43 / 129
第7話 雪が溶けるときっと花が咲く
2.嘘なんていつかバレる
しおりを挟む
夕食の最中も後ろめたさから、なんとなく目を合わせられなかった。
終わって、いつものようにリビングで、膝の上に乗せられて座る。
「そういえばこのあいだ、義実家に食洗機を贈ったんだ。
家事が楽になればいいと思ってね。
朋香はもう見たんだろう?
どうだった?」
「あっ、えっと」
云える訳ない、実家に帰ったことがないから知らないなど。
「どうしたんだい?
もしかして、サイズが合わなかったかい?
……なんてね」
頬を撫でた尚一郎の目が、すーっと細くなった。
唇は薄く笑っているのに、レンズの奥の目は少しも笑ってない。
自分に向けられる、ふれると切れそうなほど鋭利な視線に、背筋にぞくりと冷たいものが走った。
「知らないと思ってるのかい、朋香が一回も実家に帰ってないこと」
くるくると尚一郎の指先が朋香の毛先を弄ぶ。
それはいつもの可愛がるものと違って、まるで――どうやってなぶろうか、そう考えているかのようだった。
「今日も出かけていたようだけど、どこに行ってなにをしていたんだい?」
じっと尚一郎に見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように、視線を逸らせない。
じわじわと冷たい汗が滲んでくる。
喉はからからに渇き、ごくりと音を立ててつばを飲み込んだ。
「カラオケに行ってました」
「確かに、カラオケには行ったようだね。
GPSの場所はそこだった。
……でも、ひとりじゃないだろう?」
硝子玉のように、感情の見えない尚一郎の目が怖かった。
愉しそうにうっすらと笑っているのも。
静かに冷気を漂わせる尚一郎に、知らず知らず身体が震える。
「……ひとり、でした」
精一杯虚勢を張って、雪也といたことは隠す。
……けれど。
「……嘘つき」
耳元で囁かれた冷たい声に、一瞬で心臓が凍り付いて止まった。
離れた顔をおそるおそる見上げると、愉しそうに笑っている。
ばくばくと早い鼓動に、心臓は暴発しそうだった。
「こい!」
膝の上から朋香を突き落とすと、引きずるように尚一郎は手を引っ張る。
「僕が知らないとでも?
朋香の携帯にはGPSをつけてあるし、ひとりで外出するようになってからは、シークレットサービスだってつけてある」
「や、やだ!」
嫌がっても手首を痛いくらいに掴んだまま引き摺っていき、尚一郎は階段を上がると、バン! と乱暴に朋香の部屋のドアを開けた。
部屋の中に入ると思いっきり朋香をベッドに突き飛ばす。
「毎回、あの、井上とかいう男と会っていたんだろう?」
「ひぃっ」
するりと頬を撫でられ、思わず小さく悲鳴が漏れる。
「それだけでも許せないのに、今日はキスまでしたんだろう?」
尚一郎の手が、朋香の両手をベッドに縫い止める。
迫ってきた顔に、拒否するように朋香が顔を逸らせると、尚一郎は片手で朋香の両手をまとめて押さえ直した。
空いた手が朋香の頬を潰すようにぎりぎりと掴み、まっすぐ尚一郎の顔を見させる。
「朋香は僕のものだ。
絶対に誰にも渡さない」
再び迫ってきた顔が怖くて、目を閉じてしまう。
重なった唇。
いつもは軽くふれるだけなのに、今日は角度を変えて深く交わろうとする。
堅く唇を閉じ、拒否していた朋香だったが、顎にかかった親指に唇を無理矢理開かされ、強引に舌をねじ込まれた。
ばたばたと暴れて抵抗しようとしても、容易に上から尚一郎に押さえ込まれてしまう。
呼吸さえ許さない乱雑なキスはひたすら苦しくて、目からは涙がこぼれ落ちた。
「はぁっ、はぁっ、……やっ、やめっ」
唇が離れ、失った酸素を求めるように呼吸をしていた朋香のブラウスを、尚一郎の手が引き裂いた。
ぶちぶちとボタンが飛んでいく。
怯える朋香にかまわずに、尚一郎はその首筋に唇を這わせる。
「や、やだぁ。
やめ、やめて、くだ、ひっく、くだ、さい……」
まるで幼子のように泣き出した朋香に、ぴたっと尚一郎の動きが止まった。
ゆっくりと顔を離すと、上からつらそうな顔で朋香を見下ろしてくる。
「……朋香?」
そっと頬にふれた手に、びくりと身体を震わせてしまう。
怯えて、ひっくひっくと泣き続ける朋香に尚一郎ははぁーっと大きなため息を落とすと、身体を離した。
終わって、いつものようにリビングで、膝の上に乗せられて座る。
「そういえばこのあいだ、義実家に食洗機を贈ったんだ。
家事が楽になればいいと思ってね。
朋香はもう見たんだろう?
