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最終章 娘と短刀

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伶龍の顕現で現場は混乱を極め、刀受領の儀は中断。
伶華に鍵をどうしたのか問い詰めたところ、私の部屋に忍び込んで持ち出したと判明した。

「だって、どーしてもあれがいいと思ったんだもん」

伶華はふて腐れているが、なにか通じるものがあったのかもしれない。
だからあんなに私が問いかけてもダメだったのに、伶龍は再び顕現した。

伶華の刀は選び直しになった。
実の父親と契らせるわけにはいかない。

「伶龍がよかったのに……」

新しい刀は最近のアイドルっぽいイケメンだったが、それでも伶華は不満げだ。
もしかして、親子共々男の趣味が似ているのか?

「わるいな、俺は翠以外の巫女のものになる気はないからな」

見せつけるように伶龍が口付けしてくる。
再び顕現してからというもの、彼は私にべったりだ。
それに雪永が妬いているかといえば。

「翠様と伶龍様とのあいだに、私など入る隙などございませんので」

などとなぜか、達観していた。



――うおおおぉぉぉぉーん。

遠く、穢れの唸り声が響いてくる。

「きた、きたぞ!」

今にも飛び出していきそうな伶龍の、襟首を捕まえた。

「私たちは控え。
ここは伶華の戦場だってば。
第一、短刀の伶龍じゃ核を切るのが大変でしょ」

「うっ」

声を詰まらせ、伶龍がおとなしくなる。

「だってよ……」

「じゃあ伶華、頼んだよ」

「いってきます!」

項垂れた伶龍とは反対に、元気よく伶華が刀とともに飛び出していく。

「私たちはこれから、娘の成長を見守るのが仕事だよ。
それでさ」

一度言葉を切り、持ってきていたマフラーを彼に巻いた。
あのとき、クリスマスプレゼントに用意していたものだ。

「任せられるようになったら、約束どおり海外旅行に行こう?」

「そうだな」

機嫌がよくなったのか、伶龍がにやっと笑う。

「雪永!
雪永は一緒なのか?」

「あー」

これは、どう答えるのが正解なのだろう?
雪永ひとり置いていくとか言えないし……。

ちらっと雪永をうかがったら、はぁっと呆れるようにため息を落とされた。

「おふたりで行ってきてください。
私は馬に蹴られたくないですからね」

「やった!
翠とふたりで海外だ!」

伶龍は大喜びでつい、笑ってしまう。
これからはずっと一緒だよ。
私の命が尽きる、そのときまで――。


【終】
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