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第5章 元彼は突然に
1. 野次馬=女の友情
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――片桐課長にちゃんと気持ちを伝える。
そう決めたけれど、タイミングが掴めない。
悶々と過ごす中、珍しく同期から飲みに誘われた。
「だって笹岡、同期飲み会来ないんだもん。
間野の結婚祝いのときも来なかったし」
ワイングラスを揺らしながら山村さんに責められた。
間野くんと顔をあわせたくない私はあれからずっと、同期の集まりを避けている。
「そうそう、仕事忙しいとか言うしさ。
営業二課ってあんまりいい噂聞かないから、心配してたんだよ」
那須さんがバケットの上に海老のアヒージョをのせ、噛みつく。
「携帯も替えてNYAINもできなくなってたし。
あ、ついでに友達登録しとこうよ」
料理の写真を撮っていた手を止め、小島さんはNYAINへ画面を切り替えているようだ。
「えっと。
いろいろ、ごめん」
この三人とは間野くんとああなる前までは仲がよかった。
一緒に夢の国ランドに行くくらいには。
でも間野くんから逃げたい私は彼女たちからも一方的に連絡を絶った。
しかしこの間の騒ぎを知って武勇伝を聞きたいなどと飲みに誘ってくるあたり、野次馬根性とは呼ばずまだ友情があったのだと思っておこう。
「それにしても笹岡が片桐課長と同棲してるなんて、意外だったなー」
くいっとグラスの中身を飲み干し、山村さんは手酌でワインを注いだ。
彼女はいつもそうだ、あまり食べずに飲んでいる。
「結構甘やかされてるんじゃないの?
このお店だって片桐課長の紹介だし」
新たに届いた、ピザの伸びるチーズを器用に捌き、那須さんは口に運んだ。
少しぽっちゃりとした彼女は食べるの専門。
「だよねー。
みんなの前でこれ見よがしにキスしてたらしいし」
小島さんの手から携帯が離れることはない。
なぜなら彼女はニャンスタグラマーでゴシップ好きだから。
「え、えーっと。
まあ、ね」
ワインベースのカクテルに口をつけながら、心の中ではぁっと小さくため息をついた。
同期から飲み会に誘われたと言っても、片桐課長は快く許可を出してくれた。
ただし、自分の紹介する店を利用することと条件を出されたが。
「でもいいなー。
片桐課長といえば優良物件じゃん?
ほら、昔言われてた、三高、だっけ?
あれだし」
「高身長、高学歴、高収入だっけ。
確かにそれは満たしてる」
「しかも奥川部長、ご両親の介護で早期退職考えてるって話だし。
そうなると二十代で部長も夢じゃないよね」
好き放題言う三人に、少しだけ腹が立った。
優良物件って言い方も嫌いだし、片桐課長の外側だけで評価されるのも嫌。
「あー、でも、家でも黙って俺についてこい、going my wayだったらちょっと嫌かも」
「確かにー。
優柔不断よりは俺様がいいけど、ちゃんと気遣ってほしいよね」
「片桐課長ってその辺どうなの?
ねえ、笹岡さん」
「えっ!?」
曖昧な笑みを貼り付けてただ聞き流していたところに急に話を振られ、慌ててしまう。
「樹馬さんは強引だけど、私をいっぱい、甘やかせてくれるよ?」
「樹馬さん……」
三人は顔を見合わせるとニヤニヤと笑い出し、しまったと思う。
家で、名前で呼ぶように癖をつけさせられているので、焦って返事をしたせいでそれが出ていた。
「そこんとこ、もっと詳しく話聞かせてよ」
「ねー」
「うっ」
だいぶお酒が回っているのもあって、こうなるともう避けられない。
私は観念し、勢いをつけるためにグラスに残っていたお酒を一気に空けた。
「笹岡さんって片桐課長に愛されてるんだー」
「そ、そうかな」
あれからどれくらいがたったのだろう。
チラリと見た時計はすでに九時を回っている。
そろそろ、解放してもらえないだろうか。
「あ、こっち!」
合図するように軽く手を上げた、小島さんの視線の先を見て固まった。
そこには――間野くんが立っていたから。
「遅かったね、残業?」
「ああ、川辺さんが急に辞めたから、しわ寄せがきてさ」
川辺さんはあれから、自分磨きをすると会社を辞めてしまった。
いまはどうしているのかわからないが、私としては彼女の幸せを願わずにはいられない。
何事もないかのように私の隣に座り、間野くんは店員を呼び止めてビールを頼んだ。
「間野くんも災難だよね」
「まあな」
「家、大丈夫?」
「あ、嫁いま、子供連れて実家に帰ってるんだ」
どくん、どくんと心臓が大きく鼓動し、周りの音が遠くなる。
「なんで、間野くん、が」
声が震えないように気を使う。
私はいま、普通の顔をしているだろうか。
「間野くん、笹岡さんに避けられてる気がするって傷ついてたよ。
だから今日は、サプライズゲストに呼んだの!」
得意げに小島さんが胸を張る。
今日は女子会だって聞いていた。
だから片桐課長は許可を出してくれたし、だから私も来た。
なのに。
「わ、私、そろそろ帰るね。
あんまり遅くなると樹馬さんが心配するし」
カゴの中に置いてあるバッグに伸ばした手を、間野くんに掴まれた。
「えー、まだいいじゃん。
間野も来たばっかりだし」
興味なさげに山村さんはワイングラスをぐるぐる回している。
「そうだよ、デザート食べないで帰るなんて損だよ」
那須さんにとって重要問題かもしれないが、いまの私にとってはどうでもいい問題だ。
「もっと笹岡さんの話、聞きたーい。
間野くんだって聞きたいよね」
小島さんはきっと、もっとネタを仕入れたいだけなんだろう。
「ああ、オレも笹岡の話、聞きたいな」
間野くんがにっこりと笑う。
必死に引き離そうとした手は負け、指を絡めてがっつりと握られた。
「……うん」
私は浮かしかけた腰を再び下ろし、俯いて唇を噛んだ。
そう決めたけれど、タイミングが掴めない。
悶々と過ごす中、珍しく同期から飲みに誘われた。
「だって笹岡、同期飲み会来ないんだもん。
間野の結婚祝いのときも来なかったし」
ワイングラスを揺らしながら山村さんに責められた。
間野くんと顔をあわせたくない私はあれからずっと、同期の集まりを避けている。
「そうそう、仕事忙しいとか言うしさ。
営業二課ってあんまりいい噂聞かないから、心配してたんだよ」
那須さんがバケットの上に海老のアヒージョをのせ、噛みつく。
「携帯も替えてNYAINもできなくなってたし。
あ、ついでに友達登録しとこうよ」
料理の写真を撮っていた手を止め、小島さんはNYAINへ画面を切り替えているようだ。
「えっと。
いろいろ、ごめん」
この三人とは間野くんとああなる前までは仲がよかった。
一緒に夢の国ランドに行くくらいには。
でも間野くんから逃げたい私は彼女たちからも一方的に連絡を絶った。
しかしこの間の騒ぎを知って武勇伝を聞きたいなどと飲みに誘ってくるあたり、野次馬根性とは呼ばずまだ友情があったのだと思っておこう。
「それにしても笹岡が片桐課長と同棲してるなんて、意外だったなー」
くいっとグラスの中身を飲み干し、山村さんは手酌でワインを注いだ。
彼女はいつもそうだ、あまり食べずに飲んでいる。
「結構甘やかされてるんじゃないの?
このお店だって片桐課長の紹介だし」
新たに届いた、ピザの伸びるチーズを器用に捌き、那須さんは口に運んだ。
少しぽっちゃりとした彼女は食べるの専門。
「だよねー。
みんなの前でこれ見よがしにキスしてたらしいし」
小島さんの手から携帯が離れることはない。
なぜなら彼女はニャンスタグラマーでゴシップ好きだから。
「え、えーっと。
まあ、ね」
ワインベースのカクテルに口をつけながら、心の中ではぁっと小さくため息をついた。
同期から飲み会に誘われたと言っても、片桐課長は快く許可を出してくれた。
ただし、自分の紹介する店を利用することと条件を出されたが。
「でもいいなー。
片桐課長といえば優良物件じゃん?
