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第5章 元彼は突然に
3. 私を支えてくれる、人
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朝起きると、片桐課長はすでに起きていた。
「メシ、食うだろ」
「……はい」
もそもそとベッドから這い出て食卓につく。
「いただきます」
「……いただきます」
今日の朝食は中華粥だった。
もしかして食欲のない私を気遣ってくれたのだろうか。
「……美味しい」
「そうか」
優しい味のお粥は、じんわりと私の心を温めてくれた。
それでも全部食べきれなくて、半分残した。
温かいほうじ茶を飲みながらそろそろ準備をしなくちゃ、などと悩む。
「どうする?
今日は出社するか?」
「え」
いきなりそんなことを聞かれて戸惑った。
絶対に休むなんて認めてくれないと思っていたから。
「無理に出社しなくていい。
高来には適当に話しておく」
「その、出社、します」
きっと間野くんから逃げるには会社を辞めるしかないのだろう。
二課の人間は嫌な人たちばかりだが、高来課長は尊敬できるし、最近、少しばかり仕事が楽しくなっていた。
こんな理由で辞めるには後ろ髪を引かれる。
それに辞めるにしてもきちんと引き継ぎはしないといけない。
「わかった。
できるだけサポートする」
私のあたまをぽんぽんした片桐課長の手は優しくて、ぎこちないまでも今朝は笑えた。
今日は片桐課長の運転する車で出社した。
更衣室のある階でエレベーターを降りようとしたら、止められた。
「いいから」
意味がわからないまま一緒に営業部のある階に上がった。
私を待たせて三課の女性、菊園さんとなにか話している。
少しして片桐課長は自分の席に行き、菊園さんが私のもとへ来た。
「着替えるんだよね。
行こっか」
「あの!」
歩きはじめた菊園さんを追う。
すぐに並んで一緒にエレベーターを待った。
「片桐課長から事情は聞いた。
社内の人間にストーカーされてるんだって?
片桐課長に任せておけばきっと大丈夫だし、私もサポートするから」
「あ、ありがとうございます」
にっこりと笑う菊園さんは女の私でも惚れてしまいそうなくらい、格好いい。
それに片桐課長は私の事情をうまく伝えてくれて、嬉しかった。
ビクビクしながら仕事をする。
「笹岡さん、資料、戻してきて」
ひとりになりたくないときに限って、三好さんがそういう仕事を押しつけてくる。
「わかり……」
「悪いけど、笹岡さんは忙しいの。
それ、三好さん、自分でできるよね」
三好さんから資料を受け取ろうとすると、いつの間にか後ろに高来課長が立っていた。
「私だって忙しいから、笹岡さんに頼んでるんですけど」
じろりと三好さんから睨まれ、高来課長がうっと言葉を詰まらせる。
「さ、笹岡さんは三好さんよりずーっと忙しいの。
ほら、それは自分でやって」
三好さんは不服そうに高来課長を睨んだまま、自分の席に戻っていった。
「片桐課長から事情は聞いてる。
できるだけ僕もサポートするから。
困ったことはなんでも言って」
にこっと高来課長が笑い、ああ、私は恵まれているなって思った。
片桐課長は私を気遣ってくれて、事情を聞いた菊園さんも高来課長も助けてくれて。
ちゃんと感謝しないと。
お昼は菊園さんが誘ってくれた。
今日はお弁当を持ってきていないし、外ランチ。
「あの、私が払いますので」
菊園さんには迷惑をかけているのだから、それくらいするのが当然だ。
なのに。
「いいの、いいの!
しっかり片桐課長からもらったから」
パチンとウィンクしてみせる菊園さんは結構、ちゃっかりしていて苦笑いしかできなかった。
片桐課長より私の方が仕事が終わるのは早かったが、待っていろって言われて待っていた。
帰りも当然、一緒に帰る。
「なんか食って帰るか」
「早く家に帰りたいです」
外、はどこから間野くんが現れるかわからなくて、落ち着かない。
マンションならセキュリティがしっかりしているから安心できる。
それに、片桐課長が傍にいるから。
「わかった」
片桐課長の左手がぎゅっと私の手を握ってくれて、嬉しかった。
今日は作ってやるって片桐課長はエプロン姿でキッチンに立った。
そういう優しいとこ、やっぱり好き。
「樹馬さん」
「ん?」
夕食後、ソファーに並んで座って甘えるように肩にあたまを預けると、指を絡めて私の手を握ってくれた。
「感謝、してます」
「そうか」
優しい、優しい時間が流れる。
告白したらもう、この時間はなくなっちゃうのかな。
そんなことを考えると悲しくなってくる。
でも、告白以前に間野くんとの問題を解決しないと。
毎日、怯えながら会社に通っていた。
そんな折、小島さんから片桐課長に誤解を与えるようなことをして笹岡さんを怒らせたので謝りたいんだけどと、間野くんに言われて連絡先教えたって連絡が来た。
一気に血の気が引いていく。
避けているってわかっているのに黙って女子会に間野くんを呼んだり、勝手に連絡先を教える小島さんとはもう、付き合いをやめよう。
「メシ、食うだろ」
「……はい」
もそもそとベッドから這い出て食卓につく。
「いただきます」
「……いただきます」
今日の朝食は中華粥だった。
もしかして食欲のない私を気遣ってくれたのだろうか。
「……美味しい」
「そうか」
優しい味のお粥は、じんわりと私の心を温めてくれた。
それでも全部食べきれなくて、半分残した。
温かいほうじ茶を飲みながらそろそろ準備をしなくちゃ、などと悩む。
「どうする?
今日は出社するか?」
「え」
いきなりそんなことを聞かれて戸惑った。
絶対に休むなんて認めてくれないと思っていたから。
「無理に出社しなくていい。
高来には適当に話しておく」
「その、出社、します」
きっと間野くんから逃げるには会社を辞めるしかないのだろう。
二課の人間は嫌な人たちばかりだが、高来課長は尊敬できるし、最近、少しばかり仕事が楽しくなっていた。
こんな理由で辞めるには後ろ髪を引かれる。
それに辞めるにしてもきちんと引き継ぎはしないといけない。
「わかった。
できるだけサポートする」
私のあたまをぽんぽんした片桐課長の手は優しくて、ぎこちないまでも今朝は笑えた。
今日は片桐課長の運転する車で出社した。
更衣室のある階でエレベーターを降りようとしたら、止められた。
「いいから」
意味がわからないまま一緒に営業部のある階に上がった。
私を待たせて三課の女性、菊園さんとなにか話している。
少しして片桐課長は自分の席に行き、菊園さんが私のもとへ来た。
「着替えるんだよね。
行こっか」
「あの!」
歩きはじめた菊園さんを追う。
すぐに並んで一緒にエレベーターを待った。
「片桐課長から事情は聞いた。
社内の人間にストーカーされてるんだって?
片桐課長に任せておけばきっと大丈夫だし、私もサポートするから」
「あ、ありがとうございます」
にっこりと笑う菊園さんは女の私でも惚れてしまいそうなくらい、格好いい。
それに片桐課長は私の事情をうまく伝えてくれて、嬉しかった。
ビクビクしながら仕事をする。
「笹岡さん、資料、戻してきて」
ひとりになりたくないときに限って、三好さんがそういう仕事を押しつけてくる。
「わかり……」
「悪いけど、笹岡さんは忙しいの。
それ、三好さん、自分でできるよね」
三好さんから資料を受け取ろうとすると、いつの間にか後ろに高来課長が立っていた。
「私だって忙しいから、笹岡さんに頼んでるんですけど」
じろりと三好さんから睨まれ、高来課長がうっと言葉を詰まらせる。
「さ、笹岡さんは三好さんよりずーっと忙しいの。
ほら、それは自分でやって」
三好さんは不服そうに高来課長を睨んだまま、自分の席に戻っていった。
「片桐課長から事情は聞いてる。
できるだけ僕もサポートするから。
困ったことはなんでも言って」
にこっと高来課長が笑い、ああ、私は恵まれているなって思った。
片桐課長は私を気遣ってくれて、事情を聞いた菊園さんも高来課長も助けてくれて。
ちゃんと感謝しないと。
お昼は菊園さんが誘ってくれた。
今日はお弁当を持ってきていないし、外ランチ。
「あの、私が払いますので」
菊園さんには迷惑をかけているのだから、それくらいするのが当然だ。
なのに。
「いいの、いいの!
しっかり片桐課長からもらったから」
パチンとウィンクしてみせる菊園さんは結構、ちゃっかりしていて苦笑いしかできなかった。
片桐課長より私の方が仕事が終わるのは早かったが、待っていろって言われて待っていた。
帰りも当然、一緒に帰る。
「なんか食って帰るか」
「早く家に帰りたいです」
外、はどこから間野くんが現れるかわからなくて、落ち着かない。
マンションならセキュリティがしっかりしているから安心できる。
それに、片桐課長が傍にいるから。
「わかった」
片桐課長の左手がぎゅっと私の手を握ってくれて、嬉しかった。
今日は作ってやるって片桐課長はエプロン姿でキッチンに立った。
そういう優しいとこ、やっぱり好き。
「樹馬さん」
「ん?」
夕食後、ソファーに並んで座って甘えるように肩にあたまを預けると、指を絡めて私の手を握ってくれた。
「感謝、してます」
「そうか」
優しい、優しい時間が流れる。
告白したらもう、この時間はなくなっちゃうのかな。
そんなことを考えると悲しくなってくる。
でも、告白以前に間野くんとの問題を解決しないと。
毎日、怯えながら会社に通っていた。
そんな折、小島さんから片桐課長に誤解を与えるようなことをして笹岡さんを怒らせたので謝りたいんだけどと、間野くんに言われて連絡先教えたって連絡が来た。
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