天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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横恋慕 2

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 アルトマン邸の門の前にローズブレイド家の馬車が停まる。客車から降りてきた三人の美しさにアルトマン家の門番は目を奪われた。カイとシエルが男から見てもカッコいいのは何度も見たことがあるので知っていたが、彼らが初めて女性を連れてきた。発光しているのではないかと思うほどのまばゆい美女を。
 露出は控えめの、マーメイドラインのエレガントな赤いドレスを着た女性は、ハイヒールが慣れないのか馬車を降りて一歩目でふらつく。それを両サイドからカイとシエルが支えた。彼女の照れ笑いが愛らしいかった。釣られてふたりも微笑む。あまりの眼福な光景にアルトマン家の門番は客人を迎えるという仕事を忘れそうになっていた。
 夜会はシエルの言っていた通り、気安い立食パーティーだった。参加者たちは正装はしているが、身分はバラバラの魔物討伐を生業とする人たちだ。時々見かける女性陣はすれ違う前からカイとシエルに見惚れている。
「相変わらずの色男ぶりですな」
 カイとシエルは口ひげを蓄えた恰幅のよい男性に声をかけられた。隣にはカイやシエルと同じ年頃の大柄の男性がいる。顔が似ているので親子だろうかとゼリンダは思った。
「とんでもない」
 シエルの笑顔が営業スマイルだ。仲良しではないとゼリンダは把握した。
 親子の視線はゼリンダに向く。カイはさりげなく一歩前へ出て、不躾な好奇心からゼリンダをかばった。
「妹はお前たちのどっちかと結婚したいって言ってるんだけどな。特にシエル」
 若い男がにやにやと品のない笑みを浮かべてカイとシエルの顔を見る。
「申し訳ないけれど、他を当たって」
 シエルはにっこりと張り付いた笑みを浮かべたまま、カイと共にゼリンダを連れて彼らを通り過ぎた。これはちょっとした因縁がありそうだとゼリンダはドキドキする。
「俺たちの同級生なんだ。隣にいた父親がフリーの魔物討伐者を集めて会社みたいに運営してる。学生時代はカイと組みたかったみたいだから俺のことは嫌いだと思う」
 なるほど、とゼリンダはうなずいた。
「同級生……?」
 シエルの同級生ということは、カイの同級生でもある。しかしカイが首を傾げるのでシエルは苦笑いを浮かべた。
「マキシム・ケラーだよ。覚えてないのか?」
「知らない」
 カイはほとんど同級生を覚えていないらしい。サシャのことも忘れていた。全く悪びれる様子もない。
「不必要なことに脳のリソースは割かない」
「威張って言うことじゃない」
 気取らない普段通りのカイとシエルに、ゼリンダはくすくす笑っている間に緊張が抜けていく。
 三人は主催者のアルトマン氏に挨拶へ向かった。上品な老紳士は笑顔で天才魔導師と眉目秀麗な魔法剣士を迎える。
「カイ様、ようこそお越しくださいました。シエルくんも来てくれてありがとう。こちらのお嬢さんは……」
「三人組になったのでご挨拶にうかがいました」
「ゼリンダ・メルランと申します」
 アルトマン氏に挨拶をするゼリンダに、四方八方から値踏みするような視線が向けられていた。女性たちは嫉妬、男性は好色の目だ。しかしほとんどの者はわきまえていた。ゼリンダに何かしようものなら、カイとシエルが黙っていない。街で三人でいる様子を見たことのある者ならなおさらわかる。
 しかし、身の程を弁えない人間は存在する。
「マキシムさん、あの美少女とお知り合いなんですか? 俺にも紹介してくださいよー」
「男はふたりとも同級生だけど、女は知らねーよ。問題起こすなよ。あっちは大貴族がバックについてるんだ」
「わかってますよー」
 新入りの痩身の小男はヘラヘラと笑って雇い主の息子に応じる。しかし蛇のような視線をゼリンダに向けて、上から下まで舐めるように観察する。
「ちょっとヤりたいって思っただけですよー」
「思っても口にすんな」
 マキシムもゼリンダに興味がないわけではなかったが、カイとシエルを敵に回す気はない。社長の息子として弁えていた。
「はーい」
 痩せた男はへらへらと笑いながら返事をしたが、横目でゼリンダを盗み見て、内心舌なめずりをしていた。
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