祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
15 / 145
2章

狙われた少年 7

しおりを挟む
 家を出る前、誠史郎さんに眞澄くんをドキドキさせてあげてくださいと言われた。
   それを聞いていたイズミさんがいくつかワザを伝授してくれた。

 最寄駅までイズミさんが車で送ってくれる。

    そこから眞澄くんとふたりで電車に15分ほど乗って繁華街へやって来た。
    駅の改札を出るとすぐに百貨店やファッションビルが並んでいる。少し歩くと商店街があって、大きなゲームセンターやカラオケ店が何軒もある。

「どこへ行くか……」
「ゲームセンターに行く?」

 眞澄くんはゲームが好きなのでそう提案してみた。

「良いのか?」

 私がこくりと頷くと眞澄くんは嬉しそうな笑顔になった。

 淳くんたちは誠史郎さんの車で後でこちらに来る予定になっている。念のため、居場所のわかる装置もバッグの中に入れてきた。

「……来てるかな?」

 インキュバスが姿を見せるはずもないのに、気になって後ろを振り返ってしまう。

「来てるな」

 眞澄くんは前を向いたまま、小さな声で言った。だけどすぐに無邪気な満面の笑みに変わる。

「気にしないで遊ぼうぜ」

 眞澄くんは私の歩く速度に合わせてくれている。並んで歩いているのだけれど、微妙な距離がある。

 大きなゲームセンターに到着すると、出入り口の辺りはたくさんのクレーンゲームが並んでいた。
その中のひとつにネコのぬいぐるみのキーホルダーがたくさん入っているものがあった。覗いてみるとみやびちゃんに似たぬいぐるみが取れそうな場所にある。

「眞澄くん」

 先に進もうとした眞澄くんの春物のジャケットの袖を掴む。

「あのぬいぐるみ、みやびちゃんに似てない?」
「お、似てるな。やってみるか」

 500円投入すると6回挑戦できると書いていたので、そうすることにした。すると眞澄くんが3回目で取ってくれた。

「すごーい!」

 取り出し口から眞澄くんがぬいぐるみを私の手の中に置いてくれる。
 残りの回数は私がさせてもらったけれど何も取れなかった。

「眞澄くん、上手だね」
「偶然だよ」

 はにかんだ笑顔を見せた眞澄くんに髪をくしゃっと撫でられる。

「他のも見てみるか」

 お互い笑い合って、他のゲームの設置しているところへ移動した。




 いろいろなゲームで遊んでいるうちに、正午を過ぎていた。
    昼食を食べるためにカフェへ移動したわ。カウンター席に並んで座る。

 ゲームセンターでもそうだったけれど、すれ違い様に眞澄くんに目を奪われている女の子がとても多いと気づいた。

    だけどそれに全然気がつかない眞澄くんに、私を一瞬でもドキドキする女の子だと意識してもらうことなんてできるのかしら。

 どうしたら色気が出るのかなと考えながら、アイスティーをストローで吸う。
    隣でただ座っているだけの眞澄くんの背中の方がよっぽどセクシーに思える。

「何考えてるんだ?」

 頬杖をついて眞澄くんがこちらを見る。

「どうしたら色気って出るのかなーと思ったの」
「考えて出るものじゃないな」

 身も蓋もないことを言われた。

「頑張って俺を誘惑してくれよ」

 意地悪だけど妖艶な微笑を端正な口元に湛える。余裕たっぷりだ。

 そう言えば、とイズミさんのアドバイスで思い出したことがあった。男子は上目遣いに弱い。

    座っていた椅子がくるりと動くタイプだったので90度回転させて眞澄くんへ向いてから、上目遣いで見つめてみる。すると眞澄くんに少し反応があった気がした。

 その時、注文していたナポリタンと鮭のクリームパスタが運ばれてきたので一時休戦にした。
何事もなかったように、他愛もないことを話しながらおいしくいただく。

 食べ終えてからもう一度、身体ごと眞澄くんの方を向いて上目遣いで見つめる。そして少し首を傾け、眞澄くんの手の甲に私の掌を重ねてにこっと笑いかけた。

    手に触れるのも有効だとイズミさんに教えてもらった。

「みさき……」

 眞澄くんの余裕のあった相貌が少し崩れた気がする。少し頬を赤らめて私の手を握った。

 会計を済ませて店を出ると、手を繋ぎ直してこちらを見ずに歩き出す。

「どこに行くの?」

 眞澄くんは痛いくらい強く私の手を掴んだわ。

「……ふたりきりになれるところ」

 その台詞に私の胸の中はいろいろな感情でごちゃ混ぜになった。
    だけど不思議なことに、足は眞澄くんに連れられるままに動く。

 入ったのはカラオケ店だった。さっきまでの緊張はなんだったのかと拍子抜けしてしまう。だけど安心もした。

「なあ、みさき……」

 薄暗い部屋で、眞澄くんが少し呆れたような表情でこちらを見ている。

「なんでそんなに遠いんだよ」

 テレビが正面になるソファーの真ん中あたりに眞澄くんが座っているのに、私は腕を伸ばしても届かない端っこにちょこんと鎮座してしまった。

「だって……」

 おかしな想像していた自分が恥ずかしくて、眞澄くんの顔を真っ直ぐ見られない。
   すると眞澄くんが私と身体を寄せ合う距離に移動してきた。

「違う場所想像してた?」

 肩を抱かれてそっと耳許で囁かれる。図星を指されてしまい、真っ赤になって無言で頷くしかなかった。

「ごめんな。みさきががんばってくれたからさ……。カラオケぐらいじゃないと、俺……」

 グラスの中で氷がひとりでに揺れて音を立てる。
 私の目を覗き込んでくる漆黒の瞳から目が離せない。

「ま、眞澄……くん……?」
「キスするぞ」

 両方の二の腕をがっちりと掴まれ、そうはっきり宣言されて驚いたけれど、こくこくと頷いた。
    ぎゅっと目を閉じて待っていると眞澄くんの唇が微かに前髪と額に触れる。

