19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 呼び出しは突然に

6. どうして私を誘うんですか

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それからも週に一回くらいのペースで、片桐課長に呼び出された。

「笹岡!」

遠くから私を見つけた片桐課長が大きく手を振る。
周りの視線が集中して行きたくなくなるが、そういうわけにはいかない。

「お待たせしました……」

「今日は肉食いに行くぞ!
食欲の秋だしな」

相変わらず、片桐課長は私の返事なんか待たずにどんどん先に歩いていく。
少しは後を追う私のことも考えてほしい。


会社では以前と変わらず、片桐課長と関わることなんてなかった。
私から声をかけるなんてことはもちろんしないし、片桐課長からかけてくることもない。

ただいつも突然、SMSで呼び出される。

断ろうと考えなかったわけじゃない。

でも、片桐課長の笑顔を思い出すと、あと一回、これで最後にするからと、ずるずる続けていた。

「ここは熟成肉を出してくれるお店なんだ」

メニューを見ながらあれこれと片桐課長が説明してくれる。
職業柄か、いつもうんちくが深い。

軽く手を上げて店員を呼び、テキパキと片桐課長は注文していく。

毎度のことながらスマートなその姿に、だから女性にもてるんだろうと思った。

すぐに飲み物とサラダが出てくる。
片桐課長はビール、私は肉には赤ワインだろって、赤ワインベースのカクテルを頼んでくれた。

「こういう店オリジナルとか、どんどん提案できるといいんだけどな」

片桐課長の飲んでいるビールは、肉にあうようにお店独自で作っているらしい。
視察じゃないと言いながらも、お店の中や料理の味なんかを確認していろいろ考えている片桐課長は尊敬できるな。

「これからしばらくはこうやって、笹岡とメシに来られないなー」

「……、はい?」

噛んでいたステーキ肉を飲み込んで首を傾げる。
最初のメモがのって三ヶ月が過ぎようとしているいま、こうやって片桐課長から食事に呼び出されるのは、日常になっていた。

――いまだにどうして、私なのかはわからないが。

「だいたい今頃から年末にかけて殺人的に忙しくなっていくからな」

「ああ……」

季節が秋から冬へと変われば、忘年会、クリスマス、お正月と外食産業はかき入れ時だ。
ならばそこに食材を卸しているうちの会社も当然、忙しくなるわけで。
連日帰りが午後九時を回っていた去年の年末を思い出して身震いした。

「正月も過ぎると暇になるし、……そうだ、旅行にでも行くか。
温泉でゆっくり疲れを癒やして、うまいもん食って」

なんだか楽しそうに計画を立てていらっしゃいますが、それってまさか。

「おひとりで行くんですよね」

そうだったらいいと、上目でおそるおそるうかがう。

「は?
お前も一緒に決まってんだろ」

なにを言っているのか全く理解できない、そんな感じで片桐課長は二、三度まばたきした。
けれど私は、お酒のせいとは思えない頭痛がしていた。

「前も聞いたと思うんですけど。
どうして好きな人じゃなくて私を誘うんですか?」

好きな人の代わり?

なら少しは納得できる。
と、同時に胸の奥がつきんと痛んだが、それには気づかないフリ。

私が聞いた途端、片桐課長はジョッキに残っていた、結構な量のビールをごくごくと一気に飲み干した。
空になったジョッキをガンッ!と乱暴にテーブルに叩きつけられ、思わず身体がびくんと揺れる。

「俺の勝手だろ」

「……はい」

じろりと眼光鋭く睨みつけられ、身体が小さく縮こまる。
片桐課長が店員を呼んで新しいビールを頼み、しばらくの間、気まずい沈黙がふたりの間を支配する。
ビールが届くとごくごくと一気に半分まで、片桐課長はグラスを空けた。

「笹岡はこうやって、俺に誘われるのが迷惑か」

「……迷惑では、ありません」

イラついている片桐課長が怖くて、目に涙が溜まっていく。
落ちないように顔を上げると、片桐課長と目があった。

「なら、いいだろ」

ぷいっと目を逸らし、またグラスのビールを口に運ぶ。
その後はずっと、テーブルの上の料理をふたりで黙って食べていた。


「タクシー代」

「あの」

「じゃあ」

駅までは送ってくれたけど、私にお金を押しつけ片桐課長はさっさと去っていく。
重い気持ちでとぼとぼと改札をくぐり、それでも外を振り返る。
しかしそこに期待した人の姿はない。

――期待?

私はなにを期待していたんだろう。


それから片桐課長が私を誘ってくることはなくなった。
やっと謎の食事から解放されて清々しているはずなのに、淋しくて仕方ない。
それに最後が気まずいままだっただけに、胸がキリキリと痛む。
いまは仕事が忙しいからそんな暇がないだけだと無理に納得した。
そうじゃないと泣いてしまいそうだったし、――それに。
そんな自分が怖かった。
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