祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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3章

王子様の秘密 1

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「みさき、似合う?似合う?」

 裕翔くんは制服を着てとても嬉しそうに一回転してみせてくれる。見ている私も楽しくなった。

 今日から裕翔くんも高校に通い始める。そのために短期間でたくさんのことを学んできた。

    まだわからないこともたくさんあると思うけれど、私たち以外の人と関わりあって知ることも多いと思う。

 眞澄くんは昨日高熱を出していたので、今日は念のため学校を欠席する。

「気を付けて行ってこいよ」
「眞澄も、ゆっくり休むんだよ」

 まだ少し顔色の悪い眞澄くんは、淳くんの言葉に片手を挙げて応えた。

 誠史郎さんは一足先に出勤しているので、私と淳くんと裕翔くんの3人で登校する。

「1年生は3階だから。クラスは覚えているかい?」
「大丈夫!」

 裕翔くんはとても楽しそうだ。眷属になってからの短い期間で、ここまでいろんなことを吸収できるなんて本当にすごい。

    裕翔くんに勉強を教えてあげられるみんなもすごいと思う。私も便乗して、特に数学を教えてもらえてありがたかった。

 どうしているのか私はわからないけれど、記憶や記録の操作や改ざんがいろいろ行われている。

    裕翔くんが始業式から10日ほど経って初めて学校へ来たのも、怪我で入院していたからって言うことになっているそうだ。

 登校すると、やっぱり学校がざわついた。
   1年生にとても格好良いのに可愛らしい男子がいて、しかも淳くんと一緒に登校して来た、と。

 同じクラスの優奈は裕翔くんの容姿や雰囲気がとても好みみたいで、一緒にお昼ごはんを食べている時にかなりはしゃいでいた。

 裕翔くんはかなり質問攻めにあったみたいで、家に帰るとぐったりして、制服のままでソファーに倒れ込んだ。

「学校があんなに大変なところだったなんて……」
「お疲れ様」

 淳くんが優しく微笑んで裕翔くんにオレンジジュースの入ったコップを差し出す。

「何で淳は平気なの?」

 裕翔くんは起き上がってそれを受け取ると一気に飲み干した。

「僕は眞澄が一緒だったからね。裕翔も今は物珍しさで大変だと思うけれど、1週間もすればみんな慣れるから」

 柔らかく目を細めたけれど、すぐに寂しげな光が涼やかな目元に揺れる。

「……僕らはみんなと同じように振舞ってるつもりなのに、やっぱり異質だって感じられてしまうのはどうしてだろうね」

 あれ、と私は思った。
    淳くんはもしかして、みんなが淳くんたちにキャーキャー騒いでいるのを自分が狭間の住人だからだと思っているのかな。

「言えないことも多いし、人間になるって難しいんだねー」

 裕翔くんが同意してしまったから、私は口を挟むタイミングを失ってしまった。この誤解は解いた方が良い気がする。

 考えているとジャージ姿の眞澄くんがスポーツドリンクのペットボトルを持って現れた。顔色がずいぶん良くなっていたから安心した。

「おかえり。初日はどうだったんだ?」

 疲れ切っている裕翔くんにニヤニヤしながら問いかける。

「もー大変だった!」

 裕翔くんはそう言って手足を投げ出して再びソファーに寝転んだ。

「ま、そのうち慣れるさ」

 眞澄くんは空いているダイニングチェアに座って飲み物を一口含む。

「眞澄、動いて平気なのかい?」
「熱は下がった」
「そう」

 淳くんは安心したような微笑みを見せる。
 裕翔くんは本当に疲れていたようで、もう眠ってしまっていた。




「みさきさんにお客様です」

 すっかり日も暮れて、そろそろ夕飯という時間になった頃、仕事を終えた誠史郎さんが帰ってきた。

    インキュバスをまだ完全に退けていないことと、眞澄くんの体調が優れないから、念のためにもう少し我が家にいてくれるそうで、心強い。

「お客様?」

 誠史郎さんが部屋の灯りを常夜灯にした。リビングが暗いオレンジ色になる。

「突然失礼します」

 誠史郎さんに続いてもう1人入って来た。
長い真っ直ぐな髪の、暗がりの中でも浮き上がってくる日本人形のように美しい和装の女性。

   でも人間ではなく、吸血種だとわかる。

「お初お目にかかります、真堂のお嬢さん」

 彼女に深々とお辞儀をされ、私も慌てて頭を下げる。

「は、初めまして。みさきです」
珠緒たまおと申します。あなたのお祖父様には大変お世話になりました」

「珠緒さん、お久しぶりです」
「久しぶり」

 淳くんと眞澄くんもそれぞれ珠緒さんに挨拶をする。

「皆様、お変わりございませんようで。そちらの方が、先日眷属となられた方ですね?」

 まだソファーで眠っている裕翔くんを珠緒さんが見た。
    この件がもう広まっていることに驚いてしまう。

「裕翔くんです」

寝ている裕翔くんに代わって私が名前を伝えた。

「お休みのところお邪魔して申し訳ございません。すぐにお暇いたしますので」

 珠緒さんは姿勢を正して、私たちを真っ直ぐに見据える。

「別グループの吸血種の一部に不穏な動きがありますので、お耳に入れておこうと思いましたの」
「……翡翠ひすいかな」
「はい」

 淳くんの問いを珠緒さんは静かに首を縦に振って肯定した。

「この方のことがあり、貴方の所在を知ったようですわ」








「翡翠は僕と双児の兄弟なんだ」

 珠緒さんが帰り、裕翔くんが目を覚まして夕飯を食べた。
    それから淳くんが私と裕翔くんに話してくれた。

 眞澄くんと誠史郎さんは事情を知っている様子で少し離れた場所からこちらを見守っている。

「僕のいた吸血種の群れは、過激な思想の集団でね。人間は餌だと、だから行く行くは人間社会を支配をすべきだ、なんて。小さい頃の僕はどうしてもそう言うのに……いや、吸血種として生きる自分が認められなくて……。翡翠はそんな僕をいつも庇ってくれていた。だけど歯痒くも思っていたみたい」

 自嘲したような微笑みを見せる淳くんが、私の目にはとても切なく映った。

「人間の血を吸わないと生きていけない。それは不文律だから、僕のような吸血種は本来なら飢えて死んでしまうんだ。それに当時の僕は恐怖に怯えるあまり、総てに目を閉じ耳を塞いでいた。それでも翡翠が僕に世話を焼いてくれて、辛うじて命を繋いでいた。だから知らなかったんだ。人間は血液を失い過ぎると死んでしまうことを」

 そこまで言うと、淳くんは緊張を解そうしているのか大きく深呼吸をした。

「知らなかったから許されるなんて思っていないよ。寧ろ、知ろうとしなかった僕の罪はとても重い。群れのお荷物だった僕はある日捨てられてしまった。当然のことだけどね。そのとき偶然出会ったのが、眞澄だった」

 淳くんは苦しそうに唇を結んで俯く。膝の上に置いた拳が震えていることに気が付いた。

「淳……!」
「ごめん、眞澄。いずれ話さなければいけないと思っていたんだ。良い機会だよ」

 淳くんはそう言ったけれど、そのまま口を噤んでしまった。
 どれくらいの時間が経ったのだろう。私は何も言えないまま、淳くんが言葉を紡ぐのを待った。
   だけど続く物語の予想はついている。心のどこかで、聞きたくない、知りたくないと思っていた。

 裕翔くんも普段は見せないような硬い表情で淳くんが話しを再開するのを待っている。

 淳くんの中でようやく決心がついたようで、血が滲みそうにきつく拳を握る。
    普段の穏やかで温かい彼からは想像もつかない、喉の奥から絞り出すような苦しげな声は心の悲鳴にも聞こえた。

「僕が眞澄を、吸血鬼にしてしまった」
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