12 / 23
第3章 私の時間、あなたの時間
4.私とあなたの時間
しおりを挟む
嫁いだ日から幾分かたった。
こちらは日付の感覚がないからわからない。
四季もないし。
屋敷の周りは桜が常に咲き乱れている庭もあれば、雪がしんしんと降り積もっている庭もある。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
朔哉から手に口付けをもらって、今日も私はうか様のところへ行く。
スピードは遅々として上がらないがそれでも、三十箱ほどが終わって部屋の中が少し、開放的になった。
「おはようございます」
今日も案内に陽華さんが待っている。
朔哉に袴の色のことを訊いたけど、格によって違うんだって。
紫に白紋の宜生さんは、眷属の中で一番偉いから。
陽華さんの白袴は、正式に眷属として認められていないから。
本当にそれでいいのか気になって陽華さんに訊いてみたのだけれど。
『僕はうか様のペットみたいなものなので。
それはそれで……』
はぁはぁと例のごとく陽華さんの息が荒くなり、それ以上訊くのはやめた。
「じゃあ、今日もよろしくー」
ちらっとだけ顔を出して、うか様はすぐに出ていく。
いつも、そう。
神様の普段着は好きにしていいらしいし、あの巫女装束じゃなくて女子高生みたいな格好すれば似合うんじゃないかって思うけど。
どうもあれはうか様の趣味らしい。
今日もひたすら、入力をしていく。
一角が崩れたとはいえ、まだまだ残りは多い。
なにせ、百年分だ。
「ねえ」
「うわっ」
唐突に声が聞こえ、思わず手が止まる。
おそるおそる顔を上げると、目の前にうか様が座っていた。
「前から訊きたかったんだけど。
あなた、朔哉のどこがいいの?」
その整えられた長い爪にマニキュアを塗り、ふーっと息を吹きかける。
「えっと」
「だから。
朔哉のどこがいいのって訊いてるの」
うか様の声に若干のいらだちが混じり、さらに小さくちっと舌打ちされた。
「優しいところ……です」
「それだけ?」
「え?」
それだけってなんですか?
「だから。
それだけかって訊いてるの」
せっかく綺麗にマニキュアを塗った爪を、うか様ががりがりとかじる。
なんでこんなに、イラつかれなきゃいけないんだろう。
「その。
格好良かったり、でも可愛かったり、たまに淋しそうだったり、それで心配しすぎってくらい私を心配して、大事にしてくれるから、私も朔哉を大事にしたいなと思っています」
「なにそれ、のろけ!?」
言えっていうから言ったのに、逆ギレされるなんて理不尽だ……。
「でもさ。
いくらあんたがそんなこと思ったって、朔哉と一緒にいられるのはせいぜいあと八十年なのよ?
たった、八十年!!
わかる?」
「わかって、ます……」
だからこそたまに、不安になる。
朔哉にとって私と一緒にいる時間は、ほんの僅かなんだって。
「わかってるならさっさといなくなって。
またあの子が泣くのは、嫌なの」
「え?」
「とにかく、さっさといなくなって。
いい?」
びしっと、人差し指をうか様が突きつけてくる。
いなくなれとか言われても、私にはもう帰る場所はない。
フン!と鼻から勢いよく息を吐き出してうか様は出ていった。
カタ、カタと力なくキーを叩く。
うか様に言われなくたってわかっている。
でもそんな私を朔哉は愛していると言ってくれた。
大事にしたいって。
きっと私が死んだら、朔哉はまたひとりぼっちになるのだろう。
朔哉をひとりにするのは想像するだけで、胸をばりばりと裂かれるくらい、……つらい。
「……朔哉」
自分から出た声は酷く鼻声で、慌てて鼻を啜る。
――けれど。
「心桜」
不意に後ろから、もう慣れ親しんでしまったぬくもりが私を包む。
「どうかしたのかい、そんなにつらそうな顔をして」
「朔哉……」
私を抱きしめる腕をぎゅっと掴みながらも後ろを振り返れない。
傍にいたいってわがままを言ったから、朔哉は私と結婚してくれた。
でもそれって私よりもずっと長い時を生きる朔哉にとって、つらい決断だったんじゃ。
今頃になって、そんなことに気づいてしまった。
「今日はもう、帰ろう。
うか様には私から詫びを入れておくから」
「でも……」
そんな気分じゃなくなったからと、職場放棄なんてしていいはずがない。
けれど朔哉は私を、抱き抱えてしまった。
「仕事ができる精神状態じゃない。
無理はしないと約束したはずだ」
「……うん」
甘えるように朔哉に抱きつく。
慰めるように軽く、朔哉の手がぽんぽんと背中を叩いた。
屋敷に帰り私をソファーに座らせた朔哉は、両手を握って視線をあわせるように私の前へしゃがみ込んだ。
「うか様からなにを言われた?」
「なにって……」
誤魔化そうとした。
けれど面の奥から群青と金の瞳が私をじっと見ている。
嘘は許さないかのように。
そもそも神様に、嘘はついてはいけない。
「朔哉と一緒にいられるのはほんの短い間なんだから、さっさと出ていけって……」
「それだけ?」
「朔哉が……また、泣くのは嫌だって」
そうだ、うか様は〝また〟と言ったのだ。
以前、同じようなことがあった?
