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第11章 小説なんて書かない方がいい
11-5 やっぱりあいつが犯人だと思うんだけど
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「なー、紅夏」
まだ帰る気がないのか、片付けが終わった松岡くんは一緒になってこたつに潜り込んだ。
「やっぱ俺、あいつが犯人だと思うんだけどー」
まだ立川さんを犯人にしたいかね、松岡くん?
「だってさ、あいつだったら紅夏の住所知ってるし。
紅夏が黒猫飼ってるのも知ってるし。
絶対、怪しくねー?」
そう言われたらそうだけど。
でもね。
「それをいうなら蒼海出版に勤めている人だったら私の住所を手に入れる機会だってあるだろうし、蒼海だけじゃなくて私が書いてるほかの出版社の人間だって」
「うっ」
「それに私が黒猫飼ってるのはニャンスタにあげてるし」
「……そうだった」
あ、そんなに項垂れなくていいよ。
確かに条件は揃っていたわけだし。
「でもさ、前にあいつが猫を捕まえてるとこ、見たって言っただろ」
またその話、蒸し返す?
「それって立川さんだって断言できるの?」
「うっ」
ほら、俯いて黙っちゃうくらい、困っている。
「見たのってかなり前なんでしょ?
そのときの人と立川さんが同一人物だって断言できるの?
たまたま、よく似た人だった可能性だってあるよね」
「あれは絶対、立川だった!」
逆ギレ?
逆ギレですか?
「紅夏を見る目、あのときの目付きと同じだから。
だから絶対、間違いない」
「はいはい、そうですか」
「なんで信じてくれないんだよ!」
がん!松岡くんが天板を叩き、のっていたミカンが跳ねた。
いや、信じたいのは山々なんだけど。
でもあの立川さんが猫を捕まえて虐待し、それをさらに私に送りつけているなんて……どう頑張っても想像できない。
「信じてない、わけじゃないけど……」
まだ半信半疑どころか、一割信九割疑くらいだけど。
たぶん、他の人が同じことを言ったら、十割信じない。
でも、松岡くんだから一割は信じている。
「……俺よりあいつを信じるんだ」
「松岡くんの方を信じてるよ!」
うんうん、だって立川さんも松岡くんが猫を捕まえているところを見たー、とか言っていたけれど。
松岡くんに限って絶対、ありえないもん。
セバスチャンが日本語を話すくらいありえない。
うん。
「……ほんとに?」
「ほんと、ほんと」
だからそんな、眼鏡の奥からジト目で睨まないでー。
「立川さんには気をつける。
松岡くんがいるときじゃないと会わない。
約束する、から」
お願いだからもう、機嫌直して!
「じゃあ、指切りして」
「指切り?
するする」
松岡くんが差し出す小指に自分の小指を絡める。
「指切りげんまん嘘ついたら……そうだな。
紅夏押し倒して無理矢理処女を奪う」
「えっ、あっ、ええっ!?」
「指切った、と」
私が現状を把握していないうちに小指が離れる。
松岡くんは右頬だけを歪めてにやっと笑った。
「さーてと。
指切りもしたし、帰る前に指、見せろ」
「あっ、えっと……うん」
まだあたまはパニックなまま、素直に右手を差し出した。
「おっ、ちゃんと言うこと守っておとなしくしてたみたいだな。
少しよくなってきてる」
絆創膏を剥いで傷を確認した松岡くんは、嬉しそうに笑った。
「ほんと!?」
ということは、執筆は解禁でいいですか。
「でもまだ完全じゃないからな。
無理はしないこと。
できればもう二、三日、お休み」
「えーっ」
こっちとして早く書きたいのだ。
なのにまだ、あのストレスの溜まる左手オンリーなんて。
「また傷がぱっくり開いて、治るのが長引いていいのか」
てきぱきと新しい絆創膏を巻きながら、松岡くんは少しだけ私を脅してきた。
「……よくない」
ううっ、まだ我慢するしかないのかー。
「じゃ、今日は帰るけど。
戸締まり、気をつけろよ。
窓は全部警報器つけたけど、玄関はつけてないからな」
「うん、わかった」
今日も玄関までお見送り。
この時間が一番、せつない。
「なんかあったらすぐ連絡しろ。
夜中でも仕事中でもかまわないから」
「うん」
「あと……」
「心配しすぎ。
大丈夫、だよ」
笑って松岡くんを止める。
そうじゃないといつまでもこうやって心配していそうだから。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
ちゅっと頬に唇が触れ、しばらく見つめあう。
この時間がたまらなく幸せで――同時に、淋しい。
「じゃあ」
「うん、じゃあ」
玄関が閉まり、自転車の音が聞こえなくなるまでそこにいた。
「明日も、来るんだし」
自分に言い聞かせて中に戻る。
「にゃー」
「んー、セバスチャン、どーしたのー」
さっきまで松岡くんにもらったおやつをがっついていたくせに、私の姿を認めてセバスチャンが寄ってきた。
「遊ぼうか」
「にゃっ」
お気に入りのネズミのおもちゃを手に取るとセバスチャンの目の色が変わる。
「にゃっ!
