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第5章 決戦は月曜日
5.いままではそれでよかったけど……
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朝も一悶着ありつつ、準備を済ませる。
こんなことなら服は全部、洋服にすればよかった。
着物にしてしまった自分が悔やまれる。
トーストとコーヒーだけの朝食を済ませ、マンションを出た。
てか、初めてフライパンでパンを焼いたよ!
でも、確かに溶かしバターへパンを入れて焼くのは美味しかったけど。
「とりあえず、布団を買いに行かなきゃですね」
「はい」
こちらでの三橋さんの足はタクシーだった。
駐車場、保険やガソリン代、接待のときの帰りなどを天秤にかけると、タクシーの方に軍配が上がるらしい。
あと、店とマンションとの往復がほとんどで、プライベートで出掛けることがほとんどないから、と。
高級寝具店に連れていかれたらどうしようとビクビクしていたが、大手生活雑貨店でほっとした。
「掛敷きセットですかね……」
「でも板間に直接布団って、身体が痛くなりませんか?」
昨晩は寒くはなかったが、寝心地は最悪だった。
もう何年もソファー専用で使われてきたソファーベッドだから当たり前だ。
「そうですね……。
可愛い鹿乃子さんがこちらにいる間だけの問題ですし、とはいえ可愛い鹿乃子さんにはぐっすり寝てほしいですからね……」
ちょっと!
いま、さらっと、さらっと、聞き捨てならないことを言いました!?
「三橋さん」
「はい」
真剣に布団を選んでいる彼は、私の怒りに気づいていない。
「私がいる間だけじゃなく、いないときもちゃんとした布団で寝てください!
あんな寝方、疲れが全然取れませんよ!
わかりましたか!?」
「あ、えっと……。
はい」
眼鏡の下でパチパチと何度か瞬きし、とりあえずの返事をした三橋さんはきっと、私が怒っている意味がわかっていない。
「カーテンも買いましょう。
もっと、人間らしい生活をしないとダメですよ!」
「その……。
……ぷっ」
彼が突然、吹きだすので、ついその顔を見た。
「三橋さん?」
「あはは、……すみません……あは、あははは、……鹿乃子さんがこんなに、……あはは、怒るとは思わなくて」
お腹を押さえて三橋さんは笑っているが、……そんなに?
「ちゃんと人間らしい生活をしろだなんて、初めて叱られました。
そうですね、確かにあれはダメです」
眼鏡の下から人差し指を入れ、その背で笑いすぎて出た涙を彼は拭った。
「……でも」
真顔になった彼が、ふっ、と遠い目をする。
「いままでの私は、それでよかったのです。
自分のことすら、どうでもよかったのですから」
なんだか三橋さんが遠くに行ってしまいそうで、思わずその袖を掴んでいた。
「これからは可愛い鹿乃子さんの次に、自分を大事にします。
可愛い鹿乃子さんとはできるだけ長く、一緒にいたいですからね」
ふふっ、と笑った三橋さんはいつもの彼に戻っていて、ほっとした。
どうせならベッドも買おうと、そこでは寝具を決めずに家具店へ移動する。
「そこそこ、のベッドでいいんですが。
どうせひとりで寝るのは、ぐっすり眠れませんから」
金沢の家のベッドを買うときは、最高品質のベッドを!
なんてあーでもない、こーでもないと散々迷って選んだのに、今度は随分適当だ。
「サイズは、どうしましょうかね……。
可愛い鹿乃子さんもいないのに、広いベッドは持て余してしまいますし。
でも狭いベッドだと、可愛い鹿乃子さんに窮屈な思いをさせてしまいます……」
はぁーっ、と悩ましげに三橋さんの口からため息が落ちていく。
「えーっと。
セミダブルか、ダブルとかくらいでいいんじゃないですか……?」
あの、キングサイズのベッドは確かに、ひとりだと持て余していた。
けれど実家のシングルベッドは、三橋さんには窮屈そうで。
手足を伸ばしてゆっくり眠ってもらいたいし、少し大きめがいいんじゃないかな。
「そうですね、それくらいならいいかもしれません」
最終、中ランクのセミダブルベッドに落ち着いた。
布団も、そこそこのランクの羽布団に決める。
ベッドの配送は最短でお願いしたが、それでも明後日になった。
「すみません、早く気づけばよかったんですが……」
タクシーの中で三橋さんは落ち込んでいるが、仕方ないよね。
だって、私がこちらに来ると決めてから一週間しかなかったわけだし、しかも三橋さんは仕事で忙しかったんだし。
「かまいませんよ、別に。
今日の掛け布団と敷きマットは調達できましたから」
ベッドが来るまで可愛い鹿乃子さんが可哀想だからと、三橋さんは敷きマットを買ってくれた。
ベッドを置いてしまったら必要ないのに。
「本当にすみません……」
三橋さんは落ち込んだまま、浮上してきそうにない。
困ったな。
「んー、じゃあ、夜は最高に美味しいところへ連れていってください。
それで、帳消しです」
「……そんなんでいいんですか」
「はい、かまいません」
精一杯、明るくはしゃいでみせる。
「わかりました、期待していてくださいね」
「はい」
ようやく顔を上げた三橋さんが、ふふっと笑う。
機嫌がよくなっているの、丸わかり。
こんなことなら服は全部、洋服にすればよかった。
着物にしてしまった自分が悔やまれる。
トーストとコーヒーだけの朝食を済ませ、マンションを出た。
てか、初めてフライパンでパンを焼いたよ!
