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第4章 あなたの夢を叶えたい
9.お揃い
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「あーや。
胸を張ってまっすぐ前を見ろ」
言われたとおりにやるように心がけ、前を見る。
「ほら、似合うようになっただろ」
言われた、初めて玲に服を買ってもらった日に。
この服が似合う女にしてやるって。
でも私はそんなの、無理だと思っていた。
しかし、メンズライクなスーツだけれど、高椋さんほどじゃないがそれなりに見られるようになっている。
俯いていた顔を上げ、丸まっていた背筋を伸ばすだけでこんなに違うんだ。
「あーやはまだ、あの日、僕が言った言葉を信じているんだろ」
私の肩に手を置いた玲と、鏡越しに目があった。
眼鏡の向こうの瞳は、悲しそうな色を湛えている。
「いくら恥ずかしかったとはいえ、僕は言ってはいけないことを言ってしまった。
ブス、地味、根暗、などと。
あまつさえ――怪我まで」
玲の手が私の後ろあたまに触れた。
振り返り、彼の顔を見上げる。
「あ、あれは、玲、なんです、か」
「思いだしたのか!?」
玲の目が限界まで大きく開かれ、肩を掴んだ手が私をガタガタと揺らす。
けれど私は、黙って静かに首を横に振った。
「ただ、そんな夢をみた、ってだけ、で」
「……そうか」
泣きだしそうな玲の目に、胸が切なくなる。
失った記憶を取り戻したい。
初めて、そう願った。
玲のためにも。
――私のためにも。
「次を着て見せろ」
「はい」
前回と同じで、着せ替え人形よろしく何着も着替えさせられた。
スタンダードなツーピースに、スリーピース、これからの時期を見据えてかベストのセットも。
これだけの量を一週間で作ったなんて、ジョーガサキさん、凄すぎる。
一通りの試着が済み、元の服に着替える。
「私の服、着てくれているんですね」
ジョーガサキさんが、嬉しそうに笑う。
玲から買ってもらった彼の服は着心地がよく、愛用していた。
「は、はい。
作ってくださり、ありがとう、ござい、ます」
「それは光栄の至りです。
こちらこそ、ありがとうございます」
優雅に、ジョーガサキさんがお辞儀をする。
芝居が勝手いるのに嫌みがないのって人柄からなのかな。
「ちょっといいですか」
少し離れた彼が、薄いストールを手に戻ってくる。
「そのカットソーだと首元が淋しいので、これを巻いた方が」
あっという間に私の首へ、おしゃれにストールが巻かれた。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
「いいえ。
しっかりそれも、請求に含ませてもらいますから」
パチン、とジョーガサキさんがウィンクする。
相変わらず、ちゃっかりしていてちょっとおかしかった。
「言うのを忘れていた。
このスーツ、全部僕のスーツとお揃いなんだ。
どうだ、嬉しいだろ?」
「……はい?」
つい、一度大きく瞬きをして玲を見てしまう。
お揃い、とは?
「玲のスーツと同じ生地で作ったんですよ。
玲が、お揃いにしろってうるさいから」
くすくすとジョーガサキさんがおかしそうに笑い、頬が熱くなっていく。
「同じ日に同じスーツを着れば、僕はあーやを抱きしめているのも同じだし、僕はあーやに抱きしめられているのも同じだ。
考えただろ」
どや顔の玲に、ジョーガサキさんは完全に呆れている。
私としては……ちょっと、嬉しいかも。
「服はすべて、ホテルの方にお届けでよろしいですか」
「ああ、よろしく頼む」
そのあと、ついでだからと夏用の服を玲の分も私の分も買った。
というか、しっかり夏の新作です!って、ジョーガサキさんが売りつける気満々で準備していた。
「い、いろいろ、ご無理を言って、すみません、でし、た。
スーツ、大事に着させて、もらい、ます」
私があたまを下げたら、ジョーガサキさんがパチパチと何度か瞬きをした。
「どうしたんですか?
面白い人だとは思っていましたが、急にずいぶん、可愛くなっちゃって」
「だろ?
