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第7話 雪が溶けるときっと花が咲く
2.嘘なんていつかバレる
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夕食の最中も後ろめたさから、なんとなく目を合わせられなかった。
終わって、いつものようにリビングで、膝の上に乗せられて座る。
「そういえばこのあいだ、義実家に食洗機を贈ったんだ。
家事が楽になればいいと思ってね。
朋香はもう見たんだろう?
どうだった?」
「あっ、えっと」
云える訳ない、実家に帰ったことがないから知らないなど。
「どうしたんだい?
もしかして、サイズが合わなかったかい?
……なんてね」
頬を撫でた尚一郎の目が、すーっと細くなった。
唇は薄く笑っているのに、レンズの奥の目は少しも笑ってない。
自分に向けられる、ふれると切れそうなほど鋭利な視線に、背筋にぞくりと冷たいものが走った。
「知らないと思ってるのかい、朋香が一回も実家に帰ってないこと」
くるくると尚一郎の指先が朋香の毛先を弄ぶ。
それはいつもの可愛がるものと違って、まるで――どうやってなぶろうか、そう考えているかのようだった。
「今日も出かけていたようだけど、どこに行ってなにをしていたんだい?」
じっと尚一郎に見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように、視線を逸らせない。
じわじわと冷たい汗が滲んでくる。
喉はからからに渇き、ごくりと音を立ててつばを飲み込んだ。
「カラオケに行ってました」
「確かに、カラオケには行ったようだね。
GPSの場所はそこだった。
……でも、ひとりじゃないだろう?」
硝子玉のように、感情の見えない尚一郎の目が怖かった。
愉しそうにうっすらと笑っているのも。
静かに冷気を漂わせる尚一郎に、知らず知らず身体が震える。
「……ひとり、でした」
精一杯虚勢を張って、雪也といたことは隠す。
……けれど。
「……嘘つき」
耳元で囁かれた冷たい声に、一瞬で心臓が凍り付いて止まった。
離れた顔をおそるおそる見上げると、愉しそうに笑っている。
ばくばくと早い鼓動に、心臓は暴発しそうだった。
「こい!」
膝の上から朋香を突き落とすと、引きずるように尚一郎は手を引っ張る。
「僕が知らないとでも?
朋香の携帯にはGPSをつけてあるし、ひとりで外出するようになってからは、シークレットサービスだってつけてある」
「や、やだ!」
嫌がっても手首を痛いくらいに掴んだまま引き摺っていき、尚一郎は階段を上がると、バン! と乱暴に朋香の部屋のドアを開けた。
部屋の中に入ると思いっきり朋香をベッドに突き飛ばす。
「毎回、あの、井上とかいう男と会っていたんだろう?」
「ひぃっ」
するりと頬を撫でられ、思わず小さく悲鳴が漏れる。
「それだけでも許せないのに、今日はキスまでしたんだろう?」
尚一郎の手が、朋香の両手をベッドに縫い止める。
迫ってきた顔に、拒否するように朋香が顔を逸らせると、尚一郎は片手で朋香の両手をまとめて押さえ直した。
空いた手が朋香の頬を潰すようにぎりぎりと掴み、まっすぐ尚一郎の顔を見させる。
「朋香は僕のものだ。
絶対に誰にも渡さない」
再び迫ってきた顔が怖くて、目を閉じてしまう。
重なった唇。
いつもは軽くふれるだけなのに、今日は角度を変えて深く交わろうとする。
堅く唇を閉じ、拒否していた朋香だったが、顎にかかった親指に唇を無理矢理開かされ、強引に舌をねじ込まれた。
ばたばたと暴れて抵抗しようとしても、容易に上から尚一郎に押さえ込まれてしまう。
呼吸さえ許さない乱雑なキスはひたすら苦しくて、目からは涙がこぼれ落ちた。
「はぁっ、はぁっ、……やっ、やめっ」
唇が離れ、失った酸素を求めるように呼吸をしていた朋香のブラウスを、尚一郎の手が引き裂いた。
ぶちぶちとボタンが飛んでいく。
怯える朋香にかまわずに、尚一郎はその首筋に唇を這わせる。
「や、やだぁ。
やめ、やめて、くだ、ひっく、くだ、さい……」
まるで幼子のように泣き出した朋香に、ぴたっと尚一郎の動きが止まった。
ゆっくりと顔を離すと、上からつらそうな顔で朋香を見下ろしてくる。
「……朋香?」
そっと頬にふれた手に、びくりと身体を震わせてしまう。
怯えて、ひっくひっくと泣き続ける朋香に尚一郎ははぁーっと大きなため息を落とすと、身体を離した。
終わって、いつものようにリビングで、膝の上に乗せられて座る。
「そういえばこのあいだ、義実家に食洗機を贈ったんだ。
家事が楽になればいいと思ってね。
朋香はもう見たんだろう?
