家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第11章 小説なんて書かない方がいい

11-6 専属執事にしてもらうから大丈夫

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月曜日はもちろん、松岡くんが仕事で来る。

「本日もよろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いします」

 通常通りアフタヌーンティをして、左手だけでもキーを叩いていたら松岡くんに怒られそうなので、こたつでごろごろ。

 掃除や片付けが終わり、今日も夕食の買い出しに連れ出してくれた。
 新婚さん気分を満喫して帰ってくると、待っているのは……例の郵便。

「……入ってる?」

「……あるな」

 日曜月曜と二日分のそれは、先週のより大きくなっている。

「なんで大きくなってるんだろ」

「開けなくてもいいんだぞ」

 松岡くんは鋏を握った私を止めてくれたけれど、気になる、から。

 適当にひいた紙の上に中身を出す。

 ――ゴト。

「ひぃっ」

 妙に重い音とともに出てきたそれに悲鳴が漏れる。

「今日は足かよ……」

 大きいはずだ、封筒には黒猫の後ろ足が一本ずつ入っていたのだから。

「セバスチャン、セバスチャン……」

 あっという間に松岡くんは下にひいた紙ごとくるんで、私の目に入らないようにした。

「セバスチャン、セバスチャンが」

 縋るように松岡くんの腕を掴む。
 見上げた彼は泣き出しそうに顔を歪めていた。

「紅夏、落ち着け。
あれはセバスチャンじゃない」

「でも、でも」

 あたまではわかっているのだ、あれはセバスチャンじゃないって。
 だって家を出る前、セバスチャンはミカンを転がして遊んでいたのだから。

「あれはセバスチャンじゃない。
セバスチャンはあそこにいる」

 松岡くんが指さす方向を見る。
 そこではセバスチャンがのんきに毛繕いをしていた。

「……うん」

 一応納得して、手を離す。
 でもあたまの中はぐるぐる回るばかりでちっとも落ち着かない。

「ちょっと待ってろ」

 私を安心させるようにか、あたまをぽんぽんして松岡くんは台所へ消えていった。
 少しして、カップを手に戻ってくる。

「落ち着くから」

「……うん」

 渡されたカップを受け取った手は細かく震えていた。
 こぼさないように気をつけながら、淹れてくれた紅茶を飲む。

「あれはセバスチャンじゃない。
セバスチャンはここにいる。
……わかるな?」

 セバスチャンはいま、私の視線の先にいる。
 あの足はセバスチャンのじゃない。

 じゃああの足はどこの猫の?

 やっぱり、セバスチャンのじゃ。
 ううん、セバスチャンはここにいる。
 だから違う。

 だけど――。

「……にか。
紅夏!」

「……え?」

 松岡くんから肩を揺すられ、我に返った。
 私いま、なにを考えていたんだろう……?

「いまはなにも考えるな。
いいな?」

「う、うん」

 強く言い聞かせるように言われ、仕方なく頷いた。
 松岡くんはテレビをつけてリモコンを私に握らせ、台所へ行ってしまった。

「にゃー」

 入れ替わるようにセバスチャンがやってきて、私の身体の隙間にずぼっとあたまを突っ込んでくる。

「セバスチャン」

 膝の上にのせてあたまを撫でると、気持ちよさそうにのどを鳴らす。
 なぜかそれだけで、わけもわからず涙が溢れてくる。

「なん、で」

 悲しくなんてないのに、涙は止まらない。
 鼻をずびずびいわせながら、ティッシュを何枚も消費した。

「紅夏」

「松岡、くん。
おかしいよね、なんで私、泣いてるんだろ」

「安心したからだろ」

 止まらない涙を、松岡くんがまじめな顔をして拭ってくれる。

「まだ時間じゃないけど、一回帰ってくる」

「なん、で」

 いまは傍にいてほしい。
 時間までしかいられないがわかっていても。
 なのに。

「横井さんにあれ届けて、家に帰ってくる。
んで、着替え取って戻ってくるから」

 戻ってくるってどういう意味なんだろう。

「今日はここに泊まる。
こんな紅夏、ひとりにしておけない」

 松岡くんの言っていることが理解できない。

「でも業務規定違反、だよね」

「そうだな」

「バレたら会社、クビになっちゃう」

「そのときは紅夏専属の執事にしてもらうからいい」

 笑った彼が、ぷにっと私の頬を摘まむ。

「……痛い」

「ん、ちょっと笑ったな」

 私の頬から手を離し、なぜか松岡くんは私のあたまをがしがし撫でた。

「ちょっとの間ひとりにするけど、大丈夫な?
すぐに戻ってくるから」

「……うん」

「じゃあ、行ってくる」

 松岡くんがレジ袋に入れたそれを持ち、ようやく私のあたまは今日、届いたものを理解した。

 ……あんなに心配させるほど、取り乱すなんてダメだな、私。

 でもあれはそれだけ、インパクトがあったのだ。
 前足はまだ小さいから、キーホルダーかなにかに見えないこともなかった。
 でも後ろ足は、しかも根元から切り取られていて、……妙にリアルだったのだ。
 いや、本物なのだけど。

「金曜日と土曜日が前足……。
日曜日と月曜日が後ろ足……」

 じゃあ、火曜日は?
 水曜日はなにが届く?

 考えると怖くて怖くてたまらない。

「セバスチャン、セバスチャン」

 床を這うようにセバスチャンを探す。
 セバスチャンはもうすぐごはんがもらえる時間だからか、お皿の前で待っていた。

「セバスチャンは絶対、殺させたりしないから」

 無理矢理、セバスチャンを抱きしめる。
 身体の震えはいつまでたっても止まらなかった。
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