どうだった?」
「あっ、えっと」
云える訳ない、実家に帰ったことがないから知らないなど。
「どうしたんだい?
もしかして、サイズが合わなかったかい?
……なんてね」
頬を撫でた尚一郎の目が、すーっと細くなった。
唇は薄く笑っているのに、レンズの奥の目は少しも笑ってない。
自分に向けられる、ふれると切れそうなほど鋭利な視線に、背筋にぞくりと冷たいものが走った。
「知らないと思ってるのかい、朋香が一回も実家に帰ってないこと」
くるくると尚一郎の指先が朋香の毛先を弄ぶ。
それはいつもの可愛がるものと違って、まるで――どうやってなぶろうか、そう考えているかのようだった。
「今日も出かけていたようだけど、どこに行ってなにをしていたんだい?」
じっと尚一郎に見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように、視線を逸らせない。
じわじわと冷たい汗が滲んでくる。
喉はからからに渇き、ごくりと音を立ててつばを飲み込んだ。
「カラオケに行ってました」
「確かに、カラオケには行ったようだね。
GPSの場所はそこだった。
……でも、ひとりじゃないだろう?」
硝子玉のように、感情の見えない尚一郎の目が怖かった。
愉しそうにうっすらと笑っているのも。
静かに冷気を漂わせる尚一郎に、知らず知らず身体が震える。
「……ひとり、でした」
精一杯虚勢を張って、雪也といたことは隠す。
……けれど。
「……嘘つき」
耳元で囁かれた冷たい声に、一瞬で心臓が凍り付いて止まった。
離れた顔をおそるおそる見上げると、愉しそうに笑っている。
ばくばくと早い鼓動に、心臓は暴発しそうだった。
「こい!」
膝の上から朋香を突き落とすと、引きずるように尚一郎は手を引っ張る。
「僕が知らないとでも?
朋香の携帯にはGPSをつけてあるし、ひとりで外出するようになってからは、シークレットサービスだってつけてある」
「や、やだ!」
嫌がっても手首を痛いくらいに掴んだまま引き摺っていき、尚一郎は階段を上がると、バン! と乱暴に朋香の部屋のドアを開けた。
部屋の中に入ると思いっきり朋香をベッドに突き飛ばす。
「毎回、あの、井上とかいう男と会っていたんだろう?」
「ひぃっ」
するりと頬を撫でられ、思わず小さく悲鳴が漏れる。
「それだけでも許せないのに、今日はキスまでしたんだろう?」
尚一郎の手が、朋香の両手をベッドに縫い止める。
迫ってきた顔に、拒否するように朋香が顔を逸らせると、尚一郎は片手で朋香の両手をまとめて押さえ直した。
空いた手が朋香の頬を潰すようにぎりぎりと掴み、まっすぐ尚一郎の顔を見させる。
「朋香は僕のものだ。
絶対に誰にも渡さない」
再び迫ってきた顔が怖くて、目を閉じてしまう。
重なった唇。
いつもは軽くふれるだけなのに、今日は角度を変えて深く交わろうとする。
堅く唇を閉じ、拒否していた朋香だったが、顎にかかった親指に唇を無理矢理開かされ、強引に舌をねじ込まれた。
ばたばたと暴れて抵抗しようとしても、容易に上から尚一郎に押さえ込まれてしまう。
呼吸さえ許さない乱雑なキスはひたすら苦しくて、目からは涙がこぼれ落ちた。
「はぁっ、はぁっ、……やっ、やめっ」
唇が離れ、失った酸素を求めるように呼吸をしていた朋香のブラウスを、尚一郎の手が引き裂いた。
ぶちぶちとボタンが飛んでいく。
怯える朋香にかまわずに、尚一郎はその首筋に唇を這わせる。
「や、やだぁ。
やめ、やめて、くだ、ひっく、くだ、さい……」
まるで幼子のように泣き出した朋香に、ぴたっと尚一郎の動きが止まった。
ゆっくりと顔を離すと、上からつらそうな顔で朋香を見下ろしてくる。
「……朋香?」
そっと頬にふれた手に、びくりと身体を震わせてしまう。
怯えて、ひっくひっくと泣き続ける朋香に尚一郎ははぁーっと大きなため息を落とすと、身体を離した。
1
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]
麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。
お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。
視線がコロコロ変わります。
なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる