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5章
愛の病 7
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土曜日のお昼前に、最寄り駅から数駅で少し前に眞澄くんとふたりで出かけたM駅で待ち合わせをした。
雨が降っていたので透さんが送ってくれると車を出してくれて、みんなも一緒に構内で待っている。
改札正面の、たくさんの券売機の並んでいる場所の近くで切符を買う人の邪魔にならないよう気をつけて立っていると、人の波の中に知った顔を見つけた。
「ハルカだー」
人懐こい子犬のように裕翔くんが遥さん目掛けて小走りで行ってしまう。
自動改札機を抜けた遥さんは纏わりついてくる少年に満面の笑みを見せた。
メールをくれたのが本当に遥さんだったことに私は安堵した。
「お待たせしてごめんね。寒くなかった?」
裕翔くんを連れた遥さんが、穏やかな微笑みを湛えて私の前に立つ。
「いえ、こちらが早く来てしまっただけですから……」
私はぶんぶんと首を横に振った。
寒さはスプリングコートを羽織っていたから平気だった。
「透、久しぶり」
「生きてるなら連絡せんかい」
「便りが無いのは元気な証拠だよ」
仏頂面の透さんに、遥さんはいたずらっぽく破顔しながらそう言って、今度は初めて会う3人に向き直る。
「弟が世話になっています」
そう言った遥さんは、とてもお兄ちゃんに見えた。私は兄弟がいないので少し羨ましく感じる。
「遥……!」
珍しく透さんが狼狽えている。
「こちらこそ、お世話になっております」
慌てた様子の透さんを気にせず、誠史郎さんが年長者としてにこやかに挨拶をした。
「では、早速で申し訳ないですけど、みさきちゃんをお借りします」
駅前の商業ビルに入っているレトロな内装の喫茶店に移動した。
私と遥さんはふたりがけの席に通され、みんなは別のお客と言う体でいたので、少し離れた席に案内された。
「あの」
注文を聞いてくれた店員さんが離れるとすぐに私は少し前のめりになる。
だけど上手く言葉が選べずにいると、遥さんがくすりと笑って首を傾けた。
「運命の人の見極め方を知りたい?」
私は唇を結んでこくりと頷く。遥さんは穏やかに少し双眸を細めた。
「その気持ちがあれば、もう大丈夫だよ」
見る人を蕩けさせるような笑顔を見せた遥さんに、私は拍子抜けしてしまう。
「前に会った時より、ずいぶん封印が弱まっているから」
「封印?」
タイミング良く、頼んだ飲み物が運ばれてきた。
それぞれの前に置いてもらったので、私は店員さんにお礼の意味で小さく会釈する。
「ふとしたことで天秤が揺れてしまうのはよくあることだから、それぞれの運にも左右されるかもね」
ひとりで納得している遥さんの、少し癖のある柔らかそうな髪が動きに合わせてさらさらと揺れる。
コーヒーカップを持った指先はきれいに整えられていた。
「王子様に目覚めさせられるのではなくて、自ら呪いを打ち破るんだね」
「呪い、ですか?」
遥さんの言葉にぎょっとした。私に呪いがかかっているのだろうか。
「ごめんね。言葉の選び方が良くなかった。呪いというより、祝福、かな?」
「祝福……?」
どちらにしてももやもやする。一体私の身に何が起きているのだろう。
「いつも通りにしていれば大丈夫だよ」
遥さんはお祖父ちゃんと同じことを言う。その笑顔にはこれ以上踏み込めない何かがあって、私は大人しく引き下がるしかできなかった。
グラスを持ち上げてりんごジュースに入ったストローを吸った。
「気になっていたから良かった。ふたりで話したいこと、というよりみさきちゃんの様子を知りたかったんだ。そうだね……。せっかくこうして相談してくれているんだし。特別なひとの見極め方か……」
遥さんは机に視線を落として黙りこむ。
考え込んでいた長いまつ毛がパッと上がって、遥さんが私に微笑みかけた。
「気がついたらそのひとのことばかり考えていた、っていう状態は、恋の始まりかもしれないね」
私の中に遥さんの言葉はすんなりと馴染んだ。
「なるほど……」
遥さんを真っ直ぐに見て何度も頷いてしまう。
「人それぞれだから、一概には言えないけれど。男はもっと単純だし」
「そうなんですか?」
肩を竦めた遥さんに、私はテーブルに手をついて首を傾げる。
「そうだよ」
甘く微笑んだ遥さんの手が私の手の甲を包み込んだ。
「セクハラだって怒られたくないから言わないけどね」
器用にウインクした遥さんは、こちらが照れてしまうほどセクシーだった。
どうして遥さんのメールアドレスを隠していたのか質問すると、バツの悪い表情になって、髪を掻きあげた。
「一応警戒したのと、もし会えなくても落ち込まないようにするためだったんだ」
そして遥さんに直接連絡のできるアドレスを教えてもらった。やっぱり遥さんもスマホを持っていた。
私もそろそろスマホに替えたい。でも両親は海外だ。
駅の改札で遥さんを見送る。裕翔くんはぴょんぴょん跳ねながら手を振っていた。相当遥さんのことが好きみたい。
完全に彼の背中が見えなくなってから、透さんを覗き込んだ。
「良かったんですか?」
「何が?」
「遥さんとバイバイしてしまって」
店を出てからここへ来るまで、透さんは遥さんと少し会話をしながら歩いていた。
何を話していたのかまでは聞こえなかったけれど、そんなに険悪な雰囲気でもなかった。
「生きてるの確認できたし、今やってることのケリついたら1回実家にも顔出す言うてるから、今日のところはエエかな」
片頬で笑って見せた透さんだけど、とても安心しているように感じる。
「良かったですね」
何だか私も嬉しくなって、自然に笑顔になった。
不意にポンポンと大きな手が頭頂部に触れる。振り返ると眞澄くんがいた。
「ちょっと遅いけど、飯食って帰ろうぜ」
みんなも並んでそれぞれに微笑んでいる。
「うん!」
私は大きくうなずいた。
雨が降っていたので透さんが送ってくれると車を出してくれて、みんなも一緒に構内で待っている。
改札正面の、たくさんの券売機の並んでいる場所の近くで切符を買う人の邪魔にならないよう気をつけて立っていると、人の波の中に知った顔を見つけた。
「ハルカだー」
人懐こい子犬のように裕翔くんが遥さん目掛けて小走りで行ってしまう。
自動改札機を抜けた遥さんは纏わりついてくる少年に満面の笑みを見せた。
メールをくれたのが本当に遥さんだったことに私は安堵した。
「お待たせしてごめんね。寒くなかった?」
裕翔くんを連れた遥さんが、穏やかな微笑みを湛えて私の前に立つ。
「いえ、こちらが早く来てしまっただけですから……」
私はぶんぶんと首を横に振った。
寒さはスプリングコートを羽織っていたから平気だった。
「透、久しぶり」
「生きてるなら連絡せんかい」
「便りが無いのは元気な証拠だよ」
仏頂面の透さんに、遥さんはいたずらっぽく破顔しながらそう言って、今度は初めて会う3人に向き直る。
「弟が世話になっています」
そう言った遥さんは、とてもお兄ちゃんに見えた。私は兄弟がいないので少し羨ましく感じる。
「遥……!」
珍しく透さんが狼狽えている。
「こちらこそ、お世話になっております」
慌てた様子の透さんを気にせず、誠史郎さんが年長者としてにこやかに挨拶をした。
「では、早速で申し訳ないですけど、みさきちゃんをお借りします」
駅前の商業ビルに入っているレトロな内装の喫茶店に移動した。
私と遥さんはふたりがけの席に通され、みんなは別のお客と言う体でいたので、少し離れた席に案内された。
「あの」
注文を聞いてくれた店員さんが離れるとすぐに私は少し前のめりになる。
だけど上手く言葉が選べずにいると、遥さんがくすりと笑って首を傾けた。
「運命の人の見極め方を知りたい?」
私は唇を結んでこくりと頷く。遥さんは穏やかに少し双眸を細めた。
「その気持ちがあれば、もう大丈夫だよ」
見る人を蕩けさせるような笑顔を見せた遥さんに、私は拍子抜けしてしまう。
「前に会った時より、ずいぶん封印が弱まっているから」
「封印?」
タイミング良く、頼んだ飲み物が運ばれてきた。
それぞれの前に置いてもらったので、私は店員さんにお礼の意味で小さく会釈する。
「ふとしたことで天秤が揺れてしまうのはよくあることだから、それぞれの運にも左右されるかもね」
ひとりで納得している遥さんの、少し癖のある柔らかそうな髪が動きに合わせてさらさらと揺れる。
コーヒーカップを持った指先はきれいに整えられていた。
「王子様に目覚めさせられるのではなくて、自ら呪いを打ち破るんだね」
「呪い、ですか?」
遥さんの言葉にぎょっとした。私に呪いがかかっているのだろうか。
「ごめんね。言葉の選び方が良くなかった。呪いというより、祝福、かな?」
「祝福……?」
どちらにしてももやもやする。一体私の身に何が起きているのだろう。
「いつも通りにしていれば大丈夫だよ」
遥さんはお祖父ちゃんと同じことを言う。その笑顔にはこれ以上踏み込めない何かがあって、私は大人しく引き下がるしかできなかった。
グラスを持ち上げてりんごジュースに入ったストローを吸った。
「気になっていたから良かった。ふたりで話したいこと、というよりみさきちゃんの様子を知りたかったんだ。そうだね……。せっかくこうして相談してくれているんだし。特別なひとの見極め方か……」
遥さんは机に視線を落として黙りこむ。
考え込んでいた長いまつ毛がパッと上がって、遥さんが私に微笑みかけた。
「気がついたらそのひとのことばかり考えていた、っていう状態は、恋の始まりかもしれないね」
私の中に遥さんの言葉はすんなりと馴染んだ。
「なるほど……」
遥さんを真っ直ぐに見て何度も頷いてしまう。
「人それぞれだから、一概には言えないけれど。男はもっと単純だし」
「そうなんですか?」
肩を竦めた遥さんに、私はテーブルに手をついて首を傾げる。
「そうだよ」
甘く微笑んだ遥さんの手が私の手の甲を包み込んだ。
「セクハラだって怒られたくないから言わないけどね」
器用にウインクした遥さんは、こちらが照れてしまうほどセクシーだった。
どうして遥さんのメールアドレスを隠していたのか質問すると、バツの悪い表情になって、髪を掻きあげた。
「一応警戒したのと、もし会えなくても落ち込まないようにするためだったんだ」
そして遥さんに直接連絡のできるアドレスを教えてもらった。やっぱり遥さんもスマホを持っていた。
私もそろそろスマホに替えたい。でも両親は海外だ。
駅の改札で遥さんを見送る。裕翔くんはぴょんぴょん跳ねながら手を振っていた。相当遥さんのことが好きみたい。
完全に彼の背中が見えなくなってから、透さんを覗き込んだ。
「良かったんですか?」
「何が?」
「遥さんとバイバイしてしまって」
店を出てからここへ来るまで、透さんは遥さんと少し会話をしながら歩いていた。
何を話していたのかまでは聞こえなかったけれど、そんなに険悪な雰