あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第10章 抱かせていただいてもいいですか

3.ドラッグストアに寄ってもいいですか?

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気持ちが落ち着いたので、晩ごはんの買い物に出た。
一週間、家を空けていたので冷蔵庫はほぼ空だ。

「ぜーん。
なに、食べますー?」

スーパーでふたり並んで買い物をすると、注目される。
ふたり揃って着物、しかも漸は私よりかなり年上。
仕方ないというものです。

「可愛い鹿乃子さんが作ってくれるものなら、なんでもいいですよ」

カートを押しながら、嬉しそうにへらっと笑われたって、困る。

「肉と魚はどっちがいいですかー」

しかしながら「なにが食べたい?」は選択肢になにがあるのかわからなくて答えに困るのだ、と訊いたこともあるので、少しずつ範囲を狭めていく作戦に出た。

「んー、魚ですかね。
こちらの魚に慣れると、東京の魚はいまいちで」

「なら、煮る、焼く、揚げるはどれがいいですか?」

話しながら魚売り場へと向かう。
スズキだといろいろ使えるからいいかなー。

「カニにしましょう!」

「……は?」

いきなり決定だと漸が小さく手を叩き、その顔を見る。

「私、よく考えたらこちらへ来て、まだカニを食べてないんですよ。
石川県といえば、カニが有名なのに」

漁が解禁されたばかりなので、店頭には香箱カニが並んでいた。
カニだけだとおかずにならないから、お鍋にしようか。
とか考えつつ、二杯くらいでいいかなと取りかけたけれど。
視界の隅で見覚えのある手が箱ごとカニを持ち上げた。

「……え?」

「え?」

同じ一音を発し、仲良く顔を見あわせる。

「そんなにいらなくないですか?」

「これくらい豪快に買いたくないですか?」

いやいや、ふたりで二杯も贅沢かな、でも漸は堪能したいだろうしと二杯にしようとしたのだ。
でもその箱、六杯は入っていましたよね?

「えーっと……」

「あ、ご実家に差し入れしてもいいですね」

なんて戸惑う私をよそに、さらに漸がもうひと箱積む。

「……うん。
もーいいです……」

なんか、考えたら負けな気がしてきた。
それに漸にとって、これくらいはあまり負担じゃないわけだし。

あとは野菜と明日の朝ごはんを選び、会計を済ませる。

「ドラッグストアに寄ってもいいですか」

車に戻り、シートベルトを締めながら漸が訊いてきた。

「どこが具合でも悪いんですか」

東京で疲れたのかな。
なら、カニはやめておうどんとかにした方が……。

「あー、いえ。
その」

漸が私の耳もとへ口を寄せる。

「……コンドーム、買いたいので」

改めて言われ、ぼっ!と顔が火を噴いた。

「えっ、あっ、その」

「私は早く鹿乃子さんとの子供が欲しいんですが、式を挙げる前に妊娠となるとおじい様から……こ、殺される……」

みるみる漸は青くなっていき、しまいにはガタガタと震えだした。
あのお父さんですら冷たく切り捨ていたのに、私の祖父はよっぽど苦手らしい。

「ですから、ね」

「……はい」

これって今夜、ってことですよね?
ううっ、なんかハジメテのときみたいに緊張するー。

近くのドラッグストアに漸は車を入れた。

「あ、私は化粧品とか見ているので、買い物終わったら声をかけてください」

そそくさと別れようとしたものの、漸の手がそれを止める。

「なにを言っているんですか?
鹿乃子さんも一緒に使うものですから、一緒に選んだ方がいいに決まっているじゃないですか」

「……」

漸の言うことは正論だ。
でも、恥じらいとかあるわけですよ、こちらには。

「あの、その、……恥ずかしい、ので」

小さな、小さな声で申告する。
それで納得してくれたのか、手を離してくれた。

「そうかもしれませんね。
なら、次からはネット通販で一緒に選びましょう」

うんうん、と頷きつつ売り場へ消えていく漸を見送りながら、はぁーっとため息が漏れた。

「一緒に、ってさ……」

理屈はわかるが、それだって恥ずかしいに決まっている。

「……まあ、人目がないからマシか」
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