祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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2章

狙われた少年 7

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 家を出る前、誠史郎さんに眞澄くんをドキドキさせてあげてくださいと言われた。
   それを聞いていたイズミさんがいくつかワザを伝授してくれた。

 最寄駅までイズミさんが車で送ってくれる。

    そこから眞澄くんとふたりで電車に15分ほど乗って繁華街へやって来た。
    駅の改札を出るとすぐに百貨店やファッションビルが並んでいる。少し歩くと商店街があって、大きなゲームセンターやカラオケ店が何軒もある。

「どこへ行くか……」
「ゲームセンターに行く?」

 眞澄くんはゲームが好きなのでそう提案してみた。

「良いのか?」

 私がこくりと頷くと眞澄くんは嬉しそうな笑顔になった。

 淳くんたちは誠史郎さんの車で後でこちらに来る予定になっている。念のため、居場所のわかる装置もバッグの中に入れてきた。

「……来てるかな?」

 インキュバスが姿を見せるはずもないのに、気になって後ろを振り返ってしまう。

「来てるな」

 眞澄くんは前を向いたまま、小さな声で言った。だけどすぐに無邪気な満面の笑みに変わる。

「気にしないで遊ぼうぜ」

 眞澄くんは私の歩く速度に合わせてくれている。並んで歩いているのだけれど、微妙な距離がある。

 大きなゲームセンターに到着すると、出入り口の辺りはたくさんのクレーンゲームが並んでいた。
その中のひとつにネコのぬいぐるみのキーホルダーがたくさん入っているものがあった。覗いてみるとみやびちゃんに似たぬいぐるみが取れそうな場所にある。

「眞澄くん」

 先に進もうとした眞澄くんの春物のジャケットの袖を掴む。

「あのぬいぐるみ、みやびちゃんに似てない?」
「お、似てるな。やってみるか」

 500円投入すると6回挑戦できると書いていたので、そうすることにした。すると眞澄くんが3回目で取ってくれた。

「すごーい!」

 取り出し口から眞澄くんがぬいぐるみを私の手の中に置いてくれる。
 残りの回数は私がさせてもらったけれど何も取れなかった。

「眞澄くん、上手だね」
「偶然だよ」

 はにかんだ笑顔を見せた眞澄くんに髪をくしゃっと撫でられる。

「他のも見てみるか」

 お互い笑い合って、他のゲームの設置しているところへ移動した。




 いろいろなゲームで遊んでいるうちに、正午を過ぎていた。
    昼食を食べるためにカフェへ移動したわ。カウンター席に並んで座る。

 ゲームセンターでもそうだったけれど、すれ違い様に眞澄くんに目を奪われている女の子がとても多いと気づいた。

    だけどそれに全然気がつかない眞澄くんに、私を一瞬でもドキドキする女の子だと意識してもらうことなんてできるのかしら。

 どうしたら色気が出るのかなと考えながら、アイスティーをストローで吸う。
    隣でただ座っているだけの眞澄くんの背中の方がよっぽどセクシーに思える。

「何考えてるんだ?」

 頬杖をついて眞澄くんがこちらを見る。

「どうしたら色気って出るのかなーと思ったの」
「考えて出るものじゃないな」

 身も蓋もないことを言われた。

「頑張って俺を誘惑してくれよ」

 意地悪だけど妖艶な微笑を端正な口元に湛える。余裕たっぷりだ。

 そう言えば、とイズミさんのアドバイスで思い出したことがあった。男子は上目遣いに弱い。

    座っていた椅子がくるりと動くタイプだったので90度回転させて眞澄くんへ向いてから、上目遣いで見つめてみる。すると眞澄くんに少し反応があった気がした。

 その時、注文していたナポリタンと鮭のクリームパスタが運ばれてきたので一時休戦にした。
何事もなかったように、他愛もないことを話しながらおいしくいただく。

 食べ終えてからもう一度、身体ごと眞澄くんの方を向いて上目遣いで見つめる。そして少し首を傾け、眞澄くんの手の甲に私の掌を重ねてにこっと笑いかけた。

    手に触れるのも有効だとイズミさんに教えてもらった。

「みさき……」

 眞澄くんの余裕のあった相貌が少し崩れた気がする。少し頬を赤らめて私の手を握った。

 会計を済ませて店を出ると、手を繋ぎ直してこちらを見ずに歩き出す。

「どこに行くの?」

 眞澄くんは痛いくらい強く私の手を掴んだわ。

「……ふたりきりになれるところ」

 その台詞に私の胸の中はいろいろな感情でごちゃ混ぜになった。
    だけど不思議なことに、足は眞澄くんに連れられるままに動く。

 入ったのはカラオケ店だった。さっきまでの緊張はなんだったのかと拍子抜けしてしまう。だけど安心もした。

「なあ、みさき……」

 薄暗い部屋で、眞澄くんが少し呆れたような表情でこちらを見ている。

「なんでそんなに遠いんだよ」

 テレビが正面になるソファーの真ん中あたりに眞澄くんが座っているのに、私は腕を伸ばしても届かない端っこにちょこんと鎮座してしまった。

「だって……」

 おかしな想像していた自分が恥ずかしくて、眞澄くんの顔を真っ直ぐ見られない。
   すると眞澄くんが私と身体を寄せ合う距離に移動してきた。

「違う場所想像してた?」

 肩を抱かれてそっと耳許で囁かれる。図星を指されてしまい、真っ赤になって無言で頷くしかなかった。

「ごめんな。みさきががんばってくれたからさ……。カラオケぐらいじゃないと、俺……」

 グラスの中で氷がひとりでに揺れて音を立てる。
 私の目を覗き込んでくる漆黒の瞳から目が離せない。

「ま、眞澄……くん……?」
「キスするぞ」

 両方の二の腕をがっちりと掴まれ、そうはっきり宣言されて驚いたけれど、こくこくと頷いた。
    ぎゅっと目を閉じて待っていると眞澄くんの唇が微かに前髪と額に触れる。

