19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 呼び出しは突然に

5. 過去の失敗

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あの人――間野一輝かずきは同期入社したうちのひとりだった。
片桐課長ほどではないが、それでも少し下がった目尻が優しそうな、王子様を地でいくような男。

その彼と一線を越えたのは、新人研修が終わってみんなバラバラに配属されたすぐ後のことだった。

配属された営業二課で孤軍奮闘していた私は、一週間ですでにかなり疲弊していた。
それに気づいた一輝が、声をかけてくれたのだ。
困っている人を放っておけない、彼らしい気遣いだとこのときは思っていた。

「メシに行こうよ、メシ!
んで、飲んで忘れよう!」

「えっ、わっ」

強引に一輝に腕を取られ、苦笑いでついていく。
お酒はあまり得意ではないが、たまにはいいかと思う。
居酒屋で一輝に勧められるがままにお酒を飲んで、愚痴を吐いた。

「こんなに仕事がつらいなんて思わなかった」

「それはつらいよね」

気がついたらテーブルの上で、一輝の手が私の手を握っている。

「仕事のことはどうにもできないけど、オレに甘えてよ」

「え?」

思わず顔が上がる。
一輝が真剣に私を見ていた。

「オレ、さ。
笹岡が好きなんだ」

一気に酔っ払ってしまったかのように顔が熱を持つ。
赤くなった顔を見られたくなくて俯いた。

「……うん」

私が小さく頷くと、一輝が手を、指を絡めて握り直した。

店を出るときには足がふらついて、一輝に寄りかかる。

「このまま、帰したくないんだけど」

「……うん」

酔っていて判断能力が欠如していたのと、無性に誰かに甘えたくて一輝の誘いに乗った。
でもこれが悪夢のはじまりだった。


それからもちょこちょことと一輝とふたりで会った。
私は完全に一輝を好きになっていたし、一輝も私を甘やかせてくれた。

ただときどき、会わなかった休日、連絡が取れなくなる。
NYAINしても既読にすらならない。
一日くらいならまだしも、長い休みで地元に帰ったりするとその期間、ずっと。

理由を聞いても電波の入らないところにいたと笑ってごまかされた。
もっと追求すればよかったんだろうけど、一輝に依存していて別れるって言われるのが怖い私は、それ以上なにも言えなかった。

一輝が結婚すると聞いたのは、たまたま社食で一緒になった同期の女子からだった。

「間野くん、結婚するらしいよ」

その子は私が一輝と付き合っているなど、微塵も思っていないようだ。
それもそうだろう、社内恋愛は禁止ではないが、なぜか一輝は秘密にしたがった。
一輝は社内の女子に人気があったし、揉め事を起こしたくないからと説明されれば、納得するしかない。

「え、誰と?」

私は一輝からプロポーズなんてされていないが、もしかしてしようと思っているという話を誰かにしたのかと、期待した。

「地元に残してきた幼馴染み。
しかも授かり婚だってさー」

「……そう」

急に、一輝とときどき、連絡がつかなくなる理由がわかった。
幼馴染みの彼女に会っているから。
遠距離恋愛の彼女と二股されていたと知ったのに、私は妙に冷静だった。


その夜、一輝と会った。

「結婚するんだってね、幼馴染みと」
「誰から聞いたの?」

不快そうな一輝の声に腹の底がかっと熱くなる。

「私はいつも抱けない彼女の代わりだったの!?」

「だったらどうなの」

動じない一輝の声に、感情はヒートアップしていく。

「好きとか言ったのは、嘘!?」

「嘘じゃないよ。
ちょっと言い寄ったらすぐよろめいて、簡単に身体を許してくる花重はなえは好きだよ」

こんな状況なのに一輝はおかしそうにくつくつと笑っている。
そんな一輝に――ゾッとした。

「と、とにかく!
一輝とはもう、別れるから!」

「それは困るな。
妊娠してる美加みかは抱けないだろ?
花重が代わりをしてくれないと」

いつの間にか一輝に組みひしがれていた。
首筋に唇を這わされる。

「や、やめて!」

「もしかして花重も、妊娠させてほしい?」

「い、いや」

涙を浮かべてイヤイヤと首を振っても一輝は力を緩めてくれない。
そのまま一輝に――。


家に帰ってシャワーを浴びると足の間から、白い後悔が伝い落ちていった。

「や、やだ……」

ぺたんと座り込み、肩を抱く。
自分の口から漏れる嗚咽はシャワーの音にかき消された。
一輝があんな人間なんて知らなかった。
二股されていたことよりも、そっちの方がショックが大きかった。

一輝と連絡が取れなくなるように速攻で携帯を解約した。
同じ会社なのは困るが、あっちは総務で私は営業。
フロアが別だからそうそう簡単には顔をあわせない。
一輝もよく利用している社食にさえ行かなければ避けられる。


携帯はその後、やはりないと不便なのでガラケーを新規契約した。
できるだけ誰とも連絡を取りたくなかったし、またNYAINに振りまわされるのは嫌だから。

しばらくはいろいろな意味で戦々恐々として過ごした。
一輝の方もそこまで粘着体質ではなかったらしく、徹底的に避ければなにも言ってこない。
私の身体にも変化は起きず、ほっと息をついたのが年度が替わってすぐのことだった。

もうあんな思いはしたくなくて、恋なんてしないと誓ったはずだった。
なのに私はいま、どうして片桐課長のことが気になりだしているのだろう
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