きっと、これからどんどん、可愛くなるぞ。
だって、僕のあーやだからな!」
はははーっ、なんて玲は自慢しているけれど。
「はいはい、ソウデスカ。
タノシミデスネ」
ジョーガサキさんは完全に棒読みで、受け流してしまった。
胸を張ってまっすぐ前を見ろ」
言われたとおりにやるように心がけ、前を見る。
「ほら、似合うようになっただろ」
言われた、初めて玲に服を買ってもらった日に。
この服が似合う女にしてやるって。
でも私はそんなの、無理だと思っていた。
しかし、メンズライクなスーツだけれど、高椋さんほどじゃないがそれなりに見られるようになっている。
俯いていた顔を上げ、丸まっていた背筋を伸ばすだけでこんなに違うんだ。
「あーやはまだ、あの日、僕が言った言葉を信じているんだろ」
私の肩に手を置いた玲と、鏡越しに目があった。
眼鏡の向こうの瞳は、悲しそうな色を湛えている。
「いくら恥ずかしかったとはいえ、僕は言ってはいけないことを言ってしまった。
ブス、地味、根暗、などと。
あまつさえ――怪我まで」
玲の手が私の後ろあたまに触れた。
振り返り、彼の顔を見上げる。
「あ、あれは、玲、なんです、か」
「思いだしたのか!?」
玲の目が限界まで大きく開かれ、肩を掴んだ手が私をガタガタと揺らす。
けれど私は、黙って静かに首を横に振った。
「ただ、そんな夢をみた、ってだけ、で」
「……そうか」
泣きだしそうな玲の目に、胸が切なくなる。
失った記憶を取り戻したい。
初めて、そう願った。
玲のためにも。
――私のためにも。
「次を着て見せろ」
「はい」
前回と同じで、着せ替え人形よろしく何着も着替えさせられた。
スタンダードなツーピースに、スリーピース、これからの時期を見据えてかベストのセットも。
これだけの量を一週間で作ったなんて、ジョーガサキさん、凄すぎる。
一通りの試着が済み、元の服に着替える。
「私の服、着てくれているんですね」
ジョーガサキさんが、嬉しそうに笑う。
玲から買ってもらった彼の服は着心地がよく、愛用していた。
「は、はい。
作ってくださり、ありがとう、ござい、ます」
「それは光栄の至りです。
こちらこそ、ありがとうございます」
優雅に、ジョーガサキさんがお辞儀をする。
芝居が勝手いるのに嫌みがないのって人柄からなのかな。
「ちょっといいですか」
少し離れた彼が、薄いストールを手に戻ってくる。
「そのカットソーだと首元が淋しいので、これを巻いた方が」
あっという間に私の首へ、おしゃれにストールが巻かれた。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
「いいえ。
しっかりそれも、請求に含ませてもらいますから」
パチン、とジョーガサキさんがウィンクする。
相変わらず、ちゃっかりしていてちょっとおかしかった。
「言うのを忘れていた。
このスーツ、全部僕のスーツとお揃いなんだ。
どうだ、嬉しいだろ?」
「……はい?」
つい、一度大きく瞬きをして玲を見てしまう。
お揃い、とは?
「玲のスーツと同じ生地で作ったんですよ。
玲が、お揃いにしろってうるさいから」
くすくすとジョーガサキさんがおかしそうに笑い、頬が熱くなっていく。
「同じ日に同じスーツを着れば、僕はあーやを抱きしめているのも同じだし、僕はあーやに抱きしめられているのも同じだ。
考えただろ」
どや顔の玲に、ジョーガサキさんは完全に呆れている。
私としては……ちょっと、嬉しいかも。
「服はすべて、ホテルの方にお届けでよろしいですか」
「ああ、よろしく頼む」
そのあと、ついでだからと夏用の服を玲の分も私の分も買った。
というか、しっかり夏の新作です!って、ジョーガサキさんが売りつける気満々で準備していた。
「い、いろいろ、ご無理を言って、すみません、でし、た。
スーツ、大事に着させて、もらい、ます」
私があたまを下げたら、ジョーガサキさんがパチパチと何度か瞬きをした。
「どうしたんですか?
面白い人だとは思っていましたが、急にずいぶん、可愛くなっちゃって」
「だろ?
きっと、これからどんどん、可愛くなるぞ。
だって、僕のあーやだからな!」
はははーっ、なんて玲は自慢しているけれど。
「はいはい、ソウデスカ。
タノシミデスネ」
ジョーガサキさんは完全に棒読みで、受け流してしまった。
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