29 / 80
第5章 彼氏(仮)と過ごすクリスマス
5-6 初めての……デート?
しおりを挟む
お茶を飲みながらのんびりと、積ん読しといた本を読む。
こんなに優雅に本が読めるなんて、ほんとにいいのか気になってくる自分が怖い。
「さて。
では少し、出かけますか」
「いいの!?」
速攻で私が食いつき、松岡くんは苦笑いを浮かべた。
「ただの、食材の買い出しですが」
「行く、行く!
コート取ってくるから、ちょっと待ってて!」
「はい」
また苦笑いをしている松岡くんを尻目に、慌ててコートを取りに寝室へ行く。
近所への買い物でも、初めての一緒での外出。
これをデートと呼ばずになんと呼ぶ?
戻ってきたときにはすでに、松岡くんもコートを着ていた。
「行きますか」
「うん!
セバスチャン、お留守番お願いね?」
「にゃー」
玄関まで出てきてきたセバスチャンが、任せておけというふうに鳴いた。
松岡くんと並んで歩く。
私がヒールの高いブーツを履いたって、松岡くんの方がまだ背が高い。
うきうきと歩き、あっという間に目的地であるスーパーに着いた。
「なに買うの?」
「そうですね……」
手際よくカートにカゴをのせて押している松岡くんは、新婚の旦那さんみたいだ。
……ということは、私はその奥さん?
思わず奇声を発しそうになって、手で抑える。
いやいや、ない、ないから。
いくらなんでもそれはない。
わかっているのに妙に嬉しくなっている自分が理解できない。
「紅夏?」
怪訝そうに松岡くんが顔をのぞき込んでくる。
「なんでもない!
そう、なんでもない」
「どこ行くんですか!?」
自分に言い聞かせてごまかすように足早に店の中を進んで行く私を、松岡くんが慌てて追ってきた。
松岡くんがカゴに入れたのは、牛肉の塊と野菜、あとは調味料に……。
「紅夏はお酒、飲めるんですか」
「多少は」
「なら、今日はいいですよね」
お酒のコーナーでお手頃なシャンパンを選んでくれた。
「松岡くんは?」
「私は仕事中ですので、こちらを」
苦笑いでシャンメリーの瓶をカゴに入れてくる。
そうだよね、そもそも一緒に食事だけでも業務規定違反なのに、さらに勤務時間内にお酒なんて飲めないよね。
申し訳ない。
支払いのとき、松岡くんが出したお財布はいかにも大学生っぽい、使い込まれた二つ折り財布だった。
……立川さん、グッジョブ。
心の中でガッツポーズ。
これならあのプレゼントで喜んでくれるはず。
「さむっ」
外に出たらもうだいぶ日が陰ってきているせいか、来たときよりも寒かった。
「マフラー、巻いて来ないからですよ」
一度、ボタンを外してコートの中からマフラーを松岡くんは引き抜いた。
「ほら」
それを私に、ぐるぐると巻いてくれる。
「……ありがとう」
さっきまで松岡くんが巻いていたからか、温かい。
「それから」
私の手を取ってそのまま松岡くんはぼすっと、自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「……こうしとけば寒くねーだろ」
「……うん」
すでに、せっかく巻いてもらったマフラーもいらないほど、身体が熱い。
俯いて黙って歩いているうちに、ポケットの中の手は指を絡めて握られていた。
「ただいま戻りました」
「にゃー」
ちゃんとお留守番していたよ、ボク凄くない?
と自慢げなセバスチャンのあたまを松岡くんが撫でる。
「では、夕食の支度ができましたらお声がけいたしますので」
「よ、よろしく……」
いまだに心臓はどきどきと徒競走でもしているみたいに落ち着かない。
コートを脱ぎかけて、マフラーを借りたままだと気づいた。
途端にさっき自分の手を握っていた、大きな手を思いだし、ぼふっと煙が出る。
「ま、松岡くん。
マフラー、ありがとう」
台所で松岡くんはすでに、袖まくりで調理を開始していた。
「いえ、お役に立てたのなら光栄です」
マフラーを受け取るより先に、私に出してくれたのは……アイスティ、だった。
「先ほどは汗をかいておられたようだったので」
意地悪く、松岡くんの右の口端が僅かに持ち上がる。
おかげでまた、ぼふっと煙を噴いた。
本を読む気にもなれなくて、ぼーっとテレビを見て過ごす。
綺麗なイルミネーションとかちょっと……松岡くんと行ってみたい。
『ほら紅夏、綺麗だろ』
ん?
そんなこと、言うか?
『寒くねーか』
マフラーで私をぐるぐる巻きにして、そして……って!
それは!
さっきの!
松岡くん!
だから!
