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第5章 決戦は月曜日
2.謎のワンルームマンション
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翌日、東京へ向かう新幹線の中で、三橋さんはずっと思い詰めた顔をしていた。
「三橋さん?」
「ああ、ええ。
大丈夫です」
笑ってみせたけど、ぎこちない。
昨晩、あれだけ言っても彼の不安は晴れていなくて、それだけ闇が深いのだと痛感させた。
「終わりましたらすぐに帰ってきます」
早めのランチのあと、私をマンションへ送り届けて三橋さんはバタバタと出ていった。
「三橋さんの家、か……」
ソファーから見渡した室内は、酷く殺風景だった。
金沢の家はあんなに広くて立派なんだから、さぞかし高級なマンションに……と想像していたけれど、確かにレベルは上だがワンルームだし。
いや、妙にダイニングテーブルが小さいな、とモニター越しに思っていたけれど、本当に申し訳程度に置いてあるだけだった。
「てか、どこで寝ているんだろう?」
ワンルームなのに、部屋の中にベッドはない。
カーテンすら、ない。
「もしかして他に部屋か、せめてロフトがある……とか?」
しかしながらどこを探してもロフトなどない。
他の部屋も当然ながら存在しなかった。
「でもさ、床に直接布団って、身体痛くないのかな?」
さすがにそこまでは……と、開けてみたクローゼットには簡素な桐箪笥が収まっているだけで、布団の類いが全くない。
「え、三橋さんって、どういう生活してるの……?」
あまりにも謎すぎる。
さらに浴室はトイレと一体になった、ユニットバスだった。
「ええーっ!?」
一般的な部屋よりは広いとはいえ、ワンルームだ。
探検はあっというまに終わってしまう。
またもとのソファーに戻ってきて、ぽすっと座った。
「え?
え?」
わけがわからなすぎてあたまが混乱する。
『観葉植物を置いたら素敵ですよね』
『ソファーとラグの色は揃えましょう』
『スマートスピーカー、三色から選べるので各部屋にあった色にしましょう』
あの家の家具を揃えたときの、三橋さんが蘇る。
あのとき、三橋さんはとっても楽しそうだった。
なのに、この部屋って。
「……これが、東京の三橋さんということか」
あの人は私に出会うまで、いったいどんな生活をしていたんだろう……?
することもないので、ぼーっと置いてあるスマート端末で映画でも観る。
「遅いな……」
三橋呉服店の土日の営業時間は六時までだ。
なのに七時を回っても連絡すらない。
「どーしたんだろー」
三橋さんはいつも、マメに連絡をくれる。
それこそ、いま終わったから帰るだの、今日は遅くなりそうだの。
うるさいくらいにスピーカーから話しかけてくれるのだ。
だから、こんなになにもないのは不安になってくる。
「連絡、してみる?」
私からして悪いわけではない。
メッセージアプリを起こし、文字を入力しようとしたタイミングで三橋さんから上がってきた。
【申し訳ありません、遅くなりそうです。
キッチンに出前のメニューが置いてありますから、それで夕食を済ませてください。
本当にすみません】
「え……」
忙しいなら仕方ない。
ひとりで夕食を済ませるのにも不満はない。
でもなぜか、三橋さんらしくない気がした。
【わかりました。
何時に終わりそうですか】
いくら見つめても既読にはならない。
「……あ」
諦めてアプリを閉じたところで気づいた。
「電話じゃ、ないからだ……」
新幹線の中など通話を控えなきゃいけないところでない限り、三橋さんは電話か、スピーカーへの話しかけだ。
私の声を聞きたいからと譲らない。
なのに、あんな内容でメッセなんて。
「きっと、電話をかけられないところだったんだよ」
そう、自分に言い聞かせてキッチンへメニューを取りに行く。
「あ、金沢じゃないお店も大丈夫なんだ」
わざと明るく振る舞い、宅配を頼む。
けれど美味しそうだと取ったパスタは、なんだか味気なかった。
「三橋さん?」
「ああ、ええ。
大丈夫です」
笑ってみせたけど、ぎこちない。
昨晩、あれだけ言っても彼の不安は晴れていなくて、それだけ闇が深いのだと痛感させた。
「終わりましたらすぐに帰ってきます」
早めのランチのあと、私をマンションへ送り届けて三橋さんはバタバタと出ていった。
「三橋さんの家、か……」
ソファーから見渡した室内は、酷く殺風景だった。
金沢の家はあんなに広くて立派なんだから、さぞかし高級なマンションに……と想像していたけれど、確かにレベルは上だがワンルームだし。
いや、妙にダイニングテーブルが小さいな、とモニター越しに思っていたけれど、本当に申し訳程度に置いてあるだけだった。
「てか、どこで寝ているんだろう?」
ワンルームなのに、部屋の中にベッドはない。
カーテンすら、ない。
「もしかして他に部屋か、せめてロフトがある……とか?」
しかしながらどこを探してもロフトなどない。
他の部屋も当然ながら存在しなかった。
「でもさ、床に直接布団って、身体痛くないのかな?」
さすがにそこまでは……と、開けてみたクローゼットには簡素な桐箪笥が収まっているだけで、布団の類いが全くない。
「え、三橋さんって、どういう生活してるの……?」
あまりにも謎すぎる。
さらに浴室はトイレと一体になった、ユニットバスだった。
「ええーっ!?」
一般的な部屋よりは広いとはいえ、ワンルームだ。
探検はあっというまに終わってしまう。
またもとのソファーに戻ってきて、ぽすっと座った。
「え?
え?」
わけがわからなすぎてあたまが混乱する。
『観葉植物を置いたら素敵ですよね』
『ソファーとラグの色は揃えましょう』
『スマートスピーカー、三色から選べるので各部屋にあった色にしましょう』
あの家の家具を揃えたときの、三橋さんが蘇る。
あのとき、三橋さんはとっても楽しそうだった。
なのに、この部屋って。
「……これが、東京の三橋さんということか」
あの人は私に出会うまで、いったいどんな生活をしていたんだろう……?
することもないので、ぼーっと置いてあるスマート端末で映画でも観る。
「遅いな……」
三橋呉服店の土日の営業時間は六時までだ。
なのに七時を回っても連絡すらない。
「どーしたんだろー」
三橋さんはいつも、マメに連絡をくれる。
それこそ、いま終わったから帰るだの、今日は遅くなりそうだの。
うるさいくらいにスピーカーから話しかけてくれるのだ。
だから、こんなになにもないのは不安になってくる。
「連絡、してみる?」
私からして悪いわけではない。
メッセージアプリを起こし、文字を入力しようとしたタイミングで三橋さんから上がってきた。
【申し訳ありません、遅くなりそうです。
キッチンに出前のメニューが置いてありますから、それで夕食を済ませてください。
本当にすみません】
「え……」
忙しいなら仕方ない。
ひとりで夕食を済ませるのにも不満はない。
でもなぜか、三橋さんらしくない気がした。
【わかりました。
何時に終わりそうですか】
いくら見つめても既読にはならない。
「……あ」
諦めてアプリを閉じたところで気づいた。
「電話じゃ、ないからだ……」
新幹線の中など通話を控えなきゃいけないところでない限り、三橋さんは電話か、スピーカーへの話しかけだ。
私の声を聞きたいからと譲らない。
なのに、あんな内容でメッセなんて。
「きっと、電話をかけられないところだったんだよ」
そう、自分に言い聞かせてキッチンへメニューを取りに行く。
「あ、金沢じゃないお店も大丈夫なんだ」
わざと明るく振る舞い、宅配を頼む。
けれど美味しそうだと取ったパスタは、なんだか味気なかった。
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