家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
28 / 80
第5章 彼氏(仮)と過ごすクリスマス

5-5 邪魔、ですか?

しおりを挟む
「こんにちはー」

「はーい」

セバスチャンを抱いて、松岡くんを玄関までお出迎え。

「本日もよろしくお願いいたします」

「お願いします」

やっぱり、コート姿の松岡くんは格好いい。

「……今日はえらく、気合い入ってるな」

途端にぼふっと、あたまのてっぺんから煙が出る。

昨日ついでに、服を買ってきた。
ディープグリーンのハイネックニットワンピにワンポイントでネックレス、それにストールなんて羽織って、女っぽさを演出してみた。

……なーんて。

お店でちょっといいかな、なんて見ていたところへ店員にいろいろ勧められ、逃げるタイミングを失ってお買い上げしたんだけど。
でも松岡くんが褒めてくれるんなら、買ってよかった。

「すぐにお茶の準備をいたしますので」

「お願い」

暇なのでセバスチャンの前で大好きなおもちゃなど振ってみる。
けど、松岡くんがきた=おやつの時間だと認識しているのか、松岡くんの方ばかり気にしている。

「にゃっ」

トレイを手にこちらへやってくる松岡くんの足下に、セバスチャンがまとわりつく。

「はい、おやつですね。
でも紅夏のお茶が先ですよ」

苦笑いでトレイをちゃぶ台の上に置き、彼はてきぱきとお茶の準備をはじめた。
でも今日はサンドイッチとスコーン、それにキッシュと、メインといえるケーキがない。

「本日は夜、ケーキを召し上がりますから、アフタヌーンティは省略させていただきました。
けれどそれでは紅夏のお腹が空いてしまいますので、代わりにキッシュを」

「……ありがとう」

松岡くんってほんと、いろいろ考えてくれるんだなー。

「本日のお茶はクリスマスブレンドでございます」

今日のお茶は林檎をメインに果物の香りがして、なんだか幸せな気分に浸れそう。

「セバスチャンもおやつですね」

松岡くんがポケットからおやつを出した途端、セバスチャンの目の色が変わる。

「にゃー、にゃー」

「はいはい、少々お待ちください」

相変わらず、執事モードのときは猫相手でも敬語なのがおかしい。
松岡くんがパッケージの封を切ると、セバスチャンが飛びついた。

「あれ?」

松岡くんが手にしているおやつが、いつもとパッケージの色が違うのに気づいた。
通常はオレンジとか水色のパッケージに白で字が入っているのだけれど、それは文字が金色だ。

「ああ、今日は高級な方をご用意しました。
クリスマスですからね、特別です」

――例によって松岡くんは猫に甘い。


今日は追われている仕事もないし、ぼーっと松岡くんが仕事をしているのを見ていた。

そういえば、いままでずっと仕事のフリをして閉じ籠もったりしていたから、こうやって松岡くんの仕事ぶりを見るのは初めてだ。

「お風呂の掃除をするときも執事服のままなんだね」

さすがに上着は脱いだが、あとは裾まくり袖まくりで浴槽を磨いていく。
彼が来てくれるようになってからは、水垢なんてついたことがない。

「アイロンかけるの、上手だね。
私がかけたら皺を伸ばしているのか作っているのかわかんないのに」

松岡くんの手にかかればアイロンは滑るように動き、皺は瞬く間に伸びていく。
私もあれくらい上手にかけられたらきっと、気持ちいいんだろうなー。

「時計の電池も替えてくれるの?
うわっ、さすがだね!
そこ、私でも手が届かないのに」

茶の間にかかっている時計を少しの背伸びだけで外し、松岡くんは電池を替えてくれた。
どおりで、あとで替えなきゃとか、あとで補充しなきゃとか思っていたことが、いつの間にか解消されているはずだ。

「ねえねえ……」

「……紅夏」

夢中になって私が話していたら、松岡くんがはぁっと短くため気を落とした。

「暇なんですか」

「あー、……うん。
一応、年内のお仕事は終わったから、今日は暇」

はぁっ、なぜかまた、松岡くんの口からため息が落ちる。

「座っていてもらえますか」

「あ、うん」

半ば無理矢理、肩を押さえられてこたつの前に座る。

「少し待っていてください」

「うん」

台所へ行ってやかんにジャーッと水を入れ、ガスコンロへ置く。
すぐにボッと火がついた。
松岡くんは紅茶を入れるのにポットのお湯を使わない。
絶対沸かしたて。

「どうぞ」

「……ありがと」

少しして、松岡くんはお茶を出してくれた。

「申し訳ありませんが、それを飲んで少々おとなしくしていてもらえませんか」

松岡くんの顔は綺麗な笑顔だったけど、はっきりと【迷惑だ】って書いてある。

「……はい。
すみませんでした」

うん、自分でもちょっと、ハイテンションになってまとわりつきすぎだったと思う。
反省、反省。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

処理中です...