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社畜の誕生日
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目が覚めたら真っ暗な空間にいた。
目を開けても暗くてなにも見えない。
さらに手足を伸ばそうとしても、ゴムのような膜に阻まれてできなかった。
しかし、生温かくて心地よく、懐かしい感じがする。
妙な浮遊感は揺り籠にでも寝ているようだ。
おかげでつい、うとうととしていた。
……ずっと、こうしていたい。
朝早くから夜遅くまで働き詰め、怒鳴られひたすら頭を下げる毎日に俺は疲れ果てていた。
このままいつまでもここで眠っていたい。
しかし俺の気持ちいい微睡みを遮るように突然、騒がしい音がし出す。
目が覚め、不安に怯えていたら、急に強く引っ張られた。
まだここにいたい、ここから出たくない。
必死に手を伸ばすがつるり、つるりと滑るばかりでなにも掴めない。
抵抗虚しく俺は、居心地の居場所から無理やり引きずり出された。
いきなり、眩しい光に包まれ、目を細める。
文句を言おうと口を開いたら空気が勢いよく入ってきて、激しく咽せた。
「元気な社畜ですよー」
女性の声がして俺を抱き上げる。
「でかした、これで使い捨てのコマが増えた」
年配男性の太い声が響き、身体が震える。
「従順な社畜になりますように」
俺に微笑みかける女性の瞳は、無機質だった。
あれから俺は毎日、スーツを着てネクタイを締め、限界を超えて人を詰め込んだ電車に揺られ、会社に通っている。
「おはようございます」
「君!
昨日、仕事が終わってないのに帰ったな!」
出社した途端、上司の怒号が飛ぶ。
「帰ったというか……。
着替えに一度、家に戻っただけですが」
「言い訳をするな!
君のように、役に立たない社畜は処分だよ、処分!」
唾を飛ばして上司が怒鳴り、処分も悪くないと思っている自分がいる。
「わかりました、処分場へ向かいます」
「おい、君、待ちたまえ!
おい!」
まだなにか言っている上司を無視して会社を出た。
これから処分場へ向かうというのに足取りは軽い。
「すみません、処分お願いします」
「では、許可書類をお願いします」
「え?」
戸惑う俺に、窓口の人間が怪訝そうな視線を向ける。
「上司から処分許可申請書、もらってこなかったの?
申請書がないと社畜は処分できないよ」
申請書が必要なんて知らなかった。
しかし会社に戻ったところで、上司が申請書を出してくれるかは怪しい。
「ないならもらってきて」
追い払うように彼が手を振る。
俺の後ろには幾人かの列ができていた。
「はぁーっ……」
ため息をついて処分場を出たものの、行く当てはない。
もう俺には野良社畜の道しか残されていなかった。
社畜にはかろうじて人権があるが、野良社畜は迫害され、生きさらばえるしかない。
「戻りたい」
暗く生温かく、なんの不安もなかったあの場所へ。
あそこで永遠、眠っていたい。
無理やり出されたのなら、また入ればいい。
俺はたまたま通りかかった女性の肩を掴んだ。
【終】
目を開けても暗くてなにも見えない。
さらに手足を伸ばそうとしても、ゴムのような膜に阻まれてできなかった。
しかし、生温かくて心地よく、懐かしい感じがする。
妙な浮遊感は揺り籠にでも寝ているようだ。
おかげでつい、うとうととしていた。
……ずっと、こうしていたい。
朝早くから夜遅くまで働き詰め、怒鳴られひたすら頭を下げる毎日に俺は疲れ果てていた。
このままいつまでもここで眠っていたい。
しかし俺の気持ちいい微睡みを遮るように突然、騒がしい音がし出す。
目が覚め、不安に怯えていたら、急に強く引っ張られた。
まだここにいたい、ここから出たくない。
必死に手を伸ばすがつるり、つるりと滑るばかりでなにも掴めない。
抵抗虚しく俺は、居心地の居場所から無理やり引きずり出された。
いきなり、眩しい光に包まれ、目を細める。
文句を言おうと口を開いたら空気が勢いよく入ってきて、激しく咽せた。
「元気な社畜ですよー」
女性の声がして俺を抱き上げる。
「でかした、これで使い捨てのコマが増えた」
年配男性の太い声が響き、身体が震える。
「従順な社畜になりますように」
俺に微笑みかける女性の瞳は、無機質だった。
あれから俺は毎日、スーツを着てネクタイを締め、限界を超えて人を詰め込んだ電車に揺られ、会社に通っている。
「おはようございます」
「君!
昨日、仕事が終わってないのに帰ったな!」
出社した途端、上司の怒号が飛ぶ。
「帰ったというか……。
着替えに一度、家に戻っただけですが」
「言い訳をするな!
君のように、役に立たない社畜は処分だよ、処分!」
唾を飛ばして上司が怒鳴り、処分も悪くないと思っている自分がいる。
「わかりました、処分場へ向かいます」
「おい、君、待ちたまえ!
おい!」
まだなにか言っている上司を無視して会社を出た。
これから処分場へ向かうというのに足取りは軽い。
「すみません、処分お願いします」
「では、許可書類をお願いします」
「え?」
戸惑う俺に、窓口の人間が怪訝そうな視線を向ける。
「上司から処分許可申請書、もらってこなかったの?
申請書がないと社畜は処分できないよ」
申請書が必要なんて知らなかった。
しかし会社に戻ったところで、上司が申請書を出してくれるかは怪しい。
「ないならもらってきて」
追い払うように彼が手を振る。
俺の後ろには幾人かの列ができていた。
「はぁーっ……」
ため息をついて処分場を出たものの、行く当てはない。
もう俺には野良社畜の道しか残されていなかった。
社畜にはかろうじて人権があるが、野良社畜は迫害され、生きさらばえるしかない。
「戻りたい」
暗く生温かく、なんの不安もなかったあの場所へ。
あそこで永遠、眠っていたい。
無理やり出されたのなら、また入ればいい。
俺はたまたま通りかかった女性の肩を掴んだ。
【終】
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