憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第十一章 憧れの上司は重い彼氏でした

11-2

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「じゃあ、着替えて準備してきますね」

メイクもしてもらったのでいったん自分の部屋に帰ろうとしたものの。

「待て。
俺も行く」

「へ?」

私の部屋に来てなにをしようというんだろう?
龍志だって準備があるはずなのに。

「ほら、行くぞ」

「あっ、はい!」

しかし困惑する私をよそにすでに彼は玄関でサンダルをつっかけて待っており、慌てて立ち上がった。

「邪魔するぞー」

ドアの鍵を開けると彼はさっさと私の部屋に入っていき、迷わず寝室へ向かった。
さらにクローゼットの前に立ち、止める間もなく開けてしまう。

「おー、見事に七星らしいクローゼットだな」

それは褒めているのか貶しているのか判断に苦しむ。
が、貶しているような気がするのはなんでだろう?

困惑する私をよそに、龍志はごそごそと中を漁っている。

「なー、パンツばっかりだけど、スカートは抵抗ある人?」

「あー、いえ、なんとなく似合わない気がして……」

答えながらふと気づく。
「スカートは穿かないのか」ではなく「抵抗あるのか」と聞いてくれた。
これってもし、私がそうだと答えていたらスカートを無理に勧めないとかそういうことなのかな。

「モノトーンばっかりだけど、これはそういう趣味だからか?」

「そういうわけじゃないんですが、カラフルなのは似合わない気がして……」

「ふーん。
とりあえず、これな」

少しして振り返った彼が渡してきたのは、黒パンツと白のシャツワンピだった。

「えっと……」

「じゃ、俺も準備してくるから」

私に質問をする隙など与えず、彼がさっさと部屋を出ていく。

「……着替えるか」

ひとりになり、もそもそと服を着替える。
あの人は私のクローゼットなどチェックして、なにがしたかったのだろう?
あれか、デートなんだから自分の気に入る格好をさせたかったとか?

「……デート」

そこまで考えて、シャツワンピのボタンを留めていた手が止まる。
そうか、今日は私にとって初めてのデートなのか。
え、デートだっていうのにこんな地味な格好でいいの?
気づいた途端、わたわたとひとりで慌てた。
しかしいくら自分の手持ちの服を思い出したところで、デートに耐えられそうなのはこれくらいしかない。

「だからか……」

ついに私の口から重いため息が落ちていく。
これしかないから龍志はこれを選んで渡してくれたのだろう。
こんなことなら少しくらい、デート用の服を買っておけばよかった。
そもそも、昨日の今日なんて無理なのだ。
もし昨日、龍志と想いを通じあわせていなかったら……というか、今日がデートという事実に気づいていなければきっと、今日は可もなく不可もなくな白カットソーにデニムパンツだった可能性がある。
服を選んでくれた龍志には感謝だ。

「準備できたかー」

そのうち、玄関ドアがノックされて龍志の声が聞こえてきた。
ちなみに私には呼び鈴など押さずいつでも勝手に入ってこいって言う癖に彼は、私の部屋は必ず呼び鈴を鳴らすかノックをする。
謎だけれど、助かる。

「はーい!」

返事をして玄関まで行き、悩む。
これでいつものスニーカーだとデートというにはカジュアルすぎる気がする。
少ない靴のラインナップを眺めて、唯一持っているカラーパンプスにした。
ピンクベージュのこれなら浮かず、なおかつ可愛らしさもあるはず。

「お待たせしました」

ドアを開けるとこちらも準備を済ませた龍志が立っていた。
明るめの紺のカットソーに黒のジャケットとパンツをあわせ、足下はスニーカーで外して少しカジュアルさを演出している。
もしかして私がカジュアルな格好なのにあわせてくれたんだろうか。

「合格」

私の靴とバッグを見て彼がにやりと笑う。
バッグもベージュの小さめポシェットにしてよかった。

車で出ても駐車場に預けるのが面倒臭いし料金もそれなりにかかるので、電車で移動する。
彼は空いている席に私を座らせ、自分はその前に立った。

「今日は映画観て、メシ食って、そのあとは買い物な」

……龍志って、こんなに格好よかったっけ?

改めて顔を見ながら思う。
確かに前からイケメンだったが、なんか今は前より格好よく見える。
キラキラ輝いて見えるというか。
きっと、少女漫画だったら華やかな花を背負っているだろう。
それくらい、今日は彼が素敵に感じた。

「なあ、聞いてる?」

「は、はい!」

唐突に顔を近づけられ、慌てて返事をする。
まさか、ぼーっと顔を見ていましたなんて言えない。

「もしかして、俺が格好よくて見蕩れてた?」

意地悪く彼が右の口端を持ち上げ、かっと頬に熱が走った。

「そ、そんなわけ、あるわけないじゃないですか!」

反論しながらも図星なだけにまともに彼の顔を見られない。
ええ、ええ、私の彼氏、凄いイケメンだなーって見蕩れていましたが、なにか?

「そうか。
俺は七星が滅茶苦茶可愛く見えて、ぼーっと見蕩れないようにするのに必死だけどな」

眼鏡の奥で目を細めて彼がにっこりと笑い、顔から火が噴く思いがした。
それにたぶん、その場にいた全員が同じ思いだったに違いない。

電車を降りて駅を出たところで、さりげなく彼が私と手を繋いできた。
思わず顔を見上げると彼は不思議そうに少し首を傾げた。

「嫌か?」

問われてぶんぶんと首を横に振る。

「なら、いい」

彼が促して歩き出すので、私も歩き出す。
これでもかっ!ってくらい、全身が熱い。
きちんと制汗スプレーは振ってきたが、ぜんぜん効いていないんじゃないかというくらい、脇汗を掻いた。
どきどきと速い自分の心臓の鼓動が耳について、繋いだ手から彼に伝わるんじゃないかと心配になる。
手汗も掻いている気がして振り払いたくなったが、それで彼に嫌われたらどうしようと怖くてできなかった。
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