孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第二章 可哀想だと自覚した

2-2

洗面所で顔を洗い、手早く簡単に身支度を済ませる。
携帯とバッグを掴み、玄関のドアノブを掴もうとしたところで外側から開いた。

「うわっ!?」

おかげで相手とぶつかりそうになり、急ブレーキをかける。

「出迎えに出てくれた……わけじゃないよな」

私を見てドアを開けた人物――海星本部長は小さく笑った。

「あの、えっと。
……すみません!」

なにも説明できず、彼を押し退けて出ようとした、が。

「準備ができてるのならちょうどいい。
出掛けるぞ」

私の手を掴み、海星本部長は部屋にも入らずUターンする。

「あの、その、私、ちょっと用事が……!」

エレベーターの中、私の手を離さない彼を焦り気味に見上げた。

「知ってる」

「知ってるなら離していただけないでしょうか」

エレベーターは一階を通り過ぎ、地下階で止まった。
ドアが開き、私の手を引っ張って彼はどんどん歩いていく。
そこは駐車場らしく、高級車がずらりと並んでいる。
そのうち、一台のセダンの前で彼は足を止めた。

「乗れ」

助手席を空け、海星本部長が私を押し込む。

「えっ、ちょっと!」

さらには身体を密着させてシートベルトまで締められた。

「降りたらお仕置きだからな」

「ひっ」

耳もとで囁き、さらには息を吹きかけて彼が離れる。
おかげで小さく悲鳴を漏らし、大人しくした。

運転席に回って海星本部長も車に乗り込む。

「俺の想定外だったら困るから一応聞いておくが。
両親が危篤とかじゃないよな?」

「違いますが……?」

想定外とはなにか海星本部長には思い当たる節でもあるんだろうか。

「じゃあ、それは俺の用事だから大丈夫だ」

「ハイ……?」

シートベルトを締めて彼が車を出す。
なにがなんだか状況がまったく理解できない。

「その。
……俺の用事、とは?」

「着いてのお楽しみ……とか言いたいけど。
困るよな」

おかしそうに小さく海星本部長は笑っているが、私は首がもげるほど頷いていた。

「昨日、花音が眠ったあとに各方面に手を打って、花音の元カレ……というのも腹立たしいが、その高志とやらを探し出した」

彼は事もなげに言っているが、いろいろおかしい。
私は借金を背負わされた話くらいしかしていないのだ。

「ああ。
悪いけど携帯の中を見させてもらった。
すまんな」

よっぽど私が間抜けな顔をしていたからか説明してくれるのはいい、いいけれど。

「個人情報……!」

「だからすまんと謝ってるじゃないか」

海星本部長はこれで許せといわんばかりだが、そんな軽く謝って済む問題ではない。

「いろいろアウト、アウトですよ……!」

さらに噛みついたところで我に返った。
しまった、言い過ぎた。
いつもこれで高志から逆ギレされていたのに。

「わかってる。
今回は必要だからやったが、もう二度としない。
なんだったら弁護士に頼んで、誓約書を作ってもいい」

けれど彼は真摯に謝ってきて驚いた。

「あ、いえ。
誓約書は行き過ぎなので……」

この人が高志と違ういい人なのか、これが普通なのか私には判断がつかない。
なにしろ二十八年生きてきて、高志しか付き合った人間がいないのだ。

「そうか?
じゃあ、お詫びになにか買ってやろう。
なにが欲しい?
携帯を買い替えるか。
いっそ新規契約にして、元カレの知らない番号にしてしまうか」

海星本部長はごく普通の顔をしていたが、どうしてか背筋がぞくっとした。

「海星、本部長……?
もしかして、怒ってます……?」

そんな気がして、おそるおそる彼の顔をうかがった。

「怒る?
俺が?
どこにそんな原因があるんだ?」

さも意外だったようで、眼鏡の奥で彼が何度か瞬きをする。

「あ、いえ。
なんでも、ない、……です」

無意識、だったんだろうか、でもさっきの彼は確かに怒っていた。
ううん、怒っているというよりも……嫉妬、しているような。
でも誰に?
高志に?
けれどそんな理由が私にはわからない。

「それで。
高志を探し出してどうする気なんですか」

話が脱線したので、元に戻す。

「反対に聞くが。
花音は自分をこんな目に遭わせたアイツを許せるのか?」

「それは……」

許せるか許せないかといえば、許せない。
でも、借金は書類をよく確かめずに高志に言われるがままにサインをした私が悪かったと思うし、そもそも言われなれない甘い言葉で囁かれて舞い上がり、彼と付き合ったのから間違いだった。
なので全面的に高志を責める気はない。

「わるい。
そこが花音の可愛いところだもんな」

私が黙っているからか海星本部長が詫びてくる。

「今だってアイツに助けを求められて、放っておけなくて行くつもりだったんだろ?」

「……はい」

ちらりと彼の視線がこちらを向く。
海星本部長はなにもかもお見通しなんだ。

「そういう花音だから俺は、助けたいって思うんだよな」

「え?」

なにを言われているのかわからなくて、彼の横顔を見上げる。

「とにかく。
俺は花音をこんな目に遭わせたアイツをそれ以上の酷い目に遭わせないと気が済まない。
と、いうわけだ」

「はぁ……」

楽しそうに海星本部長は笑っているが、やはり彼がなにをしたいのかさっぱりわからない。
ただ、高志の話が本当だとすれば、彼が言っていた弁護士とやらは海星本部長が雇ったんだろうというのだけは見当がついた。
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