あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 ずっと私は貴方のもの

6.桜舞い散るその日に……

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漸の事務所を借りるのにちょっと揉めたり、志芳の作る漸の衣装が私のに比べて地味で漸が拗ねたり。
祖父に怒られながらも必死に修行をしているうちに、……四月になった。

その日はとても天気がよく、漸の希望通り桜が満開だった。

「この日が待ち遠しかったです」

式は金澤神社で挙げる。
披露宴、は開かずに親しい人たちだけでのお食事会にした。

「……ううっ、私はこんなに緊張してるのに、なんでそんなに漸は余裕なんですか」

差しだされ手に自分の手をのせ、立ち上がる。

「私だって緊張していますよ」

嘘だ、嘘。
あのすました顔で緊張とか……あ。
でも、漸って感情を隠すのが上手いから。
本当に緊張しているのかも。

「漸でも緊張、するんですね」

「はい、もちろんです」

私だけじゃないんだと気づき、少しだけ気が緩んだ。

「可愛いですね、本当に鹿乃子さんは。
特に今日は、可愛いです」

それを見てころころと漸が笑っているということは……もしかして、緊張しているのは私だけなのか!?
ううっ、相手が一回りも年上だと、その手のひらのうえでいいように転がされるかしないでもない……。

「では、行きますか」

「はい」

漸に促され、係の人に先導されて控え室を出る。
神殿へ進む私たちに神社へ来ていた人たちが注目した。

「素敵な打ち掛け」

ちらっ、とそんな声が聞こえて、頬が熱くなる。

「幸せそうな花嫁さんね」

さらに聞こえてきた声で、誇らしくなった。
これは父が私のために作ってくれた、特別な打ち掛けだ。
掛下だって祖父作だし。
さらに縫ったのは祖母と母なので、私は最高の花嫁だ。
それに、隣には最愛の人がいるのだから。

神殿で三三九度の杯を交わした。
もうすでに入籍は済ませたが、それでもこれで本当に漸の妻になったのだ、という気がする。

「鹿乃子さん」

「はい」

差しだした左手に、漸が指環を嵌めてくれる。
結婚指環は漸とふたりで幾つもサイトを見て、決めた。
実際に東京のお店まで行って、細かい打ち合わせもした。
婚約指環も順番が前後したけど、と一緒にオーダーしてくれた。
セミオーダーだから私の指環のサイズも心配しなくていいです、なんて真面目に言っていた漸が、おかしかったな。

「漸」

「はい」

差しだされる漸の左手へ今度は私が指環を嵌める。
とりあえず、じゃなく正式な私のものだという印。
これをもう一生、外させたりしないし、外したりしない。

式が終わり、料亭の予約時間まで時間があるので、そのあいだを写真撮影に当てた。

「モデルさん、なのかな?」

「結婚式場のプロモーション撮影とか?」

すぐに視線が、漸に集まりだす。
なんだかそれに、だんだん腹が立ってきた。

「漸」

「なんですか。
今日は特に、可愛い鹿乃子さん」

ちょいちょい、と手招きしたら、漸が身を屈めて顔を寄せてくれる。
背伸びをしてその首へ手を回した。
唇を重ねた瞬間、周囲が息を飲むのがわかった。

「……ったく。
いったい、なにをやっているんですか、貴方は」

はぁーっ、と呆れてため息をつきながらも、漸の姿勢は変わらない。

「だって、漸は私のものなんだもん」

拗ねて唇を尖らせたら、ちゅっ、と唇が触れた。

「そうですね、先ほどから私に向かう視線が嫌ですし、……鹿乃子さんに向かう視線も不愉快です」

「……!」

今度は漸の方から唇が重なる。
しかも彼は身内……どころか知らない人もたくさんいる前で、がっつり舌まで入れてきた。

「……俺は鹿乃子のものだし、鹿乃子も一生、俺のものだ。
もう、神に誓ったしな」

ぺろり、と濡れた唇を舐める漸を、熱に浮かされた目で見ていた。
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