19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 公表は突然に

5. 一緒の出社とかなにかの罰ゲーム?

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今日は片付けまで片桐課長がやってくれた。
一緒に家を出て、同じバスに乗る。
あんなに別々にこだわっていたのに、いいのかちょっと気になった。

バスを降りてさっさと先に行けばいいのに、なぜか私の歩幅にあわせて隣に並んで歩いてくる。

「なに、やってるんですか」

「んー、これからは一緒に出勤するか」

突然この人が、なにを言いだしたのか理解できない。
それに会社に近づくにつれ、チクチクと視線が痛くなっていく。

「じゃ、また後でな」

人目なんか気にせずに、更衣室のある階で先にエレベーターを降りた私へ手を振ってこられると、さすがに引きつった笑顔しか返せなかった。

扉が閉まるとあんなに静まりかえっていたのが嘘のように、ざわめきだす。

……もしかして昨日の小説ごっこ、まだやってるのかな。

そうだとしか考えられない。
なら、勘弁してほしい。

「ねえ!
あんた、片桐課長とどういう関係?」

更衣室に入った途端に、壁ドンされた。
じろっと私を睨む彼女はどなたかは知りませんが、やはり片桐課長に想いを寄せるひとりなのだろう。
周囲の人間はちらちらとこちらをうかがい、ひそひそと話をしている。
どうも興味津々にことの成り行きを見守っているようだ。

「どうと言われましても……」

それは私が、一番知りたいことなのだ。

一度聞いたら、可愛い友達だと言われた。
それも私が言わせたようなものだが。
けれどあの人はその友達を平気で抱く。
かといってセフレというほど割り切っているわけでもない。

「はっきり言いなさいよ!」

「ええっと……同居人?
……ひぃっ」

曖昧に笑ってごまかすと、バン!と壁を強く叩かれた。
お陰で身が竦み、うっすら涙が浮かんでくる。

「へぇー、一緒に住んでるんだー?」

にたーっと笑っているのに目の奥は全く笑っていなくて、怖い。
ガタガタと震える私に、彼女は顔を近づけた。

「さっさと出ていきなさい?
じゃないと……」

「は、はいっ」

私の返事に彼女は満足げに笑い、その場から去っていった。
解放されてほっと息をつき、時計を見ると朝礼の時間が迫っている。
大慌てで制服に着替え、職場へと急いだ。


一日中、社内は片桐課長の〝同居人〟の話題で持ち切りだった。

「……ほら、彼女が」

「……へぇ、そうなんだ」

どこに行ってもひそひそ話がついてまわって鬱陶しい。

「笹岡!」

お昼休み、今日はお弁当なしだからコンビニへ行こうとしたら、いきなり片桐課長から腕を取られた。

「一緒に昼メシ食おう」

「いえ、私は……」

私にかまうことなく、腕を掴んでどんどん歩いていく。
エレベーターに乗せられ、私が社内で行きたくないところのひとつ、社食へと連れていかれた。

「私はひとりで食べるので……」

「なに食うか?
今日の日替わりはコロッケだってよ。
コロッケといえばこの間、笹岡が作ってくれたのがうまかったな」

やっぱり私を無視して私の分までお盆を持って、片桐課長は列へと並ぶ。

「……はぁーっ」

この人になにを言ったって無駄なのだ。
大きなため息をつきつつ、片桐課長の後ろに並んだ。

適当に空いたテーブルに着いた私たちの周りは、混雑しているのになぜか、ぽっかりと空間が空いていた。

「そんなものでいいのか」

「……いいんです」

片桐課長の前にはカツカレーが置かれているが、私の前にはうどんが置かれていた。
いや、こんな状況で食欲がある方がどうかしている。
さっきからひそひそ話が酷いのに。

お箸を握り、熱いうどんをちまちま食べる。
いつ間野くんに見つかるかとビクビクしている上に、纏わりつく視線が鬱陶しくて憂鬱な私と違い、片桐課長はなぜかご機嫌だ。

「晩メシ、なにが食いたい?」

こんなところで夕ごはんの相談しないでほしい。
それに食欲がないいま、そんなことを聞かれても困る。

「ここ、いいですかぁ」

唐突に声をかけられ、俯いていた顔を上げた。

そこにはトレイを手に、〝総務のマドンナ〟川辺かわべさんが立っている。

「え、ええ、どうぞ」

曖昧に私は笑って頷いたものの、片桐課長はあきらかに不機嫌になっている。
川辺さんが片桐課長を狙っているっていうのは、有名な話だ。

「片桐課長、今日はお食事に行かれるんですかぁ?
私も連れていってくださいよぅ」

川辺さんはしれっと片桐課長の隣に座り、完璧な笑顔を浮かべた。
マドンナって呼ばれている意味がわかる。
可愛いメイクをしてあんな笑顔を向けられれば、男は誰でもイチコロだろう。

「お前なんかと行ったら、メシがまずくなる」

私とふたりのときはあんなに笑っているのが嘘みたいに、片桐課長は感情を一切、シャットアウトしたしたような顔をしている。

「そんなぁー。
酷いですぅ」

川辺さんは笑っているが、唇の端がピクピクと引きつっていた。
まあ、私でもそんなことを言われれば、同じようになるだろうけど。

「だいたいその人ぉ、誰なんですかぁ?」

完全に川辺さんは私を見下している。

確かに、可愛らしい川辺さんに比べれば私なんてただの地味女だし?

わかっていても腹は立つ。
でもいらん喧嘩を買うのは嫌だ。
無視してうどんを食べていよう。

「片桐課長の同居人って話ですけどぉ。
全然片桐課長と釣り合ってないしぃ」

いちいちムカつくな、川辺さん。
その甘ったるい、鼻に抜ける間延びした話し方も。
これ見よがしにちらちら見てくるその視線も。

「やっぱり片桐課長の隣はぁ、私みたいに可愛い子の方が似合うと思うんですけどぉ」

勝ち誇った視線を川辺さんが向けてくる。
片桐課長が誰と付き合おうと、ただの友達で同居人のは私には関係のないことだ。
けれどこれには完全にあたまにきて、パチンと大きな音が出るほど乱暴に、箸を置いていた。

「あのっ」

「それってお前が、俺と釣り合うって思ってるわけ?」
私の声に被せるように、片桐課長がその場を凍らせるような冷たい声を出し、事実、その場は凍りついた。

「悪いんだけど俺、お前みたいに外見だけ磨いてあたまの軽い女、大っ嫌いなんだよね」

はぁっと、これ見よがしに片桐課長が大きなため息をつく。

「メシがまずくなった。
行くぞ、笹岡」

「えっ、ちょっと待ってください!」

まだ残っているカツカレーをトレイにのせたまま片桐課長が席を立つので、私も食べかけのうどんを手に後を追う。

――俯いてぷるぷる震えている、川辺さんを残して。
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