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第3章 同棲は突然に
3. マンションを買った(おにぎりを買った調で)
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「美味しかったです、ごちそうさまでした」
「うん」
いままであの旅行を除いて休みの日に呼び出されるなんてなかったから、今日はどうしたのかと思ったけれど。
あんなお店なら晩ごはんにするわけにはいかないからだと納得した。
なのに車は来たときと違う道を通り、マンションの地下駐車場に停まる。
……はい?
とうとう家に連れ込む気ですか?
なんだか頭痛がしてきて軽くこめかみを押さえた。
「さっさと降りろ」
いつまでも私が降りないでいると、じろっと窓の向こうから睨んでくる。
「……嫌です」
「は?」
バッグを抱いて断固拒否していたら、ガッ!と乱暴に助手席のドアを開けられた。
「なーにやってるんだー?」
「ひぃっ」
顔は薄ら笑っているのに、眼鏡の奥の目が全く笑っていなくて怖い。
「それともお前はやっぱり、そんなにお仕置きしてもらいたいのかー?」
手を腰に、ぐいっとその高い背を屈めて顔を近づけてくる。
ガタガタ震えている私なんか無視して片桐課長の顔がより一層近づいた。
「……今度は途中でやめないからな」
耳もとで囁かれる重低音で、背筋がゾクゾクと波立つ。
私から顔を離し、右の口端だけを上げてニヤリと笑った。
「お、降りますから!」
「最初っから素直にそうしときゃいんだ」
地面に立つと生まれたての子鹿みたいに足がぷるぷるしていた。
ぎくしゃくと歩く私を、片桐課長は意地悪くニヤニヤと笑っている。
「うまく歩けないなら抱っこしてやろうか」
「結構です!」
虚勢を張ってずんずん歩くがすぐに片桐課長は私を追い抜かし、先に歩いていった。
エレベーターに乗り、片桐課長は最上階の六階を押した。
黙って階数表示が上がっていくのを見つめる。
六階に到着して扉が開くとそこは、内廊下になっていた。
左はすぐ行き止まりで正面にドアがある。
そのドアを素通りし、右に片桐課長の歩幅で十歩、私の歩幅で十二歩移動すると、突き当たりにまたドアがある。
そのドアを片桐課長は開けた。
「どうした、入らないのか」
「いえ……」
ドアを押さえたまま振り返られ、曖昧に笑って中に入る。
「おじゃましまーす……」
部屋の中は生活感がない……というよりも、通されたリビングには家具が一切なかった。
「あの……?」
……まさかここで生活しているわけじゃないですよね?
いくら物を置かない主義の人だとしても、これで生活ができるとは思えない。
「買ったんだ、最近」
まるでコンビニでおにぎりでも買ったかのように言う片桐課長の感覚が理解できない。
いや、私なんかじゃ想像できない年収の彼だったら、普通なのかもしれないが。
「角部屋というかこの階に部屋は二戸しかない。
少し奥まっているが大通りまですぐだし、バス停まで徒歩で五分もかからない。
会社までバスで十分くらいだし、どうだ?」
いや、どうだと聞かれても、はい、そうですか、くらいの感想しかないんですが。
そもそもなんで、私に聞くの?
答えがもらえないうえに私が困惑して黙っているものだから、次第に片桐課長がイラついてくる。
「引っ越せって言っただろ、会社の近くに。
だからマンション買ったんだ」
「……ハイ?」
私にはこの人が言っていることが、全く理解できないんですが……おかしくないですよね?
「ここに住めって言ってんの」
「……ハイ?」
壊れた人形のように横に首をかくかくと傾け続ける。
そんな私に片桐課長はさらにイラついていく。
「だから!
ここに住むんだよ!
お前と、俺が!」
「……ハイ?」
やっぱりなにを言っているのかさっぱり理解できない。
片桐課長と私がここで一緒に生活するとか。
しかも同棲なのかルームシェアなのか知らないけれど、そのためにわざわざマンション買ったとか。
――コノヒトハイッタイ、ナニヲイッテイルノデスカ。
「とにかく引っ越しは来週の土曜だからな!
ちゃんと準備しとけよ!」
「……ハイ?
……じゃなくてちょっと待ってください!」
あたまが理解を拒否して機械的に返事を繰り返していたが、聞き捨てならない言葉で我に返った。
「引っ越しってなんですか!? しかもなんで、決定してるんですか!?」
「俺の勝手」
ぷいっとふて腐れたように片桐課長が視線を逸らす。
都合が悪いといつもそう。
「引っ越しなんてしませんよ。
勝手に決めないでください」
「ご両親の許可はもらったぞ」
「ハイ?」
間抜けにもじっと、眼鏡越しに片桐課長の瞳を見つめてしまう。
彼がくいっと覆うように眼鏡を上げ、得意げにレンズが光った。
……許可取ったっていつ?
今日の朝、珍しくなんのメッセージも入ってこなかったNYAINを思い出す。
……もしかして、その時間を作るために私を起こさなかった?
俯いて握った拳がぶるぶると小刻みに震える。
きっ、と片桐課長を睨みつけるものの、涼しい顔をしていて全く効いていない。
「通勤に一時間以上かかるのは大変だろうし、残業のときは心配だからな。
会社の近くにマンション持ってるからそこで一緒に暮らそうと思うんですが、って言ったら許可してくれたぞ」
してやったりとでもいうか片桐課長が右の口端をニヤリと上げ、頭痛がして、あたまを抱えた。
……ちょっと待って。
どんな手を使ってうちの両親を懐柔した?
だいたい、うちの親もなんで、許可なんて出した?
