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第四章 絶体絶命のときに救ってくれるのは……

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私が少しずつしか話せないので時間は思いの外かかり、終わったときにはお昼を回っていた。

「ご協力、ありがとうございました。
絶対に犯人を捕まえます」

「……よろしくお願いします」

頭を下げる女性警官に、私も頭を下げ返す。
最後まで彼女は親身に、私の話を聞いてくれた。
あのときの警官とは違う。
だから、つらい体験だけれど、話せたんだと思う。

「なにかあったら私に連絡しろ。
それから、彼女がこんなにつらい思いをしてまで話したんだ、なにがなんでも捕まえろ」

「はっ、はい!
了解しました!」

勢いよく立ち上がり、女性警官はビシッと敬礼をした。
ここまで怖がるなんて、駒木さんが偉い人だからなのかな……。

「さ、花夜乃さん、行こうか。
お昼、なに食べたい?
花夜乃さんが食べたいもの、なんでも連れていってあげる」

私の腰を軽く抱き、行こうと駒木さんが促してくる。
それを女性警官は信じられないって目で見ているけれど、なんでだろうね……?

車に乗ってすぐ、駒木さんの携帯が鳴った。

「誰だろうね、まったく。
って、東本くんか」

鬱陶しそうにため息をついて、彼が電話に出る。

「はい。
……うん、うん。
……えーっ、花夜乃さんとゆっくりランチくらい食べさせてよ。
……うん、うん。
わかった、すぐに行くよ。
あ、ランチになにか買うくらいの時間は作ってよね。
じゃ」

電話を切った彼は、再び憂鬱なため息をついた。

「すぐに戻ってこいってさ。
悪いけど、どこかでなにか食べるものを買っていこう」

携帯をしまい、駒木さんが車を出す。

「あの、お仕事だったら……」

ここで降ろしてもらえたら、タクシーを使ってひとりで帰れる。

「ダーメ。
僕の仕事が終わるまで、待っててもらうよ」

けれどすぐに駒木さんが拒否された。

「あのマンションにひとりで帰せないからね。
わかった?」

「……はい」

子供に言い聞かせるように言われ、素直に頷いた。
それに正直に言えば、あの部屋に帰るのは怖い。

途中で駒木さんはテイクアウトのパスタと、コーヒーを買ってくれた。

「ごめんね、こんなので。
夜は美味しいところに連れていってあげるから許してね」

駒木さんは申し訳なさそうだが、私はこれでも十分ですが?
彼が私を連れてきたのは警視庁の中、さらに個室だった。

「えっと……」

「ごめん、僕は行ってくるから!
あとはなにかあったら東本くんに聞いて!
愛してるー」

私を部屋に案内し、駒木さんは投げキッスをしながら慌ただしく出ていった。
部屋の中に東本くんとふたり取り残され、完全に困惑した。

……なにかあったらって、今がすでになにかあっている状態ですが?

「あー……。
篠永も困るよな……」

東本くんも完全に困惑している。

「とりあえず、昼メシ食えよ。
お茶、淹れてくるな」

「あっ……」

応接セットに利用するように視線で言い、東本くんは駒木さんが出ていったのは別のドアから出ていった。
ひとりにされ、ますます困り果ててしまう。

「……とりあえず座るか」

ソファーに座り、買ってもらったお昼を広げる。
少ししてドアの付近で音がし、びくりと身を固くした。

……誰か、来る。

思い浮かんだのはあの、黒ずくめの男だった。
じっと、開いていくドアを見つめる。

「お待たせー」

しかし、入ってきたのは東本くんで警戒を解いた。
そうだよね、こんなところに入ってこられるわけがない。

「ん」

「ありがとう」

差し出されたお茶を、ありがたく受け取る。
彼は持ってきたノートパソコンを、私と向かいあって広げた。

「大変だったな、篠永。
いや、大変って言葉だけで済まされないけど」

「……ありがとう」

彼のそういう気遣いは相変わらずで、少し嬉しくなる。

「なにかあったら言ってくれ。
俺でよかったら力になるし。
てか、あの駒木警視がついてるならあれか」

自嘲するかのように彼が笑う。

「……うん。
駒木さんはよくしてくれるよ」

お試しで付き合っているだけなのに、こんなにしてもらって本当にいいのか、申し訳なくなる。
でも、今は彼に甘えるしかできない。
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