でも、確かに溶かしバターへパンを入れて焼くのは美味しかったけど。
「とりあえず、布団を買いに行かなきゃですね」
「はい」
こちらでの三橋さんの足はタクシーだった。
駐車場、保険やガソリン代、接待のときの帰りなどを天秤にかけると、タクシーの方に軍配が上がるらしい。
あと、店とマンションとの往復がほとんどで、プライベートで出掛けることがほとんどないから、と。
高級寝具店に連れていかれたらどうしようとビクビクしていたが、大手生活雑貨店でほっとした。
「掛敷きセットですかね……」
「でも板間に直接布団って、身体が痛くなりませんか?」
昨晩は寒くはなかったが、寝心地は最悪だった。
もう何年もソファー専用で使われてきたソファーベッドだから当たり前だ。
「そうですね……。
可愛い鹿乃子さんがこちらにいる間だけの問題ですし、とはいえ可愛い鹿乃子さんにはぐっすり寝てほしいですからね……」
ちょっと!
いま、さらっと、さらっと、聞き捨てならないことを言いました!?
「三橋さん」
「はい」
真剣に布団を選んでいる彼は、私の怒りに気づいていない。
「私がいる間だけじゃなく、いないときもちゃんとした布団で寝てください!
あんな寝方、疲れが全然取れませんよ!
わかりましたか!?」
「あ、えっと……。
はい」
眼鏡の下でパチパチと何度か瞬きし、とりあえずの返事をした三橋さんはきっと、私が怒っている意味がわかっていない。
「カーテンも買いましょう。
もっと、人間らしい生活をしないとダメですよ!」
「その……。
……ぷっ」
彼が突然、吹きだすので、ついその顔を見た。
「三橋さん?」
「あはは、……すみません……あは、あははは、……鹿乃子さんがこんなに、……あはは、怒るとは思わなくて」
お腹を押さえて三橋さんは笑っているが、……そんなに?
「ちゃんと人間らしい生活をしろだなんて、初めて叱られました。
そうですね、確かにあれはダメです」
眼鏡の下から人差し指を入れ、その背で笑いすぎて出た涙を彼は拭った。
「……でも」
真顔になった彼が、ふっ、と遠い目をする。
「いままでの私は、それでよかったのです。
自分のことすら、どうでもよかったのですから」
なんだか三橋さんが遠くに行ってしまいそうで、思わずその袖を掴んでいた。
「これからは可愛い鹿乃子さんの次に、自分を大事にします。
可愛い鹿乃子さんとはできるだけ長く、一緒にいたいですからね」
ふふっ、と笑った三橋さんはいつもの彼に戻っていて、ほっとした。
どうせならベッドも買おうと、そこでは寝具を決めずに家具店へ移動する。
「そこそこ、のベッドでいいんですが。
どうせひとりで寝るのは、ぐっすり眠れませんから」
金沢の家のベッドを買うときは、最高品質のベッドを!
なんてあーでもない、こーでもないと散々迷って選んだのに、今度は随分適当だ。
「サイズは、どうしましょうかね……。
可愛い鹿乃子さんもいないのに、広いベッドは持て余してしまいますし。
でも狭いベッドだと、可愛い鹿乃子さんに窮屈な思いをさせてしまいます……」
はぁーっ、と悩ましげに三橋さんの口からため息が落ちていく。
「えーっと。
セミダブルか、ダブルとかくらいでいいんじゃないですか……?」
あの、キングサイズのベッドは確かに、ひとりだと持て余していた。
けれど実家のシングルベッドは、三橋さんには窮屈そうで。
手足を伸ばしてゆっくり眠ってもらいたいし、少し大きめがいいんじゃないかな。
「そうですね、それくらいならいいかもしれません」
最終、中ランクのセミダブルベッドに落ち着いた。
布団も、そこそこのランクの羽布団に決める。
ベッドの配送は最短でお願いしたが、それでも明後日になった。
「すみません、早く気づけばよかったんですが……」
タクシーの中で三橋さんは落ち込んでいるが、仕方ないよね。
だって、私がこちらに来ると決めてから一週間しかなかったわけだし、しかも三橋さんは仕事で忙しかったんだし。
「かまいませんよ、別に。
今日の掛け布団と敷きマットは調達できましたから」
ベッドが来るまで可愛い鹿乃子さんが可哀想だからと、三橋さんは敷きマットを買ってくれた。
ベッドを置いてしまったら必要ないのに。
「本当にすみません……」
三橋さんは落ち込んだまま、浮上してきそうにない。
困ったな。
「んー、じゃあ、夜は最高に美味しいところへ連れていってください。
それで、帳消しです」
「……そんなんでいいんですか」
「はい、かまいません」
精一杯、明るくはしゃいでみせる。
「わかりました、期待していてくださいね」
「はい」
ようやく顔を上げた三橋さんが、ふふっと笑う。
機嫌がよくなっているの、丸わかり。
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