「とにかく、土曜に引っ越しだ。
日にちがないからな、さっさと準備しろよ」
「……ハイ」
いっぱいいっぱいになってしまった私はもう、諦めて状況を受け入れた……。
「うん」
いままであの旅行を除いて休みの日に呼び出されるなんてなかったから、今日はどうしたのかと思ったけれど。
あんなお店なら晩ごはんにするわけにはいかないからだと納得した。
なのに車は来たときと違う道を通り、マンションの地下駐車場に停まる。
……はい?
とうとう家に連れ込む気ですか?
なんだか頭痛がしてきて軽くこめかみを押さえた。
「さっさと降りろ」
いつまでも私が降りないでいると、じろっと窓の向こうから睨んでくる。
「……嫌です」
「は?」
バッグを抱いて断固拒否していたら、ガッ!と乱暴に助手席のドアを開けられた。
「なーにやってるんだー?」
「ひぃっ」
顔は薄ら笑っているのに、眼鏡の奥の目が全く笑っていなくて怖い。
「それともお前はやっぱり、そんなにお仕置きしてもらいたいのかー?」
手を腰に、ぐいっとその高い背を屈めて顔を近づけてくる。
ガタガタ震えている私なんか無視して片桐課長の顔がより一層近づいた。
「……今度は途中でやめないからな」
耳もとで囁かれる重低音で、背筋がゾクゾクと波立つ。
私から顔を離し、右の口端だけを上げてニヤリと笑った。
「お、降りますから!」
「最初っから素直にそうしときゃいんだ」
地面に立つと生まれたての子鹿みたいに足がぷるぷるしていた。
ぎくしゃくと歩く私を、片桐課長は意地悪くニヤニヤと笑っている。
「うまく歩けないなら抱っこしてやろうか」
「結構です!」
虚勢を張ってずんずん歩くがすぐに片桐課長は私を追い抜かし、先に歩いていった。
エレベーターに乗り、片桐課長は最上階の六階を押した。
黙って階数表示が上がっていくのを見つめる。
六階に到着して扉が開くとそこは、内廊下になっていた。
左はすぐ行き止まりで正面にドアがある。
そのドアを素通りし、右に片桐課長の歩幅で十歩、私の歩幅で十二歩移動すると、突き当たりにまたドアがある。
そのドアを片桐課長は開けた。
「どうした、入らないのか」
「いえ……」
ドアを押さえたまま振り返られ、曖昧に笑って中に入る。
「おじゃましまーす……」
部屋の中は生活感がない……というよりも、通されたリビングには家具が一切なかった。
「あの……?」
……まさかここで生活しているわけじゃないですよね?
いくら物を置かない主義の人だとしても、これで生活ができるとは思えない。
「買ったんだ、最近」
まるでコンビニでおにぎりでも買ったかのように言う片桐課長の感覚が理解できない。
いや、私なんかじゃ想像できない年収の彼だったら、普通なのかもしれないが。
「角部屋というかこの階に部屋は二戸しかない。
少し奥まっているが大通りまですぐだし、バス停まで徒歩で五分もかからない。
会社までバスで十分くらいだし、どうだ?」
いや、どうだと聞かれても、はい、そうですか、くらいの感想しかないんですが。
そもそもなんで、私に聞くの?
答えがもらえないうえに私が困惑して黙っているものだから、次第に片桐課長がイラついてくる。
「引っ越せって言っただろ、会社の近くに。
だからマンション買ったんだ」
「……ハイ?」
私にはこの人が言っていることが、全く理解できないんですが……おかしくないですよね?
「ここに住めって言ってんの」
「……ハイ?」
壊れた人形のように横に首をかくかくと傾け続ける。
そんな私に片桐課長はさらにイラついていく。
「だから!
ここに住むんだよ!
お前と、俺が!」
「……ハイ?」
やっぱりなにを言っているのかさっぱり理解できない。
片桐課長と私がここで一緒に生活するとか。
しかも同棲なのかルームシェアなのか知らないけれど、そのためにわざわざマンション買ったとか。
――コノヒトハイッタイ、ナニヲイッテイルノデスカ。
「とにかく引っ越しは来週の土曜だからな!
ちゃんと準備しとけよ!」
「……ハイ?
……じゃなくてちょっと待ってください!」
あたまが理解を拒否して機械的に返事を繰り返していたが、聞き捨てならない言葉で我に返った。
「引っ越しってなんですか!? しかもなんで、決定してるんですか!?」
「俺の勝手」
ぷいっとふて腐れたように片桐課長が視線を逸らす。
都合が悪いといつもそう。
「引っ越しなんてしませんよ。
勝手に決めないでください」
「ご両親の許可はもらったぞ」
「ハイ?」
間抜けにもじっと、眼鏡越しに片桐課長の瞳を見つめてしまう。
彼がくいっと覆うように眼鏡を上げ、得意げにレンズが光った。
……許可取ったっていつ?
今日の朝、珍しくなんのメッセージも入ってこなかったNYAINを思い出す。
……もしかして、その時間を作るために私を起こさなかった?
俯いて握った拳がぶるぶると小刻みに震える。
きっ、と片桐課長を睨みつけるものの、涼しい顔をしていて全く効いていない。
「通勤に一時間以上かかるのは大変だろうし、残業のときは心配だからな。
会社の近くにマンション持ってるからそこで一緒に暮らそうと思うんですが、って言ったら許可してくれたぞ」
してやったりとでもいうか片桐課長が右の口端をニヤリと上げ、頭痛がして、あたまを抱えた。
……ちょっと待って。
どんな手を使ってうちの両親を懐柔した?
だいたい、うちの親もなんで、許可なんて出した?
「とにかく、土曜に引っ越しだ。
日にちがないからな、さっさと準備しろよ」
「……ハイ」
いっぱいいっぱいになってしまった私はもう、諦めて状況を受け入れた……。
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