17 / 59
第二章 可哀想だと自覚した
2-7
ソファーに座っているように言われたので、おとなしく座る。
アイボリーの革製ソファーはフローリングの上に直接置かれていた。
その前にはダークブラウンの木製ローテーブルがあり、正面の壁には大型のテレビが掛かっている。
リビングにある家具はそれだけだった。
「どうかしたのか」
よっぽど私が変な顔をしていたのか、怪訝そうに海星本部長が隣に座る。
テーブルに置かれたふたつのカップからはコーヒーのいい匂いがしていた。
「あー、えっと」
なんと答えていいのか困る。
ミニマル主義なんですか?
なんて聞いてもいいんだろうか。
「いえ、なんでもないです」
結局、なにも聞けなくて曖昧に笑って済ませる。
どうしてか、インテリアについては聞いてはいけない気がした。
「なら、いいが」
彼がカップを口に運ぶので、私も口をつけた。
ふくよかな香りが私を包み、リラックスさせる。
コーヒーを飲みながら鍵の設定をした。
これからここに住むのに、鍵がないと不便だもんね。
「その」
鍵の設定が終わり、携帯を置いて居住まいを正した。
「私の借金を肩代わりしていただき、ありがとうございました」
誠心誠意、心を込めて頭を下げる。
今日、砺波さんが準備していた書類の中には、私の借金を海星本部長が請け負う内容のものもあった。
弁護士さんの作ったものだから、サインすれば法的拘束力が発生する。
けれど海星本部長は迷わずにそれに、サインした。
「よせよ。
俺はその代わり、俺の子を産めとか滅茶苦茶な条件を出してるんだからさ」
自嘲するように小さく肩を竦め、彼はコーヒーをひとくち飲んだ。
「それだけじゃありません。
高志のことも」
借金を私に押しつけていなくなり、それで終わりだと思っていた。
しかし海星本部長は彼を探しだし、形だけではあったけれど謝罪させてくれた。
それに警察に連れていかれる彼を見て、溜飲が下がらなかったかといえば嘘になる。
「それこそあれは、俺がアイツを酷い目に遭わせたかったからやっただけだ」
「海星本部長が、ですか?」
しかし、彼が高志にそこまでの恨みを抱く理由がわからない。
「昨日、花音は『気持ちいいのが嬉しい』と泣いていただろ?
抱かれるのは苦痛だとも言っていたし、あれを見て今までどれだけ花音はつらい思いをしたんだろうと悲しくなった」
隣りあう彼の手が私の手に重なる。
「借金だってそうだ。
三千万なんて大金、背負わせて捨てるなんて花音に惨いことをするヤツは、絶対に許せなかったんだ」
ぎゅっと私の手を握る海星本部長の手に力が入る。
痛かったがそれだけ彼が怒っているのだとわかって、嬉しかった。
「だからあれは、俺が俺のためにやったことだ。
花音が礼を言う必要はない」
こちらを向いた彼が眼鏡越しに私と目をあわせる。
その目はとても優しげに見えた。
「でも……」
「いいんだ。
それに」
腕が伸びてきて、私を抱き締める。
「花音は今まで、いっぱいつらい思いをしたんだ。
これからは俺が目一杯、花音を愛して甘やかせる。
これまでの分、いや、これまでの分以上に幸せにする」
誓うようにぐっと海星本部長の腕に力が入った。
そうか、今まで私はずっと、つらかったんだ。
でも、そんな思考すら許されなかった。
可哀想な自分に私自身、気づけなかった。
けれど海星本部長は私が知らなかった可哀想な私を見つけて、こうやって抱き締めてくれるんだ。
認めると同時に涙が頬を転がり落ちていく。
「うっ、ううっ。
うわーっ……」
泣きじゃくる私の髪を、撫でる海星本部長の手は優しい。
おかげでますます涙が出てきた。
「落ち着いたか?」
「……はい」
海星本部長が私の汚れた眼鏡を外し、唇でまだ残る涙を拭う。
「なんか、すみません」
こんなに泣いたのはいつぶりだろう?
おかげで気持ちはこれ以上ないほどすっきりしていた。
「いや、いい。
これからは俺と幸せになろうな」
ちゅっと軽く唇が重なる。
海星本部長は優しい。
私なんて社長になるための道具に過ぎないはずなのに、こんなに気遣って幸せにしてくれるという。
せめて私が早く身籠もって、望みどおり彼を社長にしよう。
そう、誓った。
アイボリーの革製ソファーはフローリングの上に直接置かれていた。
その前にはダークブラウンの木製ローテーブルがあり、正面の壁には大型のテレビが掛かっている。
リビングにある家具はそれだけだった。
「どうかしたのか」
よっぽど私が変な顔をしていたのか、怪訝そうに海星本部長が隣に座る。
テーブルに置かれたふたつのカップからはコーヒーのいい匂いがしていた。
「あー、えっと」
なんと答えていいのか困る。
ミニマル主義なんですか?
なんて聞いてもいいんだろうか。
「いえ、なんでもないです」
結局、なにも聞けなくて曖昧に笑って済ませる。
どうしてか、インテリアについては聞いてはいけない気がした。
「なら、いいが」
彼がカップを口に運ぶので、私も口をつけた。
ふくよかな香りが私を包み、リラックスさせる。
コーヒーを飲みながら鍵の設定をした。
これからここに住むのに、鍵がないと不便だもんね。
「その」
鍵の設定が終わり、携帯を置いて居住まいを正した。
「私の借金を肩代わりしていただき、ありがとうございました」
誠心誠意、心を込めて頭を下げる。
今日、砺波さんが準備していた書類の中には、私の借金を海星本部長が請け負う内容のものもあった。
弁護士さんの作ったものだから、サインすれば法的拘束力が発生する。
けれど海星本部長は迷わずにそれに、サインした。
「よせよ。
俺はその代わり、俺の子を産めとか滅茶苦茶な条件を出してるんだからさ」
自嘲するように小さく肩を竦め、彼はコーヒーをひとくち飲んだ。
「それだけじゃありません。
高志のことも」
借金を私に押しつけていなくなり、それで終わりだと思っていた。
しかし海星本部長は彼を探しだし、形だけではあったけれど謝罪させてくれた。
それに警察に連れていかれる彼を見て、溜飲が下がらなかったかといえば嘘になる。
「それこそあれは、俺がアイツを酷い目に遭わせたかったからやっただけだ」
「海星本部長が、ですか?」
しかし、彼が高志にそこまでの恨みを抱く理由がわからない。
「昨日、花音は『気持ちいいのが嬉しい』と泣いていただろ?
抱かれるのは苦痛だとも言っていたし、あれを見て今までどれだけ花音はつらい思いをしたんだろうと悲しくなった」
隣りあう彼の手が私の手に重なる。
「借金だってそうだ。
三千万なんて大金、背負わせて捨てるなんて花音に惨いことをするヤツは、絶対に許せなかったんだ」
ぎゅっと私の手を握る海星本部長の手に力が入る。
痛かったがそれだけ彼が怒っているのだとわかって、嬉しかった。
「だからあれは、俺が俺のためにやったことだ。
花音が礼を言う必要はない」
こちらを向いた彼が眼鏡越しに私と目をあわせる。
その目はとても優しげに見えた。
「でも……」
「いいんだ。
それに」
腕が伸びてきて、私を抱き締める。
「花音は今まで、いっぱいつらい思いをしたんだ。
これからは俺が目一杯、花音を愛して甘やかせる。
これまでの分、いや、これまでの分以上に幸せにする」
誓うようにぐっと海星本部長の腕に力が入った。
そうか、今まで私はずっと、つらかったんだ。
でも、そんな思考すら許されなかった。
可哀想な自分に私自身、気づけなかった。
けれど海星本部長は私が知らなかった可哀想な私を見つけて、こうやって抱き締めてくれるんだ。
認めると同時に涙が頬を転がり落ちていく。
「うっ、ううっ。
うわーっ……」
泣きじゃくる私の髪を、撫でる海星本部長の手は優しい。
おかげでますます涙が出てきた。
「落ち着いたか?」
「……はい」
海星本部長が私の汚れた眼鏡を外し、唇でまだ残る涙を拭う。
「なんか、すみません」
こんなに泣いたのはいつぶりだろう?
おかげで気持ちはこれ以上ないほどすっきりしていた。
「いや、いい。
これからは俺と幸せになろうな」
ちゅっと軽く唇が重なる。
海星本部長は優しい。
私なんて社長になるための道具に過ぎないはずなのに、こんなに気遣って幸せにしてくれるという。
せめて私が早く身籠もって、望みどおり彼を社長にしよう。
そう、誓った。
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始