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第2章 旅行は突然に
1. 意味不明なSMS
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ピリリ、通知音が鳴り携帯を手に取る。
ぱかっと画面を開くとSMSが届いていた。
【もう寝たか。
片桐】
〝片桐〟の文字に、ベッドの上で正座していた。
時刻は午後十一時。
今日は八時まで残業して帰ってきてごはんとお風呂を済ませ、やっと自分の部屋でまったりしていたところだ。
【まだ起きています。
なにか、御用でしょうか?】
ポチポチとキーを打って返信し、ドキドキしながら返事を待つ。
気まずいまま終わった食事から半月がたった。
あれから片桐課長からのメッセージが来たのは、これが初めてだ。
【正月は暇か】
次に送られてきたメッセージに首を捻る。
暇かと言われれば確かに暇だ。
きっと家でだらだら過ごして終わりだろう。
【特に予定はないですが】
【わかった】
【なにかあるんですか】
その後は待てど暮らせど返信はない。
思い切って電話してみようかとも考えたが、また俺の勝手とか言われたら、どうしていいのかわからない。
それに、この短い文面からはいまだに片桐課長が怒っているかどうかすら判断できなかった。
結局、悶々と眠れぬ夜を過ごし、寝不足で会社に行く。
なのにのんきに〝経理の姫〟関根さん片桐課長は話していて、ムッとした。
……あなたのお陰で私は寝不足だっていうのに。
ちらっとこっちを見た片桐課長と目があって、慌てて逸らす。
じっと見ていたなんて思われたくない。
でも楽しそうに話しているのが気になって、そろそろと視線を戻していた。
……なに話してるんだろ。
私には関係ないこととわかっているのに、ちらちらと様子をうかがってしまう。
急に片桐課長は周囲を見渡し、持っていたファイルで視線を遮るようにして関根さんに顔を寄せた。
それはどう見ても――キス、しているようにしか見えない。
「じゃあその件、柳課長に伝えておきますね」
ファイルの影から顔を出した関根さんは顔を赤らめていて、やはりそういうことをしたとしか考えられなかった。
「うん、よろしく」
ペコペコあたまを下げて関根さんがいなくなり、片桐課長もまた、パソコンへと視線を向ける。
私もいい加減、仕事に集中しようと椅子に座り直そうとした瞬間。
――片桐課長が口もとだけでにやっと笑った。
それはまるでずっと私が見ていたのを気づいていたようで、一気に顔が火を噴く。
しかし、会社の中、しかもみんながいる場所であんなことをしていた方が悪いし、さらには見られていると気づいているのにする方がどうかしている。
それにしても片桐課長は噂通り、関根さんと付き合っていたんだ。
なら、どうして私を食事に誘ったりとかしていたんだろう。
それともこの間、怒らせたから私が嫌いになって、関根さんと付き合うことにした?
でも、そもそも私と片桐課長は付き合っていたわけじゃないんだから、片桐課長がどうしようと自由だ。
わかっているのに心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられ、苦しかった。
「……。
はぁーっ」
ため息をついて見つめていた携帯を閉じ、ベッドに放り投げる。
もう何度、同じことを繰り返しただろう。
片桐課長にメッセージを送ってみようと思うものの、なにを打っていいのかわからない。
「会社で声かけるとか無理だもんなー……」
あちらはいつもキラキラ輝いているけど、私は地味で目立たない。
きっといままで私をからかって楽しんでいただけだろうと思うし、気に触ることを言ったからどうでもよくなったというところだろう。
そもそもなんで、あれで機嫌が悪くなったのか、私には全くわからない。
ぐちぐち悩む暇を与えないかのように、仕事は年末に向かってどんどん忙しくなっていく。
なにも考えたくない私は仕事に忙殺されていった。
【31日、駅前に11時。
泊まりの準備してくること。
片桐】
もう片桐課長なんてすっぱり気にしないようにしようと決めていた十二月二十九日、仕事納め。
家に帰り携帯を開き、画面を見て複雑な気分になった。
……だから、どういうこと?
もう私には関心がないんだと思っていた。
メッセージも送られてこないし、会社でも声かけられたりとかなかったから。
なのに、――このメッセージはいったい、なに?