 インキュバスを退散させるために、何でもすると決めた。
    眞澄くんも協力してくれているのだから、ここでやっぱり怖いと逃げ出すわけにはいかないわ。

「緊張しすぎ」
「だって……。眞澄くん、お芝居上手すぎるんだもん」

「みさき、鈍すぎ」

 今度は頬に柔らかくキスをされた。

「え?」

 意味がわからなくて、反射的に目を開いて顔を上げてしまう。

「そこがかわいいトコでもあるけどさ」

 心臓がきゅっとなった気がした。優しい光が眞澄くんの漆黒の双眸で揺らめいている。

「そんなに鈍い?」
「鈍いな。まだ気がつかないなんて」

 口許に薄く微笑をひらめかせてた眞澄くんは彼の額と私の額をくっつけた。

「みさき……」

 吐息が触れる距離で、潤んだような瞳の眞澄くんに呼ばれた自分の名前は、これまで聞いたことのないほど甘い言葉だった。

   そしてなぜか眞澄くんが次は唇にキスをするような気がして、雰囲気に流されて目を閉じてしまう。眞澄くんが僅かに息を飲んだ音が聞こえた気がした。

 だけど次の瞬間に、肌の粟立つような感覚があった。
   はっとして目を開き、触れ合う寸前だった眞澄くんの唇を掌で押さえる。

 眞澄くんだけど眞澄くんではない。
    その眞澄くんは口を覆っていた方の私の手首を掴んで強引に手を剥がした。

「さすがだね」
「罠だって思わなかったの?」

「キミが誘ってくれたから乗っただけだよ。相手に彼を選んでくれたから、尚更ね」

 ぞくりとするほど危険で美しい微笑み。だけど眞澄くんはこんな笑い方をしない。

「やっぱりこの子だったからもうボクの仕事は終わったけど、せっかくだから遊んで行こうかな」
「もう終わったってどういうこと?」

 眞澄くんの中に入っただけに思えるのに、もう仕事が終わったとはどういうことなのか教えてもらいたい。

「眞澄も、そんなに抵抗しないでほしいな」

 眞澄くんの精神とインキュバスが中で主導権を争っているらしい。
   その間にバッグに忍ばせておいた魔封じのロープで眞澄くんを捕縛した。

「みさきはどうしてそんなに冷静な判断ができるのに、恋慕の情のことになると全くわからなくなるのかな?」
「え?」

「ボクが中にいるとはいえ眞澄を相手にそれだけ冷静な行動ができるのに、眞澄の想いにはまるで気がつかない。興味がないわけではなさそうなのにね」

 インキュバスの揺さぶりだとわかっているけれど、動揺してしまう。

「眞澄くんの想い……?」
「本当にわからないのかい?」

 インキュバスが入り込んだということは、一瞬でも私に触れたいと思ってくれたということはわかる。

「まあいいや。ボクがしたいコトはひとつなんだから」

 インキュバスが魔封じのロープを解こうと力を発揮する。

「みさきには、指一本触れさせない……!」

 眞澄くんがインキュバスを自分の身体から弾き出した。とてつもない精神力だ。

   外に出されたインキュバスも、一瞬何が起こったのかわからなかったみたい。そして状況を理解すると高笑いをする。

 インキュバスは以前会ったときより、かなり力を蓄えた様子が見て取れる。もう実体を持っていてもおかしくないくらいだ。

 するりとロープが解けたのと同時に、眞澄くんの身体もソファーに倒れ込んだ。意識はあるけれど、苦しそうに肩で呼吸をしている。

「眞澄くん!」

 とっさに眞澄くんとインキュバスの間に割り込んで対峙する。

「すごいよ、眞澄……!彼女がキミのことを知りたがるワケだ」

 インキュバスが目を輝かせた。

 今の眞澄くんにもうインキュバスに抗う力は残っていない。
   私は固く唇を結んでインキュバスを睨んだ。そんな私たちを見て彼は酷薄に微笑む。そして再び眞澄くんに入り込もうと動いた瞬間。

 みんなが私に貸してくれていたタリスマンと今朝イズミさんがつけてくれた髪飾りが眩い白い光を発した。

 それに包まれたインキュバスに隙ができた。

「みさき、悪い……」

 何とか身体を起こした眞澄くんは、私を背中から抱きすくめると首筋に唇を滑らせた。
   そして短く鋭い痛みがそこに走る。

「痛っ……」
「サンキュ」

 ペロリと唇の端を舐めた眞澄くんの両眼に強い光が戻った。

 次の瞬間にはインキュバスの心臓部に退魔の短刀が突き立っていた。その柄を握りしめているのは眞澄くん。

 インキュバスは力を奪われて、どんどん姿が透けていく。完全に消え去る前に短刀を自分で抜いて逃げたから、残念ながらとどめはさせなかった。

「逃がしたか……」

 眞澄くんはインキュバスの消えた空間を見て口惜しそうに歯噛みをする。

 私の首筋には、眞澄くんに噛まれて血を吸われた傷がくっきりと残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...