私の愛する悪い男【R18】

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 堕ちる

5.真相は当人にしかわからない

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百合恵は彼氏との待ち合わせ場所に急いでいた。

「おまたせ」

「うんにゃ」

笑う彼に百合恵も顔が綻ぶ。

警察官の彼とは、朝香の事件のときに知り合った。
忙しい合間を縫ってデートを重ね、近々、両方の両親に挨拶に行こうかなどと話している。

朝香が失踪して、一年が過ぎようとしていた。
あのあと、時任の葬儀は時任側の家族だけでおこなったと聞いている。
社長側、妻は遺体の引き取りすら拒否したらしい。

朝香と時任の不倫は、瞬く間に会社中に広まった。
さらには、時任夫婦の夫婦生活の実態も。

時任の妻は、時任におままごとの夫としての役割を強要した。
その中に性生活は含まれていない。

当然、妻は時任との身体の関係を拒否した。
けれど、子供は欲しがった。
おままごとに子供役は必要だ。

結局、父親は娘の望みを叶えるために、金を積んで人工授精の手段を取ったという話だ。
時任にはかなり、屈辱的なことだっただろう。

そういった妻だったから、夫が不倫していたと知ると、せっかく授かった子供をさっさと堕ろしてしまった。

『そんな人間の子供なんて欲しくない』

時任には悪いが、あのタイミングで死んでよかったのかもしれない。
愛する朝香の手で殺されて。

ふと思うのだ、時任は朝香を愛していたのではないかと。

朝香の性格からいってきっと、時任が結婚するときには別れを切り出したはずだ。
なのに、ふたりは不倫を続けていた。
来るものも拒まなかったが、去る者を追わなかった時任にしてはおかしな話だ。

もしかしたら朝香が時任に執着していたのではなく、時任が朝香に執着していたのかもしれない。

そう思うと、時任が哀れになってくる。

「時任」

耳に届いた、聞き覚えのある声に振り返る。
朝香と背格好のよく似た女が、雑踏へと消えていく。

……まさか、ね。

肩を竦め、気のせいだとあたまを振った。

「お昼、なに食べようか」

「なんでも百合恵の食べたいもの、奢ってやる」

「ほんと?」 

人ひとり殺した女があんなに幸せそうな顔をして、こんなところを歩いているはずがない。

彼氏の腕を取り、気を取り直すと百合恵は歩き出した。


【終】
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