にゃっ!」
「ほれほれ、セバスチャンは可愛いねー」
目一杯、明るい声を出して、さっき淋しいなんて思った自分を忘れる。
「ほらほら、頑張らないと捕まらないよー」
大好きなネズミのおもちゃを前に、捕まえようとセバスチャンは必死だ。
そんな光景を見ていると嫌がらせの手紙で荒んだ心が、和む。
「ほら、頑張って」
「にゃっ、にゃっ!!」
やっぱり猫は可愛い。
こんなに可愛い猫を虐待できるなんてどうかしている。
それに、猫の話をする立川さんは嬉しそうだったし、彼の携帯は可愛い猫の写真でいっぱいだった。
あんなに猫好きの彼が、猫を虐待しているなんて考えにくい。
いくら、松岡くんがああ言っても。
「やっぱり、人違いじゃないのかなー」
セバスチャンは疲れたのか、こたつに潜っていく。
私も一緒になってこたつに潜った。
「松岡くんの言いたいことはわかるんだけど……」
温かいこたつは私の思考力を奪っていく。
そのまま、眠ってしまった……。
まだ帰る気がないのか、片付けが終わった松岡くんは一緒になってこたつに潜り込んだ。
「やっぱ俺、あいつが犯人だと思うんだけどー」
まだ立川さんを犯人にしたいかね、松岡くん?
「だってさ、あいつだったら紅夏の住所知ってるし。
紅夏が黒猫飼ってるのも知ってるし。
絶対、怪しくねー?」
そう言われたらそうだけど。
でもね。
「それをいうなら蒼海出版に勤めている人だったら私の住所を手に入れる機会だってあるだろうし、蒼海だけじゃなくて私が書いてるほかの出版社の人間だって」
「うっ」
「それに私が黒猫飼ってるのはニャンスタにあげてるし」
「……そうだった」
あ、そんなに項垂れなくていいよ。
確かに条件は揃っていたわけだし。
「でもさ、前にあいつが猫を捕まえてるとこ、見たって言っただろ」
またその話、蒸し返す?
「それって立川さんだって断言できるの?」
「うっ」
ほら、俯いて黙っちゃうくらい、困っている。
「見たのってかなり前なんでしょ?
そのときの人と立川さんが同一人物だって断言できるの?
たまたま、よく似た人だった可能性だってあるよね」
「あれは絶対、立川だった!」
逆ギレ?
逆ギレですか?
