孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 三千万の借金

1-1

仕事が終わり、住んでいるマンションに帰るとふたりの知らない男が待っていた。

「……えっと。
どちら様でしょうか」

鍵は……恋人で同居人がよくかけずに出掛けるので、開いていたのかもしれない。
それでも不法侵入には違いなく、さらに土足でリビングのローテーブルに座っているとなれば、完全に不審者だ。
身の危険を感じ、後ろ手で今閉めたばかりの、ドアのノブを掴む。

「まーまー、そう警戒しなさんなって」

ふたりのうち父親ほどの年に見えるほうがにっこりと私に微笑みかける。
それは完璧に胡散臭かった。
私よりも少し若そうなほうがこちらへ向かってきて、私の腕を掴む。

「えっ、離して!」

抵抗したものの、ずるずると部屋の中へと引きずり込まれていく。
最後には年配の男の前へ転がすように放り出された。

三島みしま高志たかしさん。
知ってますよね」

抗議の目で黙って男を睨み上げる。
知っているもなにも、高志は私の恋人だ。
男が煙草を咥え、若いほうがすかさず火をつけた。

「彼が私どもから借りたお金を返さないまま、いなくなりましてね」

困っているんだといわんばかりに男が煙草の煙を吐き出す。
それは酷く、芝居がかっていた。
けれどこれで、だいたいの事情は飲み込めた。
高志が借りた金を私に返せ、というのだろう。
そして彼らはきっとまともな金融業者では、ない。
第二ボタンまで外された、年配の男のシャツからは下品なゴールドのチェーンが覗いている。
若いほうは白シャツに黒パンツと清潔感に溢れているのが意外なくらいだ。

「一千万……だったか?」

尋ねられて若いほうが首を振り、年配の男へ耳打ちする。

「すみません、三千万でした。
借りた金は一千万だったんですけどね、利子が付きまして。
三千万になってました」

おかしそうに男は身体をゆすって笑っているが、まったく笑い事ではない。
それでもそのお金には心当たりがあった。
きっと高志が店を開くのに資金が必要だが無職のオレでは借りられないからと頼まれて、保証人になったやつだ。
しっかり書類を確かめず、高志の頼みなら仕方ないとサインした自分が悔やまれる。

「耳を揃えて今すぐ……と言いたいところですが、さすがに無理ですよね。
一週間。
一週間待ちますから、そのあいだにお金を用意してください」

見下すように男が、右の口端をにぃーっとつり上げる。

「……用意できなかったらどうなるんですか」

一週間で三千万なんて大金、準備できるはずがない。
そもそもそんなお金があれば高志に貸していただろうし、こんな事態にはなっていなかった。

「そうですね……。
まあ、身体で払ってもらいましょうかね」

いやらしく男がふたり揃ってニヤニヤと笑う。

「おやっさん。
こんな地味女、買うような男はいやしませんよ」

私を一瞥した若い男は、完全に私をバカにしていた。
それにカッと頬が熱くなったが返す言葉はなにもない。
長い黒髪をひっつめひとつ結び、なんの変哲もない黒スーツに身を包み、化粧っ気もなくお堅い黒縁眼鏡をかけた私は会社でもお局様と呼ばれていた。
まあ、それは半ば愛称のようなものだったので、そこまで気にしていなかったが。
それでもバカにされるのは腹が立つ。

「NG行為なしならいけるんじゃないか?
それとも手っ取り早く、腎臓売るか」

「金持ちの変態に売って、オレらがもうけるって手もありますよ」

「ありだな、それ。
迷惑料ももらわなきゃいけないし」

本人を前にして男たちは最低な相談をしている。
それに反吐が出たが、なにか反論したら一週間後どころか速攻売られそうで口を噤んだ。

「そんな具合で一週間後、またお邪魔します」

男は吸い終わった煙草を床に落とし、靴で踏み消した。

「よろしくお願いしますよ」

態度だけは慇懃に、男たちは帰っていった。

「……はぁーっ」

ひとりになり大きなため息が漏れる。
お気に入りのラグは煙草の火で焦げ、黒い汚れになっていた。
床まで焦げていないか、祈りたい。

「どうしよう……」

一週間で三千万も準備できる当てはない。
親類縁者から掻き集めればなんとかなるかもしれないが、迷惑はかけたくなった。
それでなくても親は自営業で、昨今の物価高や増税で喘いでいる。

とりあえず、高志に電話するが使われていない旨のアナウンスが流れた。
融資の書類にサインしたのが半月ほど前。
先程の男はいなくなったと言っていたし、最初からそのつもりだったのだろう。

「自業自得、……だよね」

はははと乾いた笑いが私の口から落ちていく。
だいたいこんな地味女、相手にするような男がいるわけがない。
いるとしたら身体目的か金目的かだ。
高志はその両方だったってわけだ。
なのに、慣れない甘い言葉を囁かれ、冷静さを失っていた自分が嫌になる。

「とりあえず、なんか割のいいバイト……」

床にぺたんと座り込み、バッグから携帯を出して掴む。
【高収入短期間】などと検索窓に打ち込んだ。

「……はぁーっ」

結果を見てまた、ため息が漏れる。
まともな職ばかりオススメされ、高時給も一五〇〇円。
一週間で三千万には圧倒的に足りない。
身体を売る気はさらさらないが、今度はそれでも夜職で検索をかけてみる。

「一ヶ月で一千万……」

キャバクラで人気なら月に一千万オーバーも夢じゃない、なんて見てまたため息が漏れる。
それでもまだ足りない。
それに地味な私が一千万も稼げるなんて思えなかった。

「うん……まあ……」

しかし三千万は無理でも、一週間後にそれなりにまとまったお金を返せれば、男たちはさらに猶予をくれるんじゃないかという期待が持ち上がってくる。
それにやっぱりキャバ嬢がダメなら身体でお金を稼ぐしかないんだろうし、ならダメ元でやってみようと、体験入店を申し込んでみた。

「なんとかなりますように……!」

なんとなく、神様に祈ってみる。
ただ、問題は我が社は基本、副業禁止なので、バレたときだ。

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