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第三章 運命を変えたい
3-3
「花音の借金三千万、話をつけてきた」
美味しい鰻を堪能していたら唐突に言われ、箸が止まる。
「それは……すみませんでした」
交換条件だったとはいえ、やはり三千万なんて大金を払わせるのは気が引ける。
「いや?
結局、一銭も払わずに済んだしな」
なんでもない顔で海星本部長は大口を開けて鰻ごとご飯を頬張ったが、それって?
「あのー」
「ん?」
どうかしたのかとでもいわんばかりに彼は首を少し傾げたが、説明が欲しいです!
「ああ。
借用書は確かに、花音が借りたことになっていた。
でもな」
箸を置き、やっと彼が事情を話してくれる。
「違法貸金業者……いわゆる闇金だったからな。
金を借りても返す義務がないんだ。
憲司を連れていってきっちり話をつけてきたし、ついでに知り合いの警察官にも通報しといたし」
再び箸を取り、海星本部長はご飯に鰻をのせて口に運んだ。
それにしても弁護士の友人はまだわかるが、懇意にしている探偵に知り合いの警察官って、この人の交友関係ってどうなっているんだろう?
「そんなわけで俺は一銭も払わずに済んだ、というわけだ」
「そうですか……」
海星本部長からすれば三千万なんてたいした金額じゃないのかもしれないが、それでも私のために大金を払わせるのは心苦しかった。
それを払わずに済んだのなら、よかった。
……ん?
「……ちょっと待ってください」
「ん?」
声をかけられ、箸を止めて海星本部長は顔を上げた。
「それって私は海星本部長の子供を身籠もる必要はないということでは……?」
それと引き換えに三千万を払ってもらう契約をしたのだ。
しかし払わずに済んだのなら、この契約は反故になるはず。
「なんだ、花音は俺の子を産むのが嫌か」
みるみる彼が不機嫌になっていく。
それを見て自分の失言に気づき、怒鳴られるのかと怯えた。
「えっ、あっ、そんなことは……」
言葉を濁し、きょときょとと落ち着きなく当たりに視線を彷徨わせる。
そんな私を見て海星本部長はあきらかにしまったといった顔をした。
「……わるい」
箸を置いた彼が、申し訳なさそうに背中を丸める。
「別に怒っているわけじゃない。
怯えさせて悪かった」
なぜか真摯に彼が詫びてきて意味がわからない。
「もう少し、気をつけるようにする」
そこまで言われてようやく、海星本部長が私を気遣ってくれているのに気づいた。
「あの、その、……大丈夫、なので」
「ダメだよな。
わかってるのに、つい」
お茶をひとくち飲み、彼が呆れるようにため息をつく。
「本当に悪かった!」
勢いよく彼が頭を下げ、面食らった。
「そうだ、お詫びになんか買ってやろう。
なにがいい?
靴か、バッグか。
ネックレスもいいよな」
なんだか海星本部長はひとりで真剣に悩んでいるけれど。
「お詫びとかいいので。
ほんとに」
これくらいでお詫びになにか買ってくれるとか行き過ぎだ。
それに普通の人ならなんでもない話だったのだ。
ただ、私がまだ高志の呪縛から逃れられず、過剰に反応してしまうだけで。
「そうか?
でも、やっぱりなにか買ってやりたいから、考えておいてくれ」
「はぁ……」
どうしてそこまで彼がしたいのかわからないが、これ以上断るのもなんか悪いのでこの話はここまでにしておこう。
「それでさっきの話だがな」
逸れた話を海星本部長が元に戻す。
「はい」
彼の子を産みたくないのかといわれれば、気持ちは産みたいほうへと傾いていた。
とはいえ恋愛感情からではなく、感謝の気持ちからだが。
「俺は花音の借金を肩代わりする代わりに、花音に俺の子を産んでもらう契約をしたわけだが」
「はい」
だからこそ、借金を返済せずに済んだのなら、この契約は成立しないのでは?
「昨日、花音の借金を俺が引き受ける手続きを憲司にしてもらったよな」
「そう……ですね」
海星本部長はいったい、なにが言いたいのだろう。
とりあえず、最後まで話を聞くしかない。
「花音の借金が俺のものになった昨日の時点で、条件は満たしている」
「そ、それは……」
彼はドヤ顔だが、それは詭弁じゃないですかね……?
でも確かに、海星本部長に借金の肩代わりはしてもらっている。
じゃあ、やっぱり契約成立なのか?
「憲司にも俺が俺の借金をどうしようと、俺たちが結んだ契約に影響はないのは確認済みだ。
なんなら今からアイツを呼んで、説明してもらうか?」
にやりと片頬を歪めて意地悪く笑い、わざとらしく彼が携帯を手に取る。
「……いえ。
けっこうです」
「そうか」
さも残念そうに彼は携帯をしまったのはいいが、さっきから完全に弄ばれている。
昨日も思ったけれど、頭が切れてさらにお金を持っている人って、敵に回すと恐ろしい……。
美味しい鰻を堪能していたら唐突に言われ、箸が止まる。
「それは……すみませんでした」
交換条件だったとはいえ、やはり三千万なんて大金を払わせるのは気が引ける。
「いや?
結局、一銭も払わずに済んだしな」
なんでもない顔で海星本部長は大口を開けて鰻ごとご飯を頬張ったが、それって?
「あのー」
「ん?」
どうかしたのかとでもいわんばかりに彼は首を少し傾げたが、説明が欲しいです!
「ああ。
借用書は確かに、花音が借りたことになっていた。
でもな」
箸を置き、やっと彼が事情を話してくれる。
「違法貸金業者……いわゆる闇金だったからな。
金を借りても返す義務がないんだ。
憲司を連れていってきっちり話をつけてきたし、ついでに知り合いの警察官にも通報しといたし」
再び箸を取り、海星本部長はご飯に鰻をのせて口に運んだ。
それにしても弁護士の友人はまだわかるが、懇意にしている探偵に知り合いの警察官って、この人の交友関係ってどうなっているんだろう?
「そんなわけで俺は一銭も払わずに済んだ、というわけだ」
「そうですか……」
海星本部長からすれば三千万なんてたいした金額じゃないのかもしれないが、それでも私のために大金を払わせるのは心苦しかった。
それを払わずに済んだのなら、よかった。
……ん?
「……ちょっと待ってください」
「ん?」
声をかけられ、箸を止めて海星本部長は顔を上げた。
「それって私は海星本部長の子供を身籠もる必要はないということでは……?」
それと引き換えに三千万を払ってもらう契約をしたのだ。
しかし払わずに済んだのなら、この契約は反故になるはず。
「なんだ、花音は俺の子を産むのが嫌か」
みるみる彼が不機嫌になっていく。
それを見て自分の失言に気づき、怒鳴られるのかと怯えた。
「えっ、あっ、そんなことは……」
言葉を濁し、きょときょとと落ち着きなく当たりに視線を彷徨わせる。
そんな私を見て海星本部長はあきらかにしまったといった顔をした。
「……わるい」
箸を置いた彼が、申し訳なさそうに背中を丸める。
「別に怒っているわけじゃない。
怯えさせて悪かった」
なぜか真摯に彼が詫びてきて意味がわからない。
「もう少し、気をつけるようにする」
そこまで言われてようやく、海星本部長が私を気遣ってくれているのに気づいた。
「あの、その、……大丈夫、なので」
「ダメだよな。
わかってるのに、つい」
お茶をひとくち飲み、彼が呆れるようにため息をつく。
「本当に悪かった!」
勢いよく彼が頭を下げ、面食らった。
「そうだ、お詫びになんか買ってやろう。
なにがいい?
靴か、バッグか。
ネックレスもいいよな」
なんだか海星本部長はひとりで真剣に悩んでいるけれど。
「お詫びとかいいので。
ほんとに」
これくらいでお詫びになにか買ってくれるとか行き過ぎだ。
それに普通の人ならなんでもない話だったのだ。
ただ、私がまだ高志の呪縛から逃れられず、過剰に反応してしまうだけで。
「そうか?
でも、やっぱりなにか買ってやりたいから、考えておいてくれ」
「はぁ……」
どうしてそこまで彼がしたいのかわからないが、これ以上断るのもなんか悪いのでこの話はここまでにしておこう。
「それでさっきの話だがな」
逸れた話を海星本部長が元に戻す。
「はい」
彼の子を産みたくないのかといわれれば、気持ちは産みたいほうへと傾いていた。
とはいえ恋愛感情からではなく、感謝の気持ちからだが。
「俺は花音の借金を肩代わりする代わりに、花音に俺の子を産んでもらう契約をしたわけだが」
「はい」
だからこそ、借金を返済せずに済んだのなら、この契約は成立しないのでは?
「昨日、花音の借金を俺が引き受ける手続きを憲司にしてもらったよな」
「そう……ですね」
海星本部長はいったい、なにが言いたいのだろう。
とりあえず、最後まで話を聞くしかない。
「花音の借金が俺のものになった昨日の時点で、条件は満たしている」
「そ、それは……」
彼はドヤ顔だが、それは詭弁じゃないですかね……?
でも確かに、海星本部長に借金の肩代わりはしてもらっている。
じゃあ、やっぱり契約成立なのか?
「憲司にも俺が俺の借金をどうしようと、俺たちが結んだ契約に影響はないのは確認済みだ。
なんなら今からアイツを呼んで、説明してもらうか?」
にやりと片頬を歪めて意地悪く笑い、わざとらしく彼が携帯を手に取る。
「……いえ。
けっこうです」
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