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最終章 最高に幸せそうに微笑みあうウェディングの写真が飾ってあった
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ドレス選びの翌日も休みで、家でだらだらしていた。
「あ、牛乳切れてた」
晩ごはんの準備をしていたニキが声を上げる。
休みの日は私が作る、せめて手伝うというのだけれど、ニキは苺は働いているんだから家事は専業主夫の俺の役目と頑なにさせてくれなかった。
それで私の稼ぎのみでやっているならまあ納得だが、家計を回しているのはニキだ。
釈然としないものの、ついそれに甘えていた。
「牛乳?」
今日はコロッケのはずなのだ。
なのになんで、牛乳がいるんだろう?
「なんでいるの?
クリームコロッケじゃないんだよね?」
「俺が作るコロッケにはいるの。
ちょっと買ってくるな」
エプロンを外し、ニキが椅子にかける。
「いいよ、あとちょっとだけ待ってくれたら私が買ってくるよ」
すぐに行くと言いたいところだが、いま、小説がいいところなのだ。
キリのいいところまで読ませてほしい。
「苺が行くのを待っていたら、夜になる」
「……ひど」
区切りをつけて顔を上げる。
目のあったニキは片頬を歪めてにやっと笑った。
「心ゆくまで苺は小説を読んでろ。
食後のデザートにケーキも買ってきてやる」
私の頭をニキがぽんぽんと軽く叩く。
それににかっと笑い、視線を携帯の画面へと戻した。
「わかった、ありがとー。
いってらー」
「おう、いってくる」
すぐに彼が出ていった音がした。
ここまで甘やかされた生活に慣れてしまうのは非常によくない。
ニキはそのうち、いなくなるのだ。
これからはもっと、自立を心がけねば。
……とか思いながらこうやって、だらだらしていたら世話ないが。
少しして、インターフォンが鳴った。
「なあに、ニキ?
お財布でも忘れ……」
彼だと決めつけてドアを開けたら知らない人間が立っていて、固まった。
「えっと」
「魔王はどこだ!?」
どなた様?
なんて聞く前に、相手が怒鳴るように問い、さらに無礼にも部屋の中に押し入ってこようとする。
「あの!
あなた、誰ですか!
ちょっとやめてって!」
「オレは勇者だ!
魔王がいるだろ、ここに!
女、隠し立てをするのか!」
揉みあっていたら、勇者と名乗る男は腰に手をやった。
まさか、切られる!?と一瞬にして血の気が引いたが。
「ちっ」
男は舌打ちして、姿勢を元に戻した。
「……剣は無礼な男たちに、ジュウトウホウイハンとか言って取られたんだった」
それはもしかして、銃刀法違反で警察に捕まったのか?
グッジョブ、警察。
しかし金髪碧眼と日本人離れした風貌で、しかも名乗ったとおり勇者だとしたら身元不明者だろうし、それでよく出てこられたな。
「ま、簡単に巻けるなんて、たいしたことないけどな」
乱れた服を直した彼は得意げだが、指名手配されていないか心配だ。
「それで。
ここに魔王がいるだろ?
いますぐ引き渡せ。
隠し立てするならお前もただでは済まないぞ、女」
男が眼光鋭く睨んできて、じりと心理的に後ろに下がっていた。
本当に彼が勇者だったとして、殺されるとわかっているのにニキを引き渡すバカはいない。
ニキがいま、いなくてよかった。
適当なことを言って追い返そうとしたものの。
「……ねえ。
あなたが勇者なら、あちらの世界から来たんだよね?」
「ああ、そうだ」
なに当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりに、勇者はバカにしたように私を見下した。
「……どうやって向こうに帰るの?」
ごくりと唾を飲み込み、その答えを待つ。
帰る手立てもないのに、わざわざニキを殺すためだけに勇者がこちらへ来るはずはない。
きっと、なにかあるはず。
そしてそれが、私にも可能ならば、ニキを……。
「そんなことを知ってどうする?」
「あっ、えっと。
私は魔法とか魔術とか使えないから、そういうのが珍しくて。
ちょっと興味が湧いたっていうか」
曖昧に笑い、適当な理由を言って誤魔化す。
彼に本当の理由を知られるわけにはいかない。
「そうか。
なら、教えてやろう」
しかしそれは彼の自尊心を刺激したらしく、得意げに話しだした。
「魔術を込めた特殊なお香があるんだ。
それで、帰れる」
「へー、そうなんですねー」
いかにも尊敬している顔をして、頷いて見せる。
お香ならば、私でも使える?
これはもっと、詳しく話を聞かなければ。
「すみません、いまちょっとニキ……魔王はいないんですよ。
でも、勇者様のお話、もっと聞きたいなー、なんて」
胸の前で両の指を組み、興味津々といった顔で目をキラキラさせて彼の顔を見上げる。
これで効かないのなら、次の手を考えなければ。
「そうか、そうか。
そんなにこのオレの話が聞きたいか。
よし、ならば聞かせてやろう」
よしっ、かかった!
心の中でガッツポーズした。
「ありがとうございます!
ここじゃなんですので、近くのお店に行きませんか?
