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第11章 ラスボス登場?
2.死んで、ちょうだい?
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「……それで。
私になんのご用ですか?」
こういう、話が通じないタイプの人間には、早くお引き取り願いたい。
「ねーぇ、あなた。
死んで、ちょうだい?」
彼女の顔から笑みが消え、背筋にぞくりと悪寒が走った。
「なーんて、冗談よ、冗談!」
さっきの顔が嘘のようにケラケラと笑っているが、嘘だ。
あれは絶対、本気だった。
ばくばくと速い心臓の音が落ち着かない。
たぶんいまからひとつでも選択を間違えば、私は……。
「漸と別れてくれるーぅ?
漸ってば、婚約を破棄するとかいうんだもの」
晩ごはん、カレーやめてハンバーグにしてーぇ?
くらいの軽い調子で彼女が言ってくる。
けれどその端々から逆らいがたい威圧感を発していた。
それでも、私は。
「……できません」
「この私が言ってるのに!?」
勢いよく彼女が立ち上がる。
「それが?」
「私の父は総理大臣なのよ!
貴方を消すくらい簡単なんだから!」
激昂する彼女を、醒めた目で見ていた。
彼女は漸が、もっとも嫌う人種だ。
「父親が総理大臣だからなんだっていうんですか?
偉いのは父親であって貴方ではありません」
さっ、と彼女の顔に朱が走る。
「それとも、総理大臣の娘としてではなくひとりの女として、勝負することもできないんですか」
図星なのか両の拳を握りしめ、彼女はわなわなと震えだした。
「あなたに、この私が負けているとでも!? お金だって持っているし、顔もスタイルもいい、この私が!」
あー、うん。
誇るところが間違っている。
漸はお金も女性の顔や身体にも関心がない。
そして、そういうところを自慢する人間が大っ嫌いなのだ。
それがわからない時点で、万が一にも彼女へ漸が興味を持つことはない。
「それに私と結婚すれば将来、総理大臣の椅子は約束されたも同然なのよ!?」
「……はい?」
それまで至極冷静に彼女の話を聞いていたが、将来の総理、なんて言葉が出てきてあたまの中をクエスチョンマークが埋め尽くしていく。
「漸はただの、呉服屋の跡取りでしたが?」
「父が漸の、才能に気づいたの!
あれは大物の器だって!
だから私と結婚させて将来は跡継ぎに、って!」
「……漸の才能?」
……とは?
確かに男も女も魅了してしまうような、カリスマ性はありそうだけど。
それと政治ができるのは別問題では?
「えーっと、ちょっと待ってください……」
ただ、漸は私のものだからと、この失礼千万極まりない女にお帰りいただけばいい問題と思っていた。
しかしながらこれは、私との結婚が漸の将来を潰す、ということになるのでしょうか……?
『可愛い鹿乃子さんはいますかー?』
微妙な空気をぶち壊すように、唐突に脳天気な漸の声がスピーカーから響いてくる。
「えっ、漸!?」
「あ、漸。
いまちょっと、取り込み中でして……」
志芳さんはきょろきょろと声の出所を探しているが、私はかまわずに会話を続けた。
『お客様がおいでになっているのですか』
スピーカー越しに彼女の声も聞こえたみたいで、すぐに漸が訊いてくる。
「……はい。
荒木田志芳さんが」
『志芳さんですか……』
はぁーっ、と微かに、ため息の音が聞こえた。
「漸、漸なの!?」
『いま、東京駅なので、乗れる一番早い新幹線に乗ります。
そうですね……遅くても三時間後には着くかと』
「漸が帰ってくるの!?」
なぜか志芳さんは慌てているが……ああ、そういうことか。
『はい。
いまから帰りますので待っていてくださいね、志芳さん』
あの、全く笑っていない目でにっこり笑顔の漸が容易に想像できて、ぞっとした。
志芳さんも同じだったみたいで、ガタガタ震えている。
『じゃあ鹿乃子さん、ご迷惑をおかけしますが、もうしばらく志芳さんをよろしくお願いしますね』
「はい」
『愛しています、私の可愛い鹿乃子さん。
私は貴方だけのものです』
いつもはそんなことを言ったりしないのにわざわざ言うっていうのは、志芳さんに対する牽制なんだろうな。
「漸が帰ってくるなんて聞いてないわ……」
気が抜けたように志芳さんはソファーに座っているが、うん、私も聞いていない。
帰ってくるのは明日の予定だった。
それがこんなに、早くなるなんて。
あれかな、またキャンセルが入ったのかな。
接客のときに着付けは漸ではなく女性社員にさせるようになってから、一気にお客が減ったみたいだし。
「漸が帰ってくるなら私は帰るわ!」
善は急げとばかりに彼女は立ち上がったけれど、あんまりすぎない?
