになってもうか様の傍にいられることに説明がつかない。
「ああ。
子供のうちにしか神にまみえられないのをご存じなんですね。
簡単ですよ、神から眷属として認めてもらえばいいだけです」
「……はい?」
じゃあ私はもしかして、結婚する必要なんてなかったってこと?
「それでも、俗世は捨てなければなりませんけどね」
「そうなんですか……」
朔哉が私を眷属ではなく結婚して妻にしてくれたのは、もしかしたらいままで通り対等な立場にするためだったのかもしれない。
そうだと、いいな。
陽華さんは私の前を危なげなく歩いて行く。
よっぽど見えない生活に慣れているみたいだ。
彼がこれだけできるのなら、私だってやればできるんだろうか。
「いつも目隠しで生活しているんですか」
「ああ、これですか」
振り返った陽華さんが、するりと自分の目隠しを外す。
その下からは……酷い傷痕が現れた。
「うか様のご尊顔を拝するなどという間違いがあってはならないので、その手で抉っていただきました。
あのときほど恍惚とした気分になれたことは他には……あ、いえ」
こほんと咳払いして誤魔化したけれど。
もしかして陽華さんって変態さん!?
それに悪いけど、あのわがままなうか様に惚れ込んだとか。
うん、立派な変態さんだ。
「このとおり醜い傷痕が残ってしまいましたので、皆様を不快にさせないよう隠しております」
目隠しを結び直し、また陽華さんは歩きだした。
「あの、うか様の力で傷は治るんじゃ……?」
私が酷いやけどをして痕が残ってしまったとき。
朔哉が簡単に消してくれた。
朔哉にできるんだから、うか様にできないはずがない。
「そんな。
せっかくあの方からいただいた傷痕を消すなど……!」
若干、陽華さんの呼吸がはぁはぁと荒い。
おかげで一歩、後ろへ下がってしまった。
「私はこれで満足しているのです。
短い間ですが、精一杯お仕えさせていただきますよ」
まあ、幸せの形は人の数だけあるんだろうし、陽華さんがそれでいいのならいいんだろう。
けれど。
――短い間。
その言葉は鋭い棘になって私の胸に突き刺さった。
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