慌てて想像を打ち消す。
また煙を噴かないうちにストローを咥えたものの、虚しくずっと音がした。
こんなに優雅に本が読めるなんて、ほんとにいいのか気になってくる自分が怖い。
「さて。
では少し、出かけますか」
「いいの!?」
速攻で私が食いつき、松岡くんは苦笑いを浮かべた。
「ただの、食材の買い出しですが」
「行く、行く!
コート取ってくるから、ちょっと待ってて!」
「はい」
また苦笑いをしている松岡くんを尻目に、慌ててコートを取りに寝室へ行く。
近所への買い物でも、初めての一緒での外出。
これをデートと呼ばずになんと呼ぶ?
戻ってきたときにはすでに、松岡くんもコートを着ていた。
「行きますか」
「うん!
セバスチャン、お留守番お願いね?」
「にゃー」
玄関まで出てきてきたセバスチャンが、任せておけというふうに鳴いた。
松岡くんと並んで歩く。
私がヒールの高いブーツを履いたって、松岡くんの方がまだ背が高い。
うきうきと歩き、あっという間に目的地であるスーパーに着いた。
「なに買うの?」
「そうですね……」
手際よくカートにカゴをのせて押している松岡くんは、新婚の旦那さんみたいだ。
……ということは、私はその奥さん?
思わず奇声を発しそうになって、手で抑える。
いやいや、ない、ないから。
いくらなんでもそれはない。
わかっているのに妙に嬉しくなっている自分が理解できない。
「紅夏?」
怪訝そうに松岡くんが顔をのぞき込んでくる。
「なんでもない!
そう、なんでもない」
「どこ行くんですか!?」
自分に言い聞かせてごまかすように足早に店の中を進んで行く私を、松岡くんが慌てて追ってきた。
松岡くんがカゴに入れたのは、牛肉の塊と野菜、あとは調味料に……。
「紅夏はお酒、飲めるんですか」
「多少は」
「なら、今日はいいですよね」
お酒のコーナーでお手頃なシャンパンを選んでくれた。
「松岡くんは?」
「私は仕事中ですので、こちらを」
苦笑いでシャンメリーの瓶をカゴに入れてくる。
そうだよね、そもそも一緒に食事だけでも業務規定違反なのに、さらに勤務時間内にお酒なんて飲めないよね。
申し訳ない。
支払いのとき、松岡くんが出したお財布はいかにも大学生っぽい、使い込まれた二つ折り財布だった。
……立川さん、グッジョブ。
心の中でガッツポーズ。
これならあのプレゼントで喜んでくれるはず。
「さむっ」
外に出たらもうだいぶ日が陰ってきているせいか、来たときよりも寒かった。
「マフラー、巻いて来ないからですよ」
一度、ボタンを外してコートの中からマフラーを松岡くんは引き抜いた。
「ほら」
それを私に、ぐるぐると巻いてくれる。
「……ありがとう」
さっきまで松岡くんが巻いていたからか、温かい。
「それから」
私の手を取ってそのまま松岡くんはぼすっと、自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「……こうしとけば寒くねーだろ」
「……うん」
すでに、せっかく巻いてもらったマフラーもいらないほど、身体が熱い。
俯いて黙って歩いているうちに、ポケットの中の手は指を絡めて握られていた。
「ただいま戻りました」
「にゃー」
ちゃんとお留守番していたよ、ボク凄くない?
と自慢げなセバスチャンのあたまを松岡くんが撫でる。
「では、夕食の支度ができましたらお声がけいたしますので」
「よ、よろしく……」
いまだに心臓はどきどきと徒競走でもしているみたいに落ち着かない。
コートを脱ぎかけて、マフラーを借りたままだと気づいた。
途端にさっき自分の手を握っていた、大きな手を思いだし、ぼふっと煙が出る。
「ま、松岡くん。
マフラー、ありがとう」
台所で松岡くんはすでに、袖まくりで調理を開始していた。
「いえ、お役に立てたのなら光栄です」
マフラーを受け取るより先に、私に出してくれたのは……アイスティ、だった。
「先ほどは汗をかいておられたようだったので」
意地悪く、松岡くんの右の口端が僅かに持ち上がる。
おかげでまた、ぼふっと煙を噴いた。
本を読む気にもなれなくて、ぼーっとテレビを見て過ごす。
綺麗なイルミネーションとかちょっと……松岡くんと行ってみたい。
『ほら紅夏、綺麗だろ』
ん?
そんなこと、言うか?
『寒くねーか』
マフラーで私をぐるぐる巻きにして、そして……って!
それは!
さっきの!
松岡くん!
だから!
慌てて想像を打ち消す。
また煙を噴かないうちにストローを咥えたものの、虚しくずっと音がした。
0
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる