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第4章 あなたの夢を叶えたい
5.玲の願い
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それから玲さんに指定された試験の日まで、ひたすら勉強した。
石塚さんにはせっかく用意してくれても気付かなくて無駄にしてしまうのは悪いので、私から声をかけない限り放って放っておいてもらうようにお願いした。
それでも、気付いたらマカロンやボンボンショコラが置いてあって、感謝しかない。
「じゃあ、帰ってくるまでに終わらせておくように」
試験は食堂でおこなわれた。
試験監督は石塚さん。
さすがに玲さんも忙しいGW中なのもあって、私に一日付き合うわけにはいかないらしい。
「それでは。
……はじめ!」
一日で四つの検定試験模試はかなり無理があるが、それが玲さんの指定だから仕方ない。
ひたすら集中して回答欄を埋めていく。
「終了です!」
「おわっ、た……」
もう、日はすっかり落ちていた。
「お疲れ様でした」
石塚さんが入れてくれたお茶を飲みながら、ちょっとだけ息をつく。
このまま気を抜いてしまいたいが、まだダメ。
このあと、玲さんとのフランス語実技試験が残っている。
「ただいま」
いつもどおり帰ってきた玲さんが私に唇に口付けを落とす。
「緊張しているのか」
唇が離れ、玲さんがおかしそうにくすくすと笑う。
それに腹を立てられないほど、緊張していた。
「それじゃあ、試験をはじめよう」
組んだ足を抱えるようにしてソファーに座った玲さんの顔は、酷く嘘くさい笑顔だった。
――結局。
「うん。
あーやはやはり、僕が期待したとおりの人間だな」
石塚さんが採点を済ませた解答用紙を見ながら、玲さんが満足げに頷く。
それってどういうことなんだろう。
期待どおり不合格、とか?
「合格。
しかも高得点。
ほら、言っただろ?
あーやならできるって」
「え、ほ、本当、ですか」
自分の耳が信じられない。
だって合格だけでも奇跡だと思うの、そのうえ高得点だなんて。
「僕は嘘をつかない。
ほら」
見せられた解答用紙に×印は少なく、書かれていた点数も確かに高得点だった。
「あーやは本当はできるのに、その消極的な性格が邪魔をしていただけだ。
だからもっと、自信を持っていい」
ご褒美、といわんばかりに唇が重なる。
「へ、へへへ」
こんなに褒められたことがなくて、つい照れてしまう。
「ありがとう、ござい、ます」
「あーやは本当に可愛いな!」
玲さんが私を抱き締めてくる。
いままではどうしていいのかわからなくて戸惑うばかりだったが、いまは嬉しい。
「合格のご褒美に、明日は服を買いに行こう。
たまには外でディナーもいいだろ」
「あ、あの、玲、さん。
お仕事は、大丈夫、なんですか」
明日の午後から、札幌に移動することになっていた。
なのに外出なんて。
「ここのところ、休みなく働いていたんだぞ?
たまには休んだっていい」
「でも……」
「あーやは僕が、仕事でいない方がいいのか?」
冗談めかして言う彼に、ふるふると首を横に振る。
「せ、せっかくのお休み、なら、ゆっくり休んで、ほしいから……」
一緒に生活するようになってもうひと月が過ぎたが、その間に彼がまともに休んだのはあの、温泉旅館に泊まった日くらいしかない。
それも、翌朝には飛行機で東京へ戻ったし。
たまにのんびりしていても、すぐになにかと呼びだされていた。
「あーやは優しいな」
するりとあたまを撫でた手が、毛先まで滑る。
そこから一房取って、玲さんは口付けを落とした。
「いまは忙しいが、父の跡を継げば楽になる。
そうなったらホテル暮らしはやめて家を買おう。
そこで僕と、あーやと、子供たちで暮らすんだ」
少し淋しそうにそんなことを言わないでほしい。
変なフラグが立ちそうだから。
「大丈夫、ですよ。
玲さんの願いは、きっと叶います。
私が、叶え、ます」
玲さんが消えてしまいそうで、そっとその頬に触れる。
ゆっくりと眼鏡の下で瞼が閉じて開き、泣きだしそうに笑った。
「じゃあ、いますぐ叶えてくれ」
少しずつソファーに押し倒されていく。
「愛してる……」
甘いバリトンが私の鼓膜を震わせる。
見上げた眼鏡の向こうには、潤んだ瞳が見えた。
「あーや……」
目が閉じられ、玲さんの顔が近づいてくる。
――けれど。
「ス、ストップ!」
ピタリと玲さんの動きが止まり、私から離れる。
「叶えてくれると言ったじゃないか」
そんなに拗ねないでほしい。
言ったし、そうしてあげたい。
けれど、少しだけ不都合があるわけで。
「そ、その」
「なんだ」
ううっ、だからそんな、ジト目で睨まないで!
「こ、ここじゃ……」
もうすでに石塚さんは姿を消していたが、それでもいきなりリビングでなんてそんなこと、恥ずかしすぎる。
「ああ、すまない!」
ぱーっと玲さんの顔が輝き、大好きな玩具を前にした犬よろしく幻の尻尾がパタパタと盛んに振られる。
「そうだな、ハジメテがソファーだなんてあんまりだよな」
「えっ、あっ!」
ひょい、といきなり玲さんに抱き抱えられ、慌ててその首に掴まった。
「明日が休みでよかったな。
ゆっくりできる」
満面の笑みの玲さんに寝室へそのまま運ばれながら、嫌な予感しかしなかった……。
石塚さんにはせっかく用意してくれても気付かなくて無駄にしてしまうのは悪いので、私から声をかけない限り放って放っておいてもらうようにお願いした。
それでも、気付いたらマカロンやボンボンショコラが置いてあって、感謝しかない。
「じゃあ、帰ってくるまでに終わらせておくように」
試験は食堂でおこなわれた。
試験監督は石塚さん。
さすがに玲さんも忙しいGW中なのもあって、私に一日付き合うわけにはいかないらしい。
「それでは。
……はじめ!」
一日で四つの検定試験模試はかなり無理があるが、それが玲さんの指定だから仕方ない。
ひたすら集中して回答欄を埋めていく。
「終了です!」
「おわっ、た……」
もう、日はすっかり落ちていた。
「お疲れ様でした」
石塚さんが入れてくれたお茶を飲みながら、ちょっとだけ息をつく。
このまま気を抜いてしまいたいが、まだダメ。
このあと、玲さんとのフランス語実技試験が残っている。
「ただいま」
いつもどおり帰ってきた玲さんが私に唇に口付けを落とす。
「緊張しているのか」
唇が離れ、玲さんがおかしそうにくすくすと笑う。
それに腹を立てられないほど、緊張していた。
「それじゃあ、試験をはじめよう」
組んだ足を抱えるようにしてソファーに座った玲さんの顔は、酷く嘘くさい笑顔だった。
――結局。
「うん。
あーやはやはり、僕が期待したとおりの人間だな」
石塚さんが採点を済ませた解答用紙を見ながら、玲さんが満足げに頷く。
それってどういうことなんだろう。
期待どおり不合格、とか?
「合格。
しかも高得点。
ほら、言っただろ?
あーやならできるって」
「え、ほ、本当、ですか」
自分の耳が信じられない。
だって合格だけでも奇跡だと思うの、そのうえ高得点だなんて。
「僕は嘘をつかない。
ほら」
見せられた解答用紙に×印は少なく、書かれていた点数も確かに高得点だった。
「あーやは本当はできるのに、その消極的な性格が邪魔をしていただけだ。
だからもっと、自信を持っていい」
ご褒美、といわんばかりに唇が重なる。
「へ、へへへ」
こんなに褒められたことがなくて、つい照れてしまう。
「ありがとう、ござい、ます」
「あーやは本当に可愛いな!」
玲さんが私を抱き締めてくる。
いままではどうしていいのかわからなくて戸惑うばかりだったが、いまは嬉しい。
「合格のご褒美に、明日は服を買いに行こう。
たまには外でディナーもいいだろ」
「あ、あの、玲、さん。
お仕事は、大丈夫、なんですか」
明日の午後から、札幌に移動することになっていた。
なのに外出なんて。
「ここのところ、休みなく働いていたんだぞ?
たまには休んだっていい」
「でも……」
「あーやは僕が、仕事でいない方がいいのか?」
冗談めかして言う彼に、ふるふると首を横に振る。
「せ、せっかくのお休み、なら、ゆっくり休んで、ほしいから……」
一緒に生活するようになってもうひと月が過ぎたが、その間に彼がまともに休んだのはあの、温泉旅館に泊まった日くらいしかない。
それも、翌朝には飛行機で東京へ戻ったし。
たまにのんびりしていても、すぐになにかと呼びだされていた。
「あーやは優しいな」
するりとあたまを撫でた手が、毛先まで滑る。
そこから一房取って、玲さんは口付けを落とした。
「いまは忙しいが、父の跡を継げば楽になる。
そうなったらホテル暮らしはやめて家を買おう。
そこで僕と、あーやと、子供たちで暮らすんだ」
少し淋しそうにそんなことを言わないでほしい。
変なフラグが立ちそうだから。
「大丈夫、ですよ。
玲さんの願いは、きっと叶います。
私が、叶え、ます」
玲さんが消えてしまいそうで、そっとその頬に触れる。
ゆっくりと眼鏡の下で瞼が閉じて開き、泣きだしそうに笑った。
「じゃあ、いますぐ叶えてくれ」
少しずつソファーに押し倒されていく。
「愛してる……」
甘いバリトンが私の鼓膜を震わせる。
見上げた眼鏡の向こうには、潤んだ瞳が見えた。
「あーや……」
目が閉じられ、玲さんの顔が近づいてくる。
――けれど。
「ス、ストップ!」
ピタリと玲さんの動きが止まり、私から離れる。
「叶えてくれると言ったじゃないか」
そんなに拗ねないでほしい。
言ったし、そうしてあげたい。
けれど、少しだけ不都合があるわけで。
「そ、その」
「なんだ」
ううっ、だからそんな、ジト目で睨まないで!
「こ、ここじゃ……」
もうすでに石塚さんは姿を消していたが、それでもいきなりリビングでなんてそんなこと、恥ずかしすぎる。
「ああ、すまない!」
ぱーっと玲さんの顔が輝き、大好きな玩具を前にした犬よろしく幻の尻尾がパタパタと盛んに振られる。
「そうだな、ハジメテがソファーだなんてあんまりだよな」
「えっ、あっ!」
ひょい、といきなり玲さんに抱き抱えられ、慌ててその首に掴まった。
「明日が休みでよかったな。
ゆっくりできる」
満面の笑みの玲さんに寝室へそのまま運ばれながら、嫌な予感しかしなかった……。
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