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霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 もう一緒に仕事はできないけれど

3-2

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「なんのお話でしょうか」

「まあ、座りなさい」

主任が応接セットのソファーを勧めてくるので、無言でそこに座る。

「その。
……真北くんとペアで回っていて、なにかあったか?」

言いにくそうに教務主任が聞いてきたのは、先程の同僚と同じ内容だった。
しかし、彼は同僚と違い、仕事の義務として聞いてきているので嫌悪感はなかった。

「別になにも。
主任も噂を信じているのですか?」

「噂はあくまでも噂だ。
しかし昨日、真北くんに確認したところ、否定はしなかった」

噂と事実は違うと考えている彼なら、真北くんから真実を聞けば納得してくれただろう。
もしかしたら火消しもしてくれたかもしれない。
なのになぜ、真北くんはそうしなかった?

「それに、辞めるというのならそういうことなのだろう」

うんうんと主任が頷き、それはあなたがそう仕向けたのではないかと口から出かかったが飲み込んだ。
きっと彼は退職を強要もしなかったが、引き留めもしなかった。
そんなところだろう。

「すぐに新しい助手を決め、次からはその人と回ってもらう。
そのつもりで」

「……はい、わかりました」

物わかりのよさそうな顔をして返事をし、部屋を出た。
真北くんはいったい、なにを考えている?
事実と違うのならば、否定すればいい。
なのになにも言わずに辞めるだなんて、……本当にセクハラしていた?
そんな考えが頭を掠め、速攻で否定する。
僕の知っている真北くんはそんな人間じゃない。
きっと、事情があるはずだ。
それに僕は、彼の力になりたいと思ったのだ。

真北くんと話をしなければと、聞いていた連絡先に会えないかとメッセージを送る。
幸い、ブロックはされていなかったらしく、すぐに既読がついた。

【会えません。
俺のことは忘れてください】

その文字を見て、カッとなった。
一方的に告白してきておいて、今度は一方的に忘れてくれ?
そんな虫のいい話、あるわけがない。

猛スピードで携帯の画面の上に指を滑らせ、文字を打ち込む。
説明もなしに逃げようなんて許されると思っているのか、とにかく一度会って話すまで、僕は諦めないからな。
それはもう、スパムレベルでいくつも立て続けにメッセージを送り続けた。
最初は無視されていたが、そのうち折れたらしい。
ここで待っていると場所を指定された。
けれどすぐに、迎えに行くからどこにいるか教えてほしいと前言撤回してきた。
きっと僕が、迷うと思っているのだろう。
そのとおりだし、わかっていてこうやって気を遣ってくれる彼が、やはりセクハラをしたとか信じられなかった。
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