家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 家政夫を頼んだら執事がきました

1-4 申し込んでしまいました

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家に帰り、もらってきた雑誌をめくる。

「ハウスキーパー、ね……」

メリットの記事を読めば頼んでみてもいいかな、などと気持ちも動く。
が、デメリットを読むとたちまち後ろ向きになっていく。

窃盗に遭ったとか、個人情報をばらまかれたとか。

そういうのは特殊な事例で私どもではそのようなことがないように社員を教育している、とハウスキーパー派遣会社の人間は言っているが実際はわからない。

「まずいのは理解しているんだけど……」

この間、閉じ込められたときに母に無理矢理片付けをさせられ多少綺麗になった我が家は、すでに足の踏み場もないほど散らかっていた。
さらにここ数日、締め切りに追われて菓子パンの徳用袋とコーヒー牛乳で過ごしていたおかげで、そこかしこにそのゴミが散らかっている。

「またあいつが出ると困るし……」

宿敵の黒いあいつと遭遇したのはほんのひと月前。

視界の隅をカサカサとあいつが這っていき、気のせいだと済ませようとしたもののトイレから出たところで目があった。
絶叫に近い悲鳴を上げ、速攻でドラッグストアに駆け込んであれの駆除グッズを買い占めて設置。

それ以来、いまのところ見かけてはいないが、また出たらと思うと……ゾッとする。

「どうーしよっかなー」

開いたハウスキーパー……いや、家政婦紹介所のホームページでは、利用者のレビューが載せてあった。
大多数が雑誌と一緒で頼んでよかっただ。
けれどそれに混ざっていくつか掃除が雑だったとか、時間通りに仕事をしてもらえなかっただとかという苦情もきちんと載せてあって、信頼はできそうだ。

「頼んだ方がいいのはわかるんだけど……」

悩みながら申し込み画面を埋めていく。
全部入力し終わってもまだ、決心はつかない。

「確かに締め切り多くて掃除する暇なんてないし……」

人気がある間に頑張っとかないとと、無計画に仕事を受けた自分が悪いのはわかっている。
でもいまが絶頂なんじゃないかってくらい、書く気があるから。

【お申し込み】ボタンの上を、矢印はぐるぐる回るばかりでいっこうに決心はつかない。

「でも廊下に物を積むのだけやめたら、閉じ込められる心配はなくなるわけで……」

迷う心は次第に、申し込まなくていい理由を探しはじめる。

「ゴミはいままでだって、起きられた日は出してたし……。
異臭がするほどでもないし……」

だんだん、まだ大丈夫じゃないかという気になってきた。
うん、ハウスキーパーなんて頼まなくてもいままでやってこられたんだし。
閉じ込められないようにだけ、気をつければいいはず。

勝手に納得して、画面を閉じようとタブの×に矢印を動かそうとした瞬間。

――カサッ。

「ひっ」

――カチッ。

「え?」

背後でなにかが動いた音で、手に力が入ってマウスをクリックしていた。
画面には【お申し込み、ありがとうございました】の文字。

……え?
もしかして、申し込んでしまいましたか?

否定したいのに一瞬置いてポン、とメールの到着を告げるポップアップが上がる。

【このたびはひだまり家政婦紹介所にお申し込みいただき、ありがとうございました。
あらためて打ち合わせのご連絡を差し上げます】

「うん、もういいよ……」

これもなにかの運命だ。
諦めてハウスキーパーをお願いしよう。
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