戸惑いつつ、携帯のキーをポチポチと打つ。
【意味がわかりません】
送って一分もしないうちに、まるで待っていたかのようにピリリと携帯が鳴る。
【正月、旅行に行こうって話しただろ】
確かにあの日、正月過ぎたら暇になるから旅行に行こうなどと話していた。
そういえば十二月に入ってまもなくく、正月は暇かとか謎のメッセージも来ていた。
【行くなんてひと言も言っていません】
【もう決まった。
予定ないって言っただろ】
ええ、言いましたけど。
なら、予定があれば行かなくていいんだろうか。
逡巡して指が動かない。
もうこれ以上、振りまわされたくないのだから、断ってしまえばいいのはわかっている。
でも。
――でも。
【わかりました】
送った途端に後悔した。
すぐにまた、ピリリと携帯が鳴る。
【待ってるから】
返ってきたメッセージを見て、なぜか詰めていた息をほっと吐いた。
電車の窓の外を、町がどんどん流れていく。
膝の上に本を広げたまま、それをぼーっと見ていた。
……ほんとによかったのかな。
両親には友達に誘われたと嘘をついた。
彼氏でもない男と泊まりで旅行に行くなんて言いにくいし、それに相手は彼女持ちなのだ。
また同じ過ちを犯そうとしているのはわかっている。
でももう一度、片桐課長とふたりで会いたかった。
……思い出、作らせてもらって忘れよう。
降りる駅のホームが近づいてきて、本をぱたんと閉じた。
ぱかっと画面を開くとSMSが届いていた。
【もう寝たか。
片桐】
〝片桐〟の文字に、ベッドの上で正座していた。
時刻は午後十一時。
今日は八時まで残業して帰ってきてごはんとお風呂を済ませ、やっと自分の部屋でまったりしていたところだ。
【まだ起きています。
なにか、御用でしょうか?】
ポチポチとキーを打って返信し、ドキドキしながら返事を待つ。
気まずいまま終わった食事から半月がたった。
あれから片桐課長からのメッセージが来たのは、これが初めてだ。
【正月は暇か】
次に送られてきたメッセージに首を捻る。
暇かと言われれば確かに暇だ。
きっと家でだらだら過ごして終わりだろう。
【特に予定はないですが】
【わかった】
【なにかあるんですか】
その後は待てど暮らせど返信はない。
思い切って電話してみようかとも考えたが、また俺の勝手とか言われたら、どうしていいのかわからない。
それに、この短い文面からはいまだに片桐課長が怒っているかどうかすら判断できなかった。
結局、悶々と眠れぬ夜を過ごし、寝不足で会社に行く。
なのにのんきに〝経理の姫〟関根さん片桐課長は話していて、ムッとした。
……あなたのお陰で私は寝不足だっていうのに。
ちらっとこっちを見た片桐課長と目があって、慌てて逸らす。
じっと見ていたなんて思われたくない。
でも楽しそうに話しているのが気になって、そろそろと視線を戻していた。
……なに話してるんだろ。
私には関係ないこととわかっているのに、ちらちらと様子をうかがってしまう。
急に片桐課長は周囲を見渡し、持っていたファイルで視線を遮るようにして関根さんに顔を寄せた。
それはどう見ても――キス、しているようにしか見えない。
「じゃあその件、柳課長に伝えておきますね」
ファイルの影から顔を出した関根さんは顔を赤らめていて、やはりそういうことをしたとしか考えられなかった。
「うん、よろしく」
ペコペコあたまを下げて関根さんがいなくなり、片桐課長もまた、パソコンへと視線を向ける。
私もいい加減、仕事に集中しようと椅子に座り直そうとした瞬間。
――片桐課長が口もとだけでにやっと笑った。
それはまるでずっと私が見ていたのを気づいていたようで、一気に顔が火を噴く。
しかし、会社の中、しかもみんながいる場所であんなことをしていた方が悪いし、さらには見られていると気づいているのにする方がどうかしている。
それにしても片桐課長は噂通り、関根さんと付き合っていたんだ。
なら、どうして私を食事に誘ったりとかしていたんだろう。
それともこの間、怒らせたから私が嫌いになって、関根さんと付き合うことにした?
でも、そもそも私と片桐課長は付き合っていたわけじゃないんだから、片桐課長がどうしようと自由だ。
わかっているのに心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられ、苦しかった。
「……。
はぁーっ」
ため息をついて見つめていた携帯を閉じ、ベッドに放り投げる。
もう何度、同じことを繰り返しただろう。
片桐課長にメッセージを送ってみようと思うものの、なにを打っていいのかわからない。
「会社で声かけるとか無理だもんなー……」
あちらはいつもキラキラ輝いているけど、私は地味で目立たない。
きっといままで私をからかって楽しんでいただけだろうと思うし、気に触ることを言ったからどうでもよくなったというところだろう。
そもそもなんで、あれで機嫌が悪くなったのか、私には全くわからない。
ぐちぐち悩む暇を与えないかのように、仕事は年末に向かってどんどん忙しくなっていく。
なにも考えたくない私は仕事に忙殺されていった。
【31日、駅前に11時。
泊まりの準備してくること。
片桐】
もう片桐課長なんてすっぱり気にしないようにしようと決めていた十二月二十九日、仕事納め。
家に帰り携帯を開き、画面を見て複雑な気分になった。
……だから、どういうこと?
もう私には関心がないんだと思っていた。
メッセージも送られてこないし、会社でも声かけられたりとかなかったから。
なのに、――このメッセージはいったい、なに?
戸惑いつつ、携帯のキーをポチポチと打つ。
【意味がわかりません】
送って一分もしないうちに、まるで待っていたかのようにピリリと携帯が鳴る。
【正月、旅行に行こうって話しただろ】
確かにあの日、正月過ぎたら暇になるから旅行に行こうなどと話していた。
そういえば十二月に入ってまもなくく、正月は暇かとか謎のメッセージも来ていた。
【行くなんてひと言も言っていません】
【もう決まった。
予定ないって言っただろ】
ええ、言いましたけど。
なら、予定があれば行かなくていいんだろうか。
逡巡して指が動かない。
もうこれ以上、振りまわされたくないのだから、断ってしまえばいいのはわかっている。
でも。
――でも。
【わかりました】
送った途端に後悔した。
すぐにまた、ピリリと携帯が鳴る。
【待ってるから】
返ってきたメッセージを見て、なぜか詰めていた息をほっと吐いた。
電車の窓の外を、町がどんどん流れていく。
膝の上に本を広げたまま、それをぼーっと見ていた。
……ほんとによかったのかな。
両親には友達に誘われたと嘘をついた。
彼氏でもない男と泊まりで旅行に行くなんて言いにくいし、それに相手は彼女持ちなのだ。
また同じ過ちを犯そうとしているのはわかっている。
でももう一度、片桐課長とふたりで会いたかった。
……思い出、作らせてもらって忘れよう。
降りる駅のホームが近づいてきて、本をぱたんと閉じた。
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