婚約者……というのは腹立たしいけれど、とにかく婚約者が帰ってくるんだよ?
そこは会える! 嬉しい! って待つものでは?
まあ、彼女としては漸がいないときに、この家に乗り込んできたのがバレると非常にマズいのだろうけど。
「どうして帰るんですか?
漸は待っていてくださいって言っていたじゃないですか。
あ、お寿司でもお取りしましょうか?
町の小さな寿司屋ですが、漸がお気に入りのところなのでご満足いただけると思います」
テキパキと彼女をソファーへ座らせ、新しいお茶を出す。
さらに寿司の注文もした。
新規開拓してみたいといつぞや漸とふらりと入った店だが、それ以来、気に入って漸は足繁く通っている。
店主にも覚えてもらえて最近は多少のことなら融通してくれるようになったほどだ。
「あの、私は急用を思いだしたので……」
来たときの勢いが嘘のように彼女は逃げだす算段をしているが、そうはいくか。
だいたい、あれでしょ?
漸がいないときなら私が簡単に屈服すると思っていたんでしょう?
残念でした。
私はなにがあろうと、漸を誰にも渡さないと決めたのだ。
「さて。
漸が帰ってくるまで三時間。
……いえ、あれからそこそこたったので二時間半、ですか?
本音でがっつり、お話をしましょうか?」
にっこりと笑った私を、彼女は怯えた目で見ていた。
私になんのご用ですか?」
こういう、話が通じないタイプの人間には、早くお引き取り願いたい。
「ねーぇ、あなた。
死んで、ちょうだい?」
彼女の顔から笑みが消え、背筋にぞくりと悪寒が走った。
「なーんて、冗談よ、冗談!」
さっきの顔が嘘のようにケラケラと笑っているが、嘘だ。
あれは絶対、本気だった。
ばくばくと速い心臓の音が落ち着かない。
たぶんいまからひとつでも選択を間違えば、私は……。
「漸と別れてくれるーぅ?
漸ってば、婚約を破棄するとかいうんだもの」
晩ごはん、カレーやめてハンバーグにしてーぇ?
くらいの軽い調子で彼女が言ってくる。
けれどその端々から逆らいがたい威圧感を発していた。
それでも、私は。
「……できません」
「この私が言ってるのに!?」
勢いよく彼女が立ち上がる。
「それが?」
「私の父は総理大臣なのよ!
貴方を消すくらい簡単なんだから!」
激昂する彼女を、醒めた目で見ていた。
彼女は漸が、もっとも嫌う人種だ。
「父親が総理大臣だからなんだっていうんですか?
偉いのは父親であって貴方ではありません」
さっ、と彼女の顔に朱が走る。
「それとも、総理大臣の娘としてではなくひとりの女として、勝負することもできないんですか」
図星なのか両の拳を握りしめ、彼女はわなわなと震えだした。
「あなたに、この私が負けているとでも!? お金だって持っているし、顔もスタイルもいい、この私が!」
あー、うん。
誇るところが間違っている。
漸はお金も女性の顔や身体にも関心がない。
そして、そういうところを自慢する人間が大っ嫌いなのだ。
それがわからない時点で、万が一にも彼女へ漸が興味を持つことはない。
「それに私と結婚すれば将来、総理大臣の椅子は約束されたも同然なのよ!?」
「……はい?」
それまで至極冷静に彼女の話を聞いていたが、将来の総理、なんて言葉が出てきてあたまの中をクエスチョンマークが埋め尽くしていく。
「漸はただの、呉服屋の跡取りでしたが?」
「父が漸の、才能に気づいたの!