ほら、昔言われてた、三高、だっけ?
あれだし」
「高身長、高学歴、高収入だっけ。
確かにそれは満たしてる」
「しかも奥川部長、ご両親の介護で早期退職考えてるって話だし。
そうなると二十代で部長も夢じゃないよね」
好き放題言う三人に、少しだけ腹が立った。
優良物件って言い方も嫌いだし、片桐課長の外側だけで評価されるのも嫌。
「あー、でも、家でも黙って俺についてこい、going my wayだったらちょっと嫌かも」
「確かにー。
優柔不断よりは俺様がいいけど、ちゃんと気遣ってほしいよね」
「片桐課長ってその辺どうなの?
ねえ、笹岡さん」
「えっ!?」
曖昧な笑みを貼り付けてただ聞き流していたところに急に話を振られ、慌ててしまう。
「樹馬さんは強引だけど、私をいっぱい、甘やかせてくれるよ?」
「樹馬さん……」
三人は顔を見合わせるとニヤニヤと笑い出し、しまったと思う。
家で、名前で呼ぶように癖をつけさせられているので、焦って返事をしたせいでそれが出ていた。
「そこんとこ、もっと詳しく話聞かせてよ」
「ねー」
「うっ」
だいぶお酒が回っているのもあって、こうなるともう避けられない。
私は観念し、勢いをつけるためにグラスに残っていたお酒を一気に空けた。
「笹岡さんって片桐課長に愛されてるんだー」
「そ、そうかな」
あれからどれくらいがたったのだろう。
チラリと見た時計はすでに九時を回っている。
そろそろ、解放してもらえないだろうか。
「あ、こっち!」
合図するように軽く手を上げた、小島さんの視線の先を見て固まった。
そこには――間野くんが立っていたから。
「遅かったね、残業?」
「ああ、川辺さんが急に辞めたから、しわ寄せがきてさ」
川辺さんはあれから、自分磨きをすると会社を辞めてしまった。
いまはどうしているのかわからないが、私としては彼女の幸せを願わずにはいられない。
何事もないかのように私の隣に座り、間野くんは店員を呼び止めてビールを頼んだ。
「間野くんも災難だよね」
「まあな」
「家、大丈夫?」
「あ、嫁いま、子供連れて実家に帰ってるんだ」
どくん、どくんと心臓が大きく鼓動し、周りの音が遠くなる。
「なんで、間野くん、が」
声が震えないように気を使う。
私はいま、普通の顔をしているだろうか。
「間野くん、笹岡さんに避けられてる気がするって傷ついてたよ。
だから今日は、サプライズゲストに呼んだの!」
得意げに小島さんが胸を張る。
今日は女子会だって聞いていた。
だから片桐課長は許可を出してくれたし、だから私も来た。
なのに。
「わ、私、そろそろ帰るね。
あんまり遅くなると樹馬さんが心配するし」
カゴの中に置いてあるバッグに伸ばした手を、間野くんに掴まれた。
「えー、まだいいじゃん。
間野も来たばっかりだし」
興味なさげに山村さんはワイングラスをぐるぐる回している。
「そうだよ、デザート食べないで帰るなんて損だよ」
那須さんにとって重要問題かもしれないが、いまの私にとってはどうでもいい問題だ。
「もっと笹岡さんの話、聞きたーい。
間野くんだって聞きたいよね」
小島さんはきっと、もっとネタを仕入れたいだけなんだろう。
「ああ、オレも笹岡の話、聞きたいな」
間野くんがにっこりと笑う。
必死に引き離そうとした手は負け、指を絡めてがっつりと握られた。
「……うん」
私は浮かしかけた腰を再び下ろし、俯いて唇を噛んだ。
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