「紅夏を見る目、あのときの目付きと同じだから。
だから絶対、間違いない」
「はいはい、そうですか」
「なんで信じてくれないんだよ!」
がん!松岡くんが天板を叩き、のっていたミカンが跳ねた。
いや、信じたいのは山々なんだけど。
でもあの立川さんが猫を捕まえて虐待し、それをさらに私に送りつけているなんて……どう頑張っても想像できない。
「信じてない、わけじゃないけど……」
まだ半信半疑どころか、一割信九割疑くらいだけど。
たぶん、他の人が同じことを言ったら、十割信じない。
でも、松岡くんだから一割は信じている。
「……俺よりあいつを信じるんだ」
「松岡くんの方を信じてるよ!」
うんうん、だって立川さんも松岡くんが猫を捕まえているところを見たー、とか言っていたけれど。
松岡くんに限って絶対、ありえないもん。
セバスチャンが日本語を話すくらいありえない。
うん。
「……ほんとに?」
「ほんと、ほんと」
だからそんな、眼鏡の奥からジト目で睨まないでー。
「立川さんには気をつける。
松岡くんがいるときじゃないと会わない。
約束する、から」
お願いだからもう、機嫌直して!
「じゃあ、指切りして」
「指切り?
するする」
松岡くんが差し出す小指に自分の小指を絡める。
「指切りげんまん嘘ついたら……そうだな。
紅夏押し倒して無理矢理処女を奪う」
「えっ、あっ、ええっ!?」
「指切った、と」
私が現状を把握していないうちに小指が離れる。
松岡くんは右頬だけを歪めてにやっと笑った。
「さーてと。
指切りもしたし、帰る前に指、見せろ」
「あっ、えっと……うん」
まだあたまはパニックなまま、素直に右手を差し出した。
「おっ、ちゃんと言うこと守っておとなしくしてたみたいだな。
少しよくなってきてる」
絆創膏を剥いで傷を確認した松岡くんは、嬉しそうに笑った。
「ほんと!?」
ということは、執筆は解禁でいいですか。
「でもまだ完全じゃないからな。
無理はしないこと。
できればもう二、三日、お休み」
「えーっ」
こっちとして早く書きたいのだ。
なのにまだ、あのストレスの溜まる左手オンリーなんて。
「また傷がぱっくり開いて、治るのが長引いていいのか」
てきぱきと新しい絆創膏を巻きながら、松岡くんは少しだけ私を脅してきた。
「……よくない」
ううっ、まだ我慢するしかないのかー。
「じゃ、今日は帰るけど。
戸締まり、気をつけろよ。
窓は全部警報器つけたけど、玄関はつけてないからな」
「うん、わかった」
今日も玄関までお見送り。
この時間が一番、せつない。
「なんかあったらすぐ連絡しろ。
夜中でも仕事中でもかまわないから」
「うん」
「あと……」
「心配しすぎ。
大丈夫、だよ」
笑って松岡くんを止める。
そうじゃないといつまでもこうやって心配していそうだから。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
ちゅっと頬に唇が触れ、しばらく見つめあう。
この時間がたまらなく幸せで――同時に、淋しい。
「じゃあ」
「うん、じゃあ」
玄関が閉まり、自転車の音が聞こえなくなるまでそこにいた。
「明日も、来るんだし」
自分に言い聞かせて中に戻る。
「にゃー」
「んー、セバスチャン、どーしたのー」
さっきまで松岡くんにもらったおやつをがっついていたくせに、私の姿を認めてセバスチャンが寄ってきた。
「遊ぼうか」
「にゃっ」
お気に入りのネズミのおもちゃを手に取るとセバスチャンの目の色が変わる。
「にゃっ!
にゃっ!」
「ほれほれ、セバスチャンは可愛いねー」
目一杯、明るい声を出して、さっき淋しいなんて思った自分を忘れる。
「ほらほら、頑張らないと捕まらないよー」
大好きなネズミのおもちゃを前に、捕まえようとセバスチャンは必死だ。
そんな光景を見ていると嫌がらせの手紙で荒んだ心が、和む。
「ほら、頑張って」
「にゃっ、にゃっ!!」
やっぱり猫は可愛い。
こんなに可愛い猫を虐待できるなんてどうかしている。
それに、猫の話をする立川さんは嬉しそうだったし、彼の携帯は可愛い猫の写真でいっぱいだった。
あんなに猫好きの彼が、猫を虐待しているなんて考えにくい。
いくら、松岡くんがああ言っても。
「やっぱり、人違いじゃないのかなー」
セバスチャンは疲れたのか、こたつに潜っていく。
私も一緒になってこたつに潜った。
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