「……はぁっ」
朔哉の口から落ちたため息は、諦めなのか呆れなのか、それとも悲しみなのかよくわからなかった。
「心配性だな、あの人も」
小さくははっと、朔哉が笑う。
「昔――まだ、お侍がいてちょんまげなんて結っていた頃。
一度だけ、妻を娶ったことがあるんだ」
私の隣へ座り、彼は肩を抱いて私を引き寄せた。
「不作が続いていてね。
口減らしもかねて供物として、少女がひとり差し出された。
興味もなかったし、そういう趣味のある神にでもやろうかと思ったんだ」
私の肩でもそもそと動く指は、どう話そうか悩んでいるかのようだ。
「でも連れてこられてしばらく観察していたら、恐ろしく鈍くさいんだよ。
なにもないところで転ける、食べるのは遅い、右って言っても左に行く。
だから差し出されたんだろうね。
でも。
――とびっきりいい顔で笑うんだ」
ふっ、と僅かに、朔哉の唇が緩む。
その子の笑顔を思い出しているのかもしれない。
「だから、妻にしたんだ。
といっても心桜みたいに正式じゃなく、おままごとの相手、かな。
でも凄く楽しかったんだ。
けれどそんな生活は長く続かなかった」
ぎゅっと、朔哉の手に力が入った。
「人間の一生がずっと短いものだって理解していた。
それでも、その子の一生はあまりにも短すぎた。
もともと身体が弱かったんだろうね、私の元へ来て三年で死んでしまった」
無意識に、朔哉の手を握っていた。
それほどまでに彼の声は深い悲しみに沈んでいたから。
「初めて泣いた。
この世の終わりかってくらい。
それからはもう、人間と関わるのはやめようって決めたんだ」
「……ならなんで」
「ん?」
「ならなんで、私を受け入れたの……?」
迷い込んでしまったあの日。
友達になろうなんて提案、拒否してしまえばよかったのだ。
いや、それ以前に傷の手当てなどせず、放り出してしまえば。
「……そうだな。
私を綺麗だと言ったのは、あの子に次いで心桜が二人目だったから」
泣きだしそうな朔哉の声は、あのときのことを後悔しているんだろうか。
なら、私はいまからでもうか様の言うとおり、いなくなった方が。
「心桜を妻に迎えたのは後悔していないよ。
たとえ短い間でも、心桜と一緒にいたいと願ってしまったから。
それに――」
「それに?」
途切れた言葉を不審に思い、朔哉の顔をのぞき込む。
けれど彼はなんでもないかのように笑った。
「とにかく。
きっと心桜が死ねば泣くだろうけど。
それでも私は、心桜と一緒にいたい。
心桜が傍にいるだけで幸せなんだ。
またひとりになっても、心桜の想い出があれば生きていけるよ」
「朔哉……」
「だから、私と一緒にいられる時間、目一杯私に愛され、愛してくれるかい?」
「……はい」
面の下から一筋、涙が流れ落ちてくる。
それをそっと、手で拭った。
朔哉の手も私の顔を挟み、親指で目尻を撫でた。
「目、つぶって。
絶対に開けちゃダメだよ」
「うん」
目を閉じると、唇が重なった。
このときは凄く幸せで、私が死ぬまでこの時間は続くんだろうと思った。
こちらは日付の感覚がないからわからない。
四季もないし。
屋敷の周りは桜が常に咲き乱れている庭もあれば、雪がしんしんと降り積もっている庭もある。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
朔哉から手に口付けをもらって、今日も私はうか様のところへ行く。
スピードは遅々として上がらないがそれでも、三十箱ほどが終わって部屋の中が少し、開放的になった。
「おはようございます」
今日も案内に陽華さんが待っている。
朔哉に袴の色のことを訊いたけど、格によって違うんだって。
紫に白紋の宜生さんは、眷属の中で一番偉いから。
陽華さんの白袴は、正式に眷属として認められていないから。
本当にそれでいいのか気になって陽華さんに訊いてみたのだけれど。
『僕はうか様のペットみたいなものなので。
それはそれで……』
はぁはぁと例のごとく陽華さんの息が荒くなり、それ以上訊くのはやめた。
