憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
54 / 79
第十一章 憧れの上司は重い彼氏でした

11-6

しおりを挟む
少し先でまた、龍志が足を止める。

「ここ、寄っていいか」

見上げたお店は宝飾店だった。
龍志は仕事中はもちろん、プライベートでもアクセサリーの類いはしない。
……たぶん。
今まで見たことがないし、今日もしていないし。
なのにここに寄りたいとは、私になにか買おうというのか?
しかしここ、プチプララインとはいえ、特別な日以外でプレゼントとしてもらうには気が引けるお値段で。
いや、今日は〝初めてのデート記念〟になるのか?
いやでも……。

「どうかしたのか?」

ぐるぐる悩んでいたら龍志に顔をのぞき込まれた。

「あっ、その。
一応、聞きますけど。
なにを見るんですか」

笑顔が引き攣らないように気を遣う。
せめてネクタイピンとかであってくれ!と願った。
……ここにそんなもの、売っているのか知らないけれど。

「あー、うん。
まあ、いいから入れ」

けれど彼は私に目的を答えず、強引に手を引っ張って店内に連れ込んだ。

「えっと……」

店内を見渡してから彼が私を連れていったのは、指環のコーナーだった。
……ペア、の。

「どれがいいかな……」

彼は真剣に悩んでいるが、ちょっと待って。
私に指環をプレゼントしたいというのならまだ理解する。
しかしペア、とは?

「そのー、龍志?」

困惑気味に声をかけられ、ようやく彼が私の顔を見た。

「ペアの指環が欲しいんですか?」

私だって欲しいか欲しくないかといえば、欲しい。
けれどいろいろ、すっ飛ばしている気がする。

「あー……」

長く発してどこか遠くを見たあと、照れているのか少し赤い顔でゆっくりと彼の視線が私へと戻ってきた。

「欲しい」

へらっと締まらない顔で笑われ、ずきゅん!と心臓が射貫かれた気がした。
いや、ずきゅんは古いか、昔の少女漫画じゃあるまいし。
しかし言葉にするならやはり、ずきゅんしかない。

「ほら、俺たちいろいろあってあれ、だろ?」

人前でディープな事情を話すのは憚られるので言葉を濁しながら、彼は再びショーケースの中へ視線を戻した。

「だから結婚指環の代わりになるものが早く欲しい、っていうか。
重いのはわかってるんだけどな」

ふふっと自嘲するように彼が笑い、ずくんと胸が鈍く痛んだ。
そうだ、私たちの未来に〝結婚〟は、ない。

「そう、ですね」

改めて彼の隣に立ち、一緒にショーケースをのぞく。

「私も欲しい……かも、です」

断言するのは気恥ずかしく、少しだけ濁して誤魔化した。
今できることは今やっておかなければきっと、そのときがきたときに後悔する。
だったら、ペアのリングは私だって、欲しい。

「よかった」

ほっとしたように彼が息をつく。
もしかしたら反対されるかもと不安だったのかもしれない。

指環を選ぶのに若干、揉めた。
だって龍志、やたらと高いものを選ぼうとするんだもの!

「なあ。
本当にこれでよかったのか?」

包んでもらった指環を手に店を出ながら、彼が心配そうに聞いてくる。

「いいんですよ、これで」

緩くウェーブしたリングにピンクゴールドのラインが入り、それにあわせて私のほうには数個のキュービックルジコニアが埋め込まれたそれは、シンプルながら可愛くて気に入った。

「ジルコニアじゃなくて、ダイヤのでもよかったんだぞ?」

「しつこいですね。
私がこれでいいって言ってるんだから、いいんですよ」

私の返事を聞き、彼がはぁっと諦めたようにため息をつく。

「遠慮すると思ってプチプラの店にしたのが失敗だったのか……?」

なにをそんなに悩んでいるのか知らないが、私としてはこれでよかったのだ。
彼の気持ちどおり、本気で結婚指環の代わりだとそれなりのものを買おうとしていたら拒否していただろう。
その気持ちは嬉しいし、そうやって彼と別れたあとも縛られ続けるのは本望だ。
でも、指環を見るたびにきっと、私はこんなものをもらっていながら彼とは結婚できなかったのだとつらくなるに違いない。
だったら、安手のもののほうがそのお値段分、気持ちも軽く済みそうな気がする。