あれは大物の器だって!
だから私と結婚させて将来は跡継ぎに、って!」
「……漸の才能?」
……とは?
確かに男も女も魅了してしまうような、カリスマ性はありそうだけど。
それと政治ができるのは別問題では?
「えーっと、ちょっと待ってください……」
ただ、漸は私のものだからと、この失礼千万極まりない女にお帰りいただけばいい問題と思っていた。
しかしながらこれは、私との結婚が漸の将来を潰す、ということになるのでしょうか……?
『可愛い鹿乃子さんはいますかー?』
微妙な空気をぶち壊すように、唐突に脳天気な漸の声がスピーカーから響いてくる。
「えっ、漸!?」
「あ、漸。
いまちょっと、取り込み中でして……」
志芳さんはきょろきょろと声の出所を探しているが、私はかまわずに会話を続けた。
『お客様がおいでになっているのですか』
スピーカー越しに彼女の声も聞こえたみたいで、すぐに漸が訊いてくる。
「……はい。
荒木田志芳さんが」
『志芳さんですか……』
はぁーっ、と微かに、ため息の音が聞こえた。
「漸、漸なの!?」
『いま、東京駅なので、乗れる一番早い新幹線に乗ります。
そうですね……遅くても三時間後には着くかと』
「漸が帰ってくるの!?」
なぜか志芳さんは慌てているが……ああ、そういうことか。
『はい。
いまから帰りますので待っていてくださいね、志芳さん』
あの、全く笑っていない目でにっこり笑顔の漸が容易に想像できて、ぞっとした。
志芳さんも同じだったみたいで、ガタガタ震えている。
『じゃあ鹿乃子さん、ご迷惑をおかけしますが、もうしばらく志芳さんをよろしくお願いしますね』
「はい」
『愛しています、私の可愛い鹿乃子さん。
私は貴方だけのものです』
いつもはそんなことを言ったりしないのにわざわざ言うっていうのは、志芳さんに対する牽制なんだろうな。
「漸が帰ってくるなんて聞いてないわ……」
気が抜けたように志芳さんはソファーに座っているが、うん、私も聞いていない。
帰ってくるのは明日の予定だった。
それがこんなに、早くなるなんて。
あれかな、またキャンセルが入ったのかな。
接客のときに着付けは漸ではなく女性社員にさせるようになってから、一気にお客が減ったみたいだし。
「漸が帰ってくるなら私は帰るわ!」
善は急げとばかりに彼女は立ち上がったけれど、あんまりすぎない?
婚約者……というのは腹立たしいけれど、とにかく婚約者が帰ってくるんだよ?
そこは会える! 嬉しい! って待つものでは?
まあ、彼女としては漸がいないときに、この家に乗り込んできたのがバレると非常にマズいのだろうけど。
「どうして帰るんですか?
漸は待っていてくださいって言っていたじゃないですか。
あ、お寿司でもお取りしましょうか?
町の小さな寿司屋ですが、漸がお気に入りのところなのでご満足いただけると思います」
テキパキと彼女をソファーへ座らせ、新しいお茶を出す。
さらに寿司の注文もした。
新規開拓してみたいといつぞや漸とふらりと入った店だが、それ以来、気に入って漸は足繁く通っている。
店主にも覚えてもらえて最近は多少のことなら融通してくれるようになったほどだ。
「あの、私は急用を思いだしたので……」
来たときの勢いが嘘のように彼女は逃げだす算段をしているが、そうはいくか。
だいたい、あれでしょ?
漸がいないときなら私が簡単に屈服すると思っていたんでしょう?
残念でした。
私はなにがあろうと、漸を誰にも渡さないと決めたのだ。
「さて。
漸が帰ってくるまで三時間。
……いえ、あれからそこそこたったので二時間半、ですか?
本音でがっつり、お話をしましょうか?」
にっこりと笑った私を、彼女は怯えた目で見ていた。
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