天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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横恋慕 1

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 ゼリンダが王都にやってきてひと月ほど経った。三人で広々眠れる大きなベッドがアジトの二階に置かれて、仲良く使用している。おかげで三人とも魔法石はピカピカだ。
 王都の華やかさにも慣れてきて、お気に入りの店もいくつかできた。出かけるときはいつもシエルかカイが付き添ってくれるので安心だ。
 ゼリンダの回復薬作りはそれなりに上達してきている。最近は人体に直接回復魔法をかける練習もしている。ノーラにはゼリンダは薬を作るより、直接回復魔法をかける方が向いているかもしれないと言われた。
 カイによるほうきに乗った移動魔法の練習も、短距離なら問題なくなっていた。王都の外れぐらいならひとりでほうきで移動できる。
 こんなに魔法が自由に使えるようになることも、王都で素敵な恋人たちと生活していることも、ひと月前のゼリンダには考えられなかった。
 テハノはあの日以降、王都に出現しておらず、カイとシエルに出ていた王都への待機の依頼は解除された。
 カイとシエルが買ってくれた素敵なドレスやかわいい下着もできあがってゼリンダの手元に届いた。普段使いの洋服たちはともかく、赤いドレスは夜会用だと言っていたが、こんな素敵なドレスを着て出かける機会なんてあるのだろうかとゼリンダは思っていた。しかし意外に早く、その機会が巡ってきた。
 ノーラの道具屋に行く直前、アジトにどこかの使用人が訪ねてきて、応対したシエルに手紙を渡して帰った。
「アルトマン邸で行われる、来週の夜会の招待状だね」
 聞いた瞬間にゼリンダは行ってみたいと思ったが、招待されたのはカイとシエルだけなのではないかと思い、何も言わない。しかしシエルは夜会と聞いた途端にキラキラ輝いたゼリンダの目を見逃していなかった。
「一緒に行こうか。夜会と言っても、俺たちみたいな魔物の討伐を生業にしてるのと、依頼する立場の領主たちのお疲れ様会みたいなものだから堅苦しく考えないで。男が多くてちょっとゼリンダはつまらないかもしれないけど」
 シエルの優しさが嬉しくて、ゼリンダは彼の腰に抱きついた。
「ありがとう。楽しみ」
 へへ、と屈託のない笑顔を見せるゼリンダにつられてシエルも微笑む。あまりにもかわいいので、シエルはよしよしとゼリンダの頭を撫でた。
「俺は行かない」
 ソファで魔導書を読んでいるカイは視線も上げずにいつも通り淡々と告げる。それは困るとシエルは小さくため息をついた。いつもならシエルひとりで参加は問題ないが、今回はそうはいかない。
「カイにも来てもらわないと困る。俺が挨拶回りする間、ゼリンダがひとりになるだろう? おかしな虫が寄ってくる可能性がある」
 ゼリンダを理由にされると、カイはこれ以上ゴネにくい。ゼリンダをひとりにして、もしものことが起こっては困る。
「わかった」
「ありがとう」
 駆け寄ってきたゼリンダに後ろから抱きつかれて礼を言われ、カイは柔らかな微笑みを浮かべた。
「ヘアメイク呼ぶか」
 やると決まったら、大貴族のお坊ちゃんは徹底的だった。
 夜会当日、カイがローズブレイド家のヘアメイク担当であるリュミエールとヨハンナをアジトに呼び、三人は変身させてもらうことになった。
 シエルは二人と面識があったが、ゼリンダは当然ながら初対面だった。
「カイ様、この逸材のお嬢さんをどちらで……?」
 リュミエールとヨハンナはふたりともゼリンダの容姿に目を輝かせる。素材でこの完成度。ふたりの手にかかればどれほどの美しさに仕上げられるかと想像するだけでリュミエールとヨハンナの腕が鳴った。
「ゼリンダは俺たちのだからな」
 リュミエールとヨハンナはカイより十歳ほど年上と若手だが、ヘアメイクの腕は確かだ。どちらも前任者の弟子だったのでカイを小さな頃から知っている。
 カイは魔法のように美しくしてもらったらゼリンダがときめいてしまうのではないかと、特に男のリュミエールを警戒した。
「わかっております」
 めったに動じることのないカイがハリネズミのように周囲にトゲを見せた威嚇をする。リュミエールとヨハンナは内心ニコニコしてしまう。ふたりはカイの母からいつも、姉のシャルロッテとカイの浮いた話がなさすぎる嘆きを聞かされていた。
 正装になってリュミエールとヨハンナの手によってヘアメイクを施されたカイとシエルの麗しさに、ドレスに着替えたゼリンダは卒倒しそうになった。知っていたが、ふたりともカッコいい。
「さあ、ゼリンダさんも」
 ゼリンダがプロの手によって変身する時間がやってきた。
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