家庭侵略されています!~魔王の逆異世界スローライフ~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
22 / 26
最終章 最高に幸せそうに微笑みあうウェディングの写真が飾ってあった

4-2

しおりを挟む
ドレス選びの翌日も休みで、家でだらだらしていた。

「あ、牛乳切れてた」

晩ごはんの準備をしていたニキが声を上げる。
休みの日は私が作る、せめて手伝うというのだけれど、ニキは苺は働いているんだから家事は専業主夫の俺の役目と頑なにさせてくれなかった。
それで私の稼ぎのみでやっているならまあ納得だが、家計を回しているのはニキだ。
釈然としないものの、ついそれに甘えていた。

「牛乳?」

今日はコロッケのはずなのだ。
なのになんで、牛乳がいるんだろう?
「なんでいるの?
クリームコロッケじゃないんだよね?」

「俺が作るコロッケにはいるの。
ちょっと買ってくるな」

エプロンを外し、ニキが椅子にかける。

「いいよ、あとちょっとだけ待ってくれたら私が買ってくるよ」

すぐに行くと言いたいところだが、いま、小説がいいところなのだ。
キリのいいところまで読ませてほしい。

「苺が行くのを待っていたら、夜になる」

「……ひど」

区切りをつけて顔を上げる。
目のあったニキは片頬を歪めてにやっと笑った。

「心ゆくまで苺は小説を読んでろ。
食後のデザートにケーキも買ってきてやる」

私の頭をニキがぽんぽんと軽く叩く。
それににかっと笑い、視線を携帯の画面へと戻した。

「わかった、ありがとー。
いってらー」

「おう、いってくる」

すぐに彼が出ていった音がした。
ここまで甘やかされた生活に慣れてしまうのは非常によくない。
ニキはそのうち、いなくなるのだ。
これからはもっと、自立を心がけねば。
……とか思いながらこうやって、だらだらしていたら世話ないが。

少しして、インターフォンが鳴った。

「なあに、ニキ?
お財布でも忘れ……」

彼だと決めつけてドアを開けたら知らない人間が立っていて、固まった。

「えっと」

「魔王はどこだ!?」

どなた様?
なんて聞く前に、相手が怒鳴るように問い、さらに無礼にも部屋の中に押し入ってこようとする。

「あの!
あなた、誰ですか!
ちょっとやめてって!」

「オレは勇者だ!
魔王がいるだろ、ここに!
女、隠し立てをするのか!」

揉みあっていたら、勇者と名乗る男は腰に手をやった。
まさか、切られる!?と一瞬にして血の気が引いたが。

「ちっ」

男は舌打ちして、姿勢を元に戻した。

「……剣は無礼な男たちに、ジュウトウホウイハンとか言って取られたんだった」

それはもしかして、銃刀法違反で警察に捕まったのか?
グッジョブ、警察。
しかし金髪碧眼と日本人離れした風貌で、しかも名乗ったとおり勇者だとしたら身元不明者だろうし、それでよく出てこられたな。

「ま、簡単に巻けるなんて、たいしたことないけどな」

乱れた服を直した彼は得意げだが、指名手配されていないか心配だ。

「それで。
ここに魔王がいるだろ?
いますぐ引き渡せ。
隠し立てするならお前もただでは済まないぞ、女」

男が眼光鋭く睨んできて、じりと心理的に後ろに下がっていた。
本当に彼が勇者だったとして、殺されるとわかっているのにニキを引き渡すバカはいない。
ニキがいま、いなくてよかった。
適当なことを言って追い返そうとしたものの。

「……ねえ。
あなたが勇者なら、あちらの世界から来たんだよね?」

「ああ、そうだ」

なに当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりに、勇者はバカにしたように私を見下した。

「……どうやって向こうに帰るの?」

ごくりと唾を飲み込み、その答えを待つ。
帰る手立てもないのに、わざわざニキを殺すためだけに勇者がこちらへ来るはずはない。
きっと、なにかあるはず。
そしてそれが、私にも可能ならば、ニキを……。

「そんなことを知ってどうする?」

「あっ、えっと。
私は魔法とか魔術とか使えないから、そういうのが珍しくて。
ちょっと興味が湧いたっていうか」

曖昧に笑い、適当な理由を言って誤魔化す。
彼に本当の理由を知られるわけにはいかない。

「そうか。
なら、教えてやろう」

しかしそれは彼の自尊心を刺激したらしく、得意げに話しだした。

「魔術を込めた特殊なお香があるんだ。
それで、帰れる」

「へー、そうなんですねー」

いかにも尊敬している顔をして、頷いて見せる。
お香ならば、私でも使える?
これはもっと、詳しく話を聞かなければ。

「すみません、いまちょっとニキ……魔王はいないんですよ。
でも、勇者様のお話、もっと聞きたいなー、なんて」

胸の前で両の指を組み、興味津々といった顔で目をキラキラさせて彼の顔を見上げる。
これで効かないのなら、次の手を考えなければ。

「そうか、そうか。
そんなにこのオレの話が聞きたいか。
よし、ならば聞かせてやろう」

よしっ、かかった!
心の中でガッツポーズした。

「ありがとうございます!
ここじゃなんですので、近くのお店に行きませんか?
奢りますよ」

「女、殊勝な心がけだな」

わざとらしく声を上げた男が笑う。
とりあえずこの場から男を引き剥がせてほっとした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」 没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。 シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。 そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。 なんでよ!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...