19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第5章 元彼は突然に

5. もう全て、終わったから

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三十分ほど走って、郊外の住宅街の一軒に高来課長は車を停めた。

「ただいまー」

「パパー、おかえりー」

ドアを開けた途端、てとてとと小さな女の子が走ってきて高来課長に抱きついた。

「ただいまー、留奈るな

「パパー、くしゅぐったい」

「おかえりなさい、おさむさん」

高来課長が女の子に頬をスリスリしている間に、奥からエプロンで手を拭きながら女性が出てきた。

「ただいま、里実さとみ

女の子を抱っこしたまま、高来課長は女性にキスしている。

あー、うん。
わかる、わかるよ。
片桐課長だって帰ってきたら私にキスするし。

でも一応、いまは部下の前なのですが……。

「あ、笹岡さん、紹介するね。
僕の妻の里実と、娘の留奈。
留奈ー、お姉ちゃんにご挨拶できるかな?」

「たかぎ、るな、でしゅ。
にさい、でしゅ」

とちらないようにか真剣に、女の子――留奈ちゃんが舌っ足らずに挨拶した。

「はじめまして、留奈ちゃん。
笹岡、花重、です。
よろしくね?」

高来課長に抱かれている留奈ちゃんに目をあわせ、にっこりと笑う。
途端に留奈ちゃんはぱーっと顔を輝かせた。
そういうのは凄く可愛くて、ついつい顔が緩んでしまう。

「里実、僕の部下で片桐さんの彼女の、笹岡さん」

「まあ、あの片桐さんの!
片桐さんにはいつもお世話になっております」

「はあ……」

里実さんはにこにこ笑って嬉しそうだけれど、高来課長の紹介で私の笑みは引きつっていた……。


高来家の夕飯は賑やかに進んでいく。

留奈ちゃんはパパが帰ってきて嬉しいのか、一生懸命、今日一日あったことを話している。
高来課長は自分が食べるのもそっちのけで、留奈ちゃんの話を聞きながら、彼女にごはんを食べさせていた。
そして里実さんはそんなふたりを、にこにこ笑ってみている。

絵に描いたような、理想の家族。

憧れるな。

「ごめんね、うるさかったでしょ」

里実さんに淹れてもらったコーヒーを飲みながら、高来課長が苦笑いを浮かべる。

「いえ、全然」

留奈ちゃんは私に懐いてくれて、さっきまでべったりくっついていた。
もう寝る時間が近づいているからお風呂に入ろうとママが言っても、お姉ちゃんと入るー!
って。
ああもう、可愛いな!

「高来課長。
奥さんに私を片桐課長の〝彼女〟って紹介してましたけど。
私、片桐課長の彼女じゃないですから」

「え、そうなの?」

意外そうに高来課長は二、三度まばたきをした。

「好きだとか付き合ってほしいいとか言われてないですし。
ただの同居人です」

「あー、うん。
片桐さんも片桐さんなら、笹岡さんも笹岡さんなんだー」

「……それってどういう意味ですか」

上司相手によくはないと思うが、片桐課長と同列に扱われてカチンときた。

「んー、こういうのは僕から言うのはなー。
……でも、知りたい?」

「はい」

じっと高来課長が私を見つめる。

「実は片桐さん……」

――ピンポーン。

おもむろに高来課長が口を開いた瞬間、タイミングよくインターフォンが鳴った。

「里実、お客さーん。
って、風呂か。
ちょっと待っててね」

高来課長が玄関へと消えていき、止めていた息を吐きだした。
いま彼は、なにを言おうとしていたんだろう。
気になって早く戻ってこないかとそわそわ待っていた、が。

「笹岡、帰るぞ」

片桐課長が迎えにきて結局、聞く機会を逸してしまった。


帰りの車の中で、片桐課長はずっと黙っていた。
どうしたのか聞きたいけれど、聞けない雰囲気。

マンションに帰った途端、いきなり抱きしめられた。

「もう全部終わったから、安心していい」

言葉とは裏腹に片桐課長の声は酷く暗く、重い。

「樹馬さん……?」

「終わったんだ、全部」

縋るように私に抱きつく片桐課長の身体は、心細そうに震えている。
そっと腕を伸ばして、その寒そうな身体を抱きしめた。

「ありがとうございます」

ときどき私にしてくれるみたいに、とん、とんと片桐課長の背中を叩く。
しばらくして私から離れた彼は少しだけだけど笑ってくれて、安心した。


あとで知ったことだけど。
片桐課長は間野くんに、話をつけに行ったらしい。
送られてきたSMSを証拠に、訴えられたくなかったら私から手を引いて会社を去るようにって。
でも拒否した上に私に聞かせたくないような話をする間野くんを片桐課長は……殴った。
事実、翌日の間野くんの顔は腫れていたって同期から伝え聞いている。

結局、間野くんは私から手を引く約束はしたけれど、傷害罪で訴えない代わりに会社は辞めないと条件を出してきた。

片桐課長は……飲むしかなかった。

きっと、片桐課長は後悔していたんだと思う。
感情的になって暴力に訴えてしまった自分に。
そしてそうすることで私を不利に立たせてしまった自分に。

そんな片桐課長――ううん、樹馬さんはたまらなく愛おしい。


百パーセント望む結果にはならなかったけれど、一応の決着はついた。
これで穏やかな日常が戻ってくるんだと思ったし、あとは片桐課長に告白するだけだってのんきに考えていた。

――でも。
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