 インキュバスを退散させるために、何でもすると決めた。
    眞澄くんも協力してくれているのだから、ここでやっぱり怖いと逃げ出すわけにはいかないわ。

「緊張しすぎ」
「だって……。眞澄くん、お芝居上手すぎるんだもん」

「みさき、鈍すぎ」

 今度は頬に柔らかくキスをされた。

「え?」

 意味がわからなくて、反射的に目を開いて顔を上げてしまう。

「そこがかわいいトコでもあるけどさ」

 心臓がきゅっとなった気がした。優しい光が眞澄くんの漆黒の双眸で揺らめいている。

「そんなに鈍い?」
「鈍いな。まだ気がつかないなんて」

 口許に薄く微笑をひらめかせてた眞澄くんは彼の額と私の額をくっつけた。

「みさき……」

 吐息が触れる距離で、潤んだような瞳の眞澄くんに呼ばれた自分の名前は、これまで聞いたことのないほど甘い言葉だった。

   そしてなぜか眞澄くんが次は唇にキスをするような気がして、雰囲気に流されて目を閉じてしまう。眞澄くんが僅かに息を飲んだ音が聞こえた気がした。

 だけど次の瞬間に、肌の粟立つような感覚があった。
   はっとして目を開き、触れ合う寸前だった眞澄くんの唇を掌で押さえる。

 眞澄くんだけど眞澄くんではない。
    その眞澄くんは口を覆っていた方の私の手首を掴んで強引に手を剥がした。

「さすがだね」
「罠だって思わなかったの?」

「キミが誘ってくれたから乗っただけだよ。相手に彼を選んでくれたから、尚更ね」

 ぞくりとするほど危険で美しい微笑み。だけど眞澄くんはこんな笑い方をしない。

「やっぱりこの子だったからもうボクの仕事は終わったけど、せっかくだから遊んで行こうかな」
「もう終わったってどういうこと?」

 眞澄くんの中に入っただけに思えるのに、もう仕事が終わったとはどういうことなのか教えてもらいたい。

「眞澄も、そんなに抵抗しないでほしいな」

 眞澄くんの精神とインキュバスが中で主導権を争っているらしい。
   その間にバッグに忍ばせておいた魔封じのロープで眞澄くんを捕縛した。

「みさきはどうしてそんなに冷静な判断ができるのに、恋慕の情のことになると全くわからなくなるのかな?」
「え?」

「ボクが中にいるとはいえ眞澄を相手にそれだけ冷静な行動ができるのに、眞澄の想いにはまるで気がつかない。興味がないわけではなさそうなのにね」

 インキュバスの揺さぶりだとわかっているけれど、動揺してしまう。

「眞澄くんの想い……?」
「本当にわからないのかい?」

 インキュバスが入り込んだということは、一瞬でも私に触れたいと思ってくれたということはわかる。

「まあいいや。ボクがしたいコトはひとつなんだから」

 インキュバスが魔封じのロープを解こうと力を発揮する。

「みさきには、指一本触れさせない……!」

 眞澄くんがインキュバスを自分の身体から弾き出した。とてつもない精神力だ。

   外に出されたインキュバスも、一瞬何が起こったのかわからなかったみたい。そして状況を理解すると高笑いをする。

 インキュバスは以前会ったときより、かなり力を蓄えた様子が見て取れる。もう実体を持っていてもおかしくないくらいだ。

 するりとロープが解けたのと同時に、眞澄くんの身体もソファーに倒れ込んだ。意識はあるけれど、苦しそうに肩で呼吸をしている。

「眞澄くん!」

 とっさに眞澄くんとインキュバスの間に割り込んで対峙する。

「すごいよ、眞澄……!彼女がキミのことを知りたがるワケだ」

 インキュバスが目を輝かせた。

 今の眞澄くんにもうインキュバスに抗う力は残っていない。
   私は固く唇を結んでインキュバスを睨んだ。そんな私たちを見て彼は酷薄に微笑む。そして再び眞澄くんに入り込もうと動いた瞬間。

 みんなが私に貸してくれていたタリスマンと今朝イズミさんがつけてくれた髪飾りが眩い白い光を発した。

 それに包まれたインキュバスに隙ができた。

「みさき、悪い……」

 何とか身体を起こした眞澄くんは、私を背中から抱きすくめると首筋に唇を滑らせた。
   そして短く鋭い痛みがそこに走る。

「痛っ……」
「サンキュ」

 ペロリと唇の端を舐めた眞澄くんの両眼に強い光が戻った。

 次の瞬間にはインキュバスの心臓部に退魔の短刀が突き立っていた。その柄を握りしめているのは眞澄くん。

 インキュバスは力を奪われて、どんどん姿が透けていく。完全に消え去る前に短刀を自分で抜いて逃げたから、残念ながらとどめはさせなかった。

「逃がしたか……」

 眞澄くんはインキュバスの消えた空間を見て口惜しそうに歯噛みをする。

 私の首筋には、眞澄くんに噛まれて血を吸われた傷がくっきりと残っていた。
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