「まあ、七星が納得してるんならいいか」

気を取り直したのか彼は私と手を繋いできた。

「あとはどうします?」

「んー、ちょうどいいか」

腕時計を見て龍志は時間を確認しているが、なにか予定でもあったんだろうか。

「ちょっとあと二軒ほど、行くところがあるんだ」

「はぁ……?」

釈然としないまま彼に連れられて歩く。
着いたのはスーツのレンタル店だった。

「予約している宇佐神です」

「お待ちしておりました」

こんなところになんの用事が……って、スーツを借りる以外の目的はない。
問題はなぜ、スーツを借りなければならないか、だ。

「ちょっと待っててくれ」

webサイトでも見てすでに選んであったのか、彼はスーツを手に更衣室へ入っていった。
仕方なく勧められた椅子に座り、出てくるのを待つ。

「どうだ?」

少しして彼が着替えて出てきた。

「別に悪くないと思いますが?」

「だよな」

鏡の前で何点か確認し、彼は満足げに頷いてそれを借りる手続きをした。
今まで着ていた服と靴は持ってきていたであろうエコバッグに入れられている。

「じゃあ、次行くぞ」

スーツのまま店を出た彼とさらに次とやらに向かう。
これから彼がスーツでなければいけない場所へ行くというのなら、白のシャツワンピに黒パンツ姿の私は当然、ドレスコードに引っかかるのだがいいのだろうか?
……という心配は到着したお店で解消された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「責任は取る。僕と結婚しよう」 隣にイケメンが引っ越してきたと思ったら、新しく赴任してきた課長だった。 歓迎会で女性陣にお酒を飲まされ、彼は撃沈。 お隣さんの私が送っていくことになったんだけど。 鍵を出してくれないもんだから仕方なく家にあげたらば。 ……唇を奪われた。 さらにその先も彼は迫ろうとしたものの、あえなく寝落ち。 翌朝、大混乱の課長は誤解していると気づいたものの、昨晩、あれだけ迷惑かけられたのでちょーっとからかってやろうと思ったのが間違いだった。 あろうことか課長は、私に求婚してきたのだ! 香坂麻里恵(26) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部営業 サバサバした性格で、若干の世話焼き。 女性らしく、が超苦手。 女子社員のグループよりもおじさん社員の方が話があう。 恋愛?しなくていいんじゃない?の、人。 グッズ収集癖ははない、オタク。 × 楠木侑(28) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部課長 イケメン、エリート。 あからさまにアプローチをかける女性には塩対応。 仕事に厳しくてあまり笑わない。 実は酔うとキス魔? web小説を読み、アニメ化作品をチェックする、ライトオタク。 人の話をまったく聞かない課長に、いつになったら真実を告げられるのか!?

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」 上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。 御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。 清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。 ……しかし。 清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。 それは。 大家族のド貧乏! 上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。 おっとりして頼りにならない義母。 そして父は常に行方不明。 そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。 とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。 子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。 しかも貧乏バラすと言われたら断れない。 どうなる、清子!? 河守清子 かわもりさやこ 25歳 LCCチェリーエアライン 社長付秘書 清楚なお嬢様風な見た目 会社でもそんな感じで振る舞っている 努力家で頑張り屋 自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている 甘えベタ × 御子神彪夏 みこがみひゅうが 33歳 LCCチェリーエアライン 社長 日本二大航空会社桜花航空社長の息子 軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート 黒メタルツーポイント眼鏡 細身のイケメン 物腰が柔らかく好青年 実際は俺様 気に入った人間はとにかくかまい倒す 清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!? ※河守家※ 父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない 母 真由 のんびり屋 長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味 次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標 三男 真(小五・10歳)サッカー少年 四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き 次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...