どうだった?」
「あっ、えっと」
云える訳ない、実家に帰ったことがないから知らないなど。
「どうしたんだい?
もしかして、サイズが合わなかったかい?
……なんてね」
頬を撫でた尚一郎の目が、すーっと細くなった。
唇は薄く笑っているのに、レンズの奥の目は少しも笑ってない。
自分に向けられる、ふれると切れそうなほど鋭利な視線に、背筋にぞくりと冷たいものが走った。
「知らないと思ってるのかい、朋香が一回も実家に帰ってないこと」
くるくると尚一郎の指先が朋香の毛先を弄ぶ。
それはいつもの可愛がるものと違って、まるで――どうやってなぶろうか、そう考えているかのようだった。
「今日も出かけていたようだけど、どこに行ってなにをしていたんだい?」
じっと尚一郎に見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように、視線を逸らせない。
じわじわと冷たい汗が滲んでくる。
喉はからからに渇き、ごくりと音を立ててつばを飲み込んだ。
「カラオケに行ってました」
「確かに、カラオケには行ったようだね。
GPSの場所はそこだった。
……でも、ひとりじゃないだろう?」
硝子玉のように、感情の見えない尚一郎の目が怖かった。
愉しそうにうっすらと笑っているのも。
静かに冷気を漂わせる尚一郎に、知らず知らず身体が震える。
「……ひとり、でした」
精一杯虚勢を張って、雪也といたことは隠す。
……けれど。
「……嘘つき」
耳元で囁かれた冷たい声に、一瞬で心臓が凍り付いて止まった。
離れた顔をおそるおそる見上げると、愉しそうに笑っている。
ばくばくと早い鼓動に、心臓は暴発しそうだった。
「こい!」
膝の上から朋香を突き落とすと、引きずるように尚一郎は手を引っ張る。
「僕が知らないとでも?
朋香の携帯にはGPSをつけてあるし、ひとりで外出するようになってからは、シークレットサービスだってつけてある」
「や、やだ!」
嫌がっても手首を痛いくらいに掴んだまま引き摺っていき、尚一郎は階段を上がると、バン! と乱暴に朋香の部屋のドアを開けた。
部屋の中に入ると思いっきり朋香をベッドに突き飛ばす。
「毎回、あの、井上とかいう男と会っていたんだろう?」
「ひぃっ」
するりと頬を撫でられ、思わず小さく悲鳴が漏れる。
「それだけでも許せないのに、今日はキスまでしたんだろう?」
尚一郎の手が、朋香の両手をベッドに縫い止める。
迫ってきた顔に、拒否するように朋香が顔を逸らせると、尚一郎は片手で朋香の両手をまとめて押さえ直した。
空いた手が朋香の頬を潰すようにぎりぎりと掴み、まっすぐ尚一郎の顔を見させる。
「朋香は僕のものだ。
絶対に誰にも渡さない」
再び迫ってきた顔が怖くて、目を閉じてしまう。
重なった唇。
いつもは軽くふれるだけなのに、今日は角度を変えて深く交わろうとする。
堅く唇を閉じ、拒否していた朋香だったが、顎にかかった親指に唇を無理矢理開かされ、強引に舌をねじ込まれた。
ばたばたと暴れて抵抗しようとしても、容易に上から尚一郎に押さえ込まれてしまう。
呼吸さえ許さない乱雑なキスはひたすら苦しくて、目からは涙がこぼれ落ちた。
「はぁっ、はぁっ、……やっ、やめっ」
唇が離れ、失った酸素を求めるように呼吸をしていた朋香のブラウスを、尚一郎の手が引き裂いた。
ぶちぶちとボタンが飛んでいく。
怯える朋香にかまわずに、尚一郎はその首筋に唇を這わせる。
「や、やだぁ。
やめ、やめて、くだ、ひっく、くだ、さい……」
まるで幼子のように泣き出した朋香に、ぴたっと尚一郎の動きが止まった。
ゆっくりと顔を離すと、上からつらそうな顔で朋香を見下ろしてくる。
「……朋香?」
そっと頬にふれた手に、びくりと身体を震わせてしまう。
怯えて、ひっくひっくと泣き続ける朋香に尚一郎ははぁーっと大きなため息を落とすと、身体を離した。
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