奢りますよ」
「女、殊勝な心がけだな」
わざとらしく声を上げた男が笑う。
とりあえずこの場から男を引き剥がせてほっとした。
「あ、牛乳切れてた」
晩ごはんの準備をしていたニキが声を上げる。
休みの日は私が作る、せめて手伝うというのだけれど、ニキは苺は働いているんだから家事は専業主夫の俺の役目と頑なにさせてくれなかった。
それで私の稼ぎのみでやっているならまあ納得だが、家計を回しているのはニキだ。
釈然としないものの、ついそれに甘えていた。
「牛乳?」
今日はコロッケのはずなのだ。
なのになんで、牛乳がいるんだろう?
「なんでいるの?
クリームコロッケじゃないんだよね?」
「俺が作るコロッケにはいるの。
ちょっと買ってくるな」
エプロンを外し、ニキが椅子にかける。
「いいよ、あとちょっとだけ待ってくれたら私が買ってくるよ」
すぐに行くと言いたいところだが、いま、小説がいいところなのだ。
キリのいいところまで読ませてほしい。
「苺が行くのを待っていたら、夜になる」
「……ひど」
区切りをつけて顔を上げる。
目のあったニキは片頬を歪めてにやっと笑った。
「心ゆくまで苺は小説を読んでろ。
食後のデザートにケーキも買ってきてやる」
私の頭をニキがぽんぽんと軽く叩く。
それににかっと笑い、視線を携帯の画面へと戻した。
「わかった、ありがとー。
いってらー」
「おう、いってくる」
すぐに彼が出ていった音がした。
ここまで甘やかされた生活に慣れてしまうのは非常によくない。
ニキはそのうち、いなくなるのだ。
これからはもっと、自立を心がけねば。
……とか思いながらこうやって、だらだらしていたら世話ないが。
少しして、インターフォンが鳴った。
「なあに、ニキ?
お財布でも忘れ……」
彼だと決めつけてドアを開けたら知らない人間が立っていて、固まった。
「えっと」
「魔王はどこだ!?」
どなた様?
なんて聞く前に、相手が怒鳴るように問い、さらに無礼にも部屋の中に押し入ってこようとする。
「あの!
あなた、誰ですか!
ちょっとやめてって!」
「オレは勇者だ!
魔王がいるだろ、ここに!
女、隠し立てをするのか!」
揉みあっていたら、勇者と名乗る男は腰に手をやった。
まさか、切られる!?と一瞬にして血の気が引いたが。
「ちっ」
男は舌打ちして、姿勢を元に戻した。
「……剣は無礼な男たちに、ジュウトウホウイハンとか言って取られたんだった」
それはもしかして、銃刀法違反で警察に捕まったのか?
グッジョブ、警察。
しかし金髪碧眼と日本人離れした風貌で、しかも名乗ったとおり勇者だとしたら身元不明者だろうし、それでよく出てこられたな。
「ま、簡単に巻けるなんて、たいしたことないけどな」
乱れた服を直した彼は得意げだが、指名手配されていないか心配だ。
「それで。
ここに魔王がいるだろ?
いますぐ引き渡せ。
隠し立てするならお前もただでは済まないぞ、女」
男が眼光鋭く睨んできて、じりと心理的に後ろに下がっていた。
本当に彼が勇者だったとして、殺されるとわかっているのにニキを引き渡すバカはいない。
ニキがいま、いなくてよかった。
適当なことを言って追い返そうとしたものの。
「……ねえ。
あなたが勇者なら、あちらの世界から来たんだよね?」
「ああ、そうだ」
なに当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりに、勇者はバカにしたように私を見下した。
「……どうやって向こうに帰るの?」
ごくりと唾を飲み込み、その答えを待つ。
帰る手立てもないのに、わざわざニキを殺すためだけに勇者がこちらへ来るはずはない。
きっと、なにかあるはず。
そしてそれが、私にも可能ならば、ニキを……。
「そんなことを知ってどうする?」
「あっ、えっと。
私は魔法とか魔術とか使えないから、そういうのが珍しくて。
ちょっと興味が湧いたっていうか」
曖昧に笑い、適当な理由を言って誤魔化す。
彼に本当の理由を知られるわけにはいかない。
「そうか。
なら、教えてやろう」
しかしそれは彼の自尊心を刺激したらしく、得意げに話しだした。
「魔術を込めた特殊なお香があるんだ。
それで、帰れる」
「へー、そうなんですねー」
いかにも尊敬している顔をして、頷いて見せる。
お香ならば、私でも使える?
これはもっと、詳しく話を聞かなければ。
「すみません、いまちょっとニキ……魔王はいないんですよ。
でも、勇者様のお話、もっと聞きたいなー、なんて」
胸の前で両の指を組み、興味津々といった顔で目をキラキラさせて彼の顔を見上げる。
これで効かないのなら、次の手を考えなければ。
「そうか、そうか。
そんなにこのオレの話が聞きたいか。
よし、ならば聞かせてやろう」
よしっ、かかった!
心の中でガッツポーズした。
「ありがとうございます!
ここじゃなんですので、近くのお店に行きませんか?
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