家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 執事服の王子様

13-6 個人的に家政夫として雇えません、か

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 入院している間、松岡くんは毎日お見舞いに来てくれた。

「あの家、今度こそ売り払うって言われた」

「はぁっ!?」

 松岡くんは驚いているけど、……まあそうなるよね。

「……それで、どうするんだ?」

「死守した。
低俗なエロ小説書いてる娘なんて、あの家ごと捨てたらいいだろー!
って吠えたら、お父さんが折れた」

「なんだそれ」

 くすくすとおかしそうに松岡くんは笑っている。

 うん、あれは傑作だったなー。
 私が吠えたら、父はめちゃくちゃびっくりして。
 怒鳴ったの、初めてだったからかな。
 あの家を売るって喧嘩したときは、すねて部屋から出てこない、だったし。

「でもまたこんなことになったら困るから、警備会社に加入しろって」

「それは俺も賛成」

 そうだね、今回は凄く、心配させちゃったもん。

「でもそうなると、家政婦さんを雇うお金がなくなっちゃう。
ということは、家に戻ると同時にまた、あの状態に」

「なーにが言いたいんだっ!?」

 ぷにっと松岡くんが私の頬を摘まんでくる。
 痛い、けど嬉しい。

「松岡くんを個人的に雇えないかなーって。
あ、そういう具合なのでお給料は出せません。
けど、家に……す、棲んでくれたら、家賃はいらない、ので」

 私としては精一杯の、同棲のお誘いなんだけど……。
 ダメ、かな。

 はぁっ、俯いたあたまの上に、ため息が落ちてくる。
 失敗したんだって泣きたくなった。

「なんで素直に、一緒にいたいって言えねーかな?」

 おそるおそる顔を上げると、松岡くんはあきれたように笑っていた。

「一緒に、いたい。
もう松岡くんが帰るたびに淋しくなるのは、嫌」

「うん」

 松岡くんの手がそっと、私の顔に触れる。
 じっと眼鏡の奥から見つめられ、意味がわかって目を閉じる。

「紅夏……」

 ――ガラッ。

「お兄さん、いるー?
ひぃっ」

 眼光鋭く松岡くんに睨まれ、横井さんは棒立ちになった。

「なんで毎回毎回、邪魔するかなぁー?」

 松岡くんの口から冷気になって言葉が落ちていく。

「だいたい、もう用はないでしょう?」

「だってお兄さんのケーキ、女性陣に受けがいいから差し入れに頼みたいからさ……」

 いや、いじけても可愛くないです、横井さん。

「はぁっ。
いいですよ、上得意ですし」

「やったー」

 なんだろね、この人たちは?
 ちなみに横井さんはやっぱり、松岡くんに懐柔されていたらしい。

 ――美味しいケーキとお弁当で。

 うん、あの料理に負けるのは仕方ない。


 こうしていい雰囲気になるたびに邪魔が入り続け、――退院の日になった。
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