「じゃあ、今日もよろしくー」
ちらっとだけ顔を出して、うか様はすぐに出ていく。
いつも、そう。
神様の普段着は好きにしていいらしいし、あの巫女装束じゃなくて女子高生みたいな格好すれば似合うんじゃないかって思うけど。
どうもあれはうか様の趣味らしい。
今日もひたすら、入力をしていく。
一角が崩れたとはいえ、まだまだ残りは多い。
なにせ、百年分だ。
「ねえ」
「うわっ」
唐突に声が聞こえ、思わず手が止まる。
おそるおそる顔を上げると、目の前にうか様が座っていた。
「前から訊きたかったんだけど。
あなた、朔哉のどこがいいの?」
その整えられた長い爪にマニキュアを塗り、ふーっと息を吹きかける。
「えっと」
「だから。
朔哉のどこがいいのって訊いてるの」
うか様の声に若干のいらだちが混じり、さらに小さくちっと舌打ちされた。
「優しいところ……です」
「それだけ?」
「え?」
それだけってなんですか?
「だから。
それだけかって訊いてるの」
せっかく綺麗にマニキュアを塗った爪を、うか様ががりがりとかじる。
なんでこんなに、イラつかれなきゃいけないんだろう。
「その。
格好良かったり、でも可愛かったり、たまに淋しそうだったり、それで心配しすぎってくらい私を心配して、大事にしてくれるから、私も朔哉を大事にしたいなと思っています」
「なにそれ、のろけ!?」
言えっていうから言ったのに、逆ギレされるなんて理不尽だ……。
「でもさ。
いくらあんたがそんなこと思ったって、朔哉と一緒にいられるのはせいぜいあと八十年なのよ?
たった、八十年!!
わかる?」
「わかって、ます……」
だからこそたまに、不安になる。
朔哉にとって私と一緒にいる時間は、ほんの僅かなんだって。
「わかってるならさっさといなくなって。
またあの子が泣くのは、嫌なの」
「え?」
「とにかく、さっさといなくなって。
いい?」
びしっと、人差し指をうか様が突きつけてくる。
いなくなれとか言われても、私にはもう帰る場所はない。
フン!と鼻から勢いよく息を吐き出してうか様は出ていった。
カタ、カタと力なくキーを叩く。
うか様に言われなくたってわかっている。
でもそんな私を朔哉は愛していると言ってくれた。
大事にしたいって。
きっと私が死んだら、朔哉はまたひとりぼっちになるのだろう。
朔哉をひとりにするのは想像するだけで、胸をばりばりと裂かれるくらい、……つらい。
「……朔哉」
自分から出た声は酷く鼻声で、慌てて鼻を啜る。
――けれど。
「心桜」
不意に後ろから、もう慣れ親しんでしまったぬくもりが私を包む。
「どうかしたのかい、そんなにつらそうな顔をして」
「朔哉……」
私を抱きしめる腕をぎゅっと掴みながらも後ろを振り返れない。
傍にいたいってわがままを言ったから、朔哉は私と結婚してくれた。
でもそれって私よりもずっと長い時を生きる朔哉にとって、つらい決断だったんじゃ。
今頃になって、そんなことに気づいてしまった。
「今日はもう、帰ろう。
うか様には私から詫びを入れておくから」
「でも……」
そんな気分じゃなくなったからと、職場放棄なんてしていいはずがない。
けれど朔哉は私を、抱き抱えてしまった。
「仕事ができる精神状態じゃない。
無理はしないと約束したはずだ」
「……うん」
甘えるように朔哉に抱きつく。
慰めるように軽く、朔哉の手がぽんぽんと背中を叩いた。
屋敷に帰り私をソファーに座らせた朔哉は、両手を握って視線をあわせるように私の前へしゃがみ込んだ。
「うか様からなにを言われた?」
「なにって……」
誤魔化そうとした。
けれど面の奥から群青と金の瞳が私をじっと見ている。
嘘は許さないかのように。
そもそも神様に、嘘はついてはいけない。
「朔哉と一緒にいられるのはほんの短い間なんだから、さっさと出ていけって……」
「それだけ?」
「朔哉が……また、泣くのは嫌だって」
そうだ、うか様は〝また〟と言ったのだ。
以前、同じようなことがあった?
「……はぁっ」
朔哉の口から落ちたため息は、諦めなのか呆れなのか、それとも悲しみなのかよくわからなかった。
「心配性だな、あの人も」
小さくははっと、朔哉が笑う。
「昔――まだ、お侍がいてちょんまげなんて結っていた頃。
一度だけ、妻を娶ったことがあるんだ」
私の隣へ座り、彼は肩を抱いて私を引き寄せた。
「不作が続いていてね。
口減らしもかねて供物として、少女がひとり差し出された。
興味もなかったし、そういう趣味のある神にでもやろうかと思ったんだ」
私の肩でもそもそと動く指は、どう話そうか悩んでいるかのようだ。
「でも連れてこられてしばらく観察していたら、恐ろしく鈍くさいんだよ。
なにもないところで転ける、食べるのは遅い、右って言っても左に行く。
だから差し出されたんだろうね。
でも。
――とびっきりいい顔で笑うんだ」
ふっ、と僅かに、朔哉の唇が緩む。
その子の笑顔を思い出しているのかもしれない。
「だから、妻にしたんだ。
といっても心桜みたいに正式じゃなく、おままごとの相手、かな。
でも凄く楽しかったんだ。
けれどそんな生活は長く続かなかった」
ぎゅっと、朔哉の手に力が入った。
「人間の一生がずっと短いものだって理解していた。
それでも、その子の一生はあまりにも短すぎた。
もともと身体が弱かったんだろうね、私の元へ来て三年で死んでしまった」
無意識に、朔哉の手を握っていた。
それほどまでに彼の声は深い悲しみに沈んでいたから。
「初めて泣いた。
この世の終わりかってくらい。
それからはもう、人間と関わるのはやめようって決めたんだ」
「……ならなんで」
「ん?」
「ならなんで、私を受け入れたの……?」
迷い込んでしまったあの日。
友達になろうなんて提案、拒否してしまえばよかったのだ。
いや、それ以前に傷の手当てなどせず、放り出してしまえば。
「……そうだな。
私を綺麗だと言ったのは、あの子に次いで心桜が二人目だったから」
泣きだしそうな朔哉の声は、あのときのことを後悔しているんだろうか。
なら、私はいまからでもうか様の言うとおり、いなくなった方が。
「心桜を妻に迎えたのは後悔していないよ。
たとえ短い間でも、心桜と一緒にいたいと願ってしまったから。
それに――」
「それに?」
途切れた言葉を不審に思い、朔哉の顔をのぞき込む。
けれど彼はなんでもないかのように笑った。
「とにかく。
きっと心桜が死ねば泣くだろうけど。
それでも私は、心桜と一緒にいたい。
心桜が傍にいるだけで幸せなんだ。
またひとりになっても、心桜の想い出があれば生きていけるよ」
「朔哉……」
「だから、私と一緒にいられる時間、目一杯私に愛され、愛してくれるかい?」
「……はい」
面の下から一筋、涙が流れ落ちてくる。
それをそっと、手で拭った。
朔哉の手も私の顔を挟み、親指で目尻を撫でた。
「目、つぶって。
絶対に開けちゃダメだよ」
「うん」
目を閉じると、唇が重なった。
このときは凄く幸せで、私が死ぬまでこの時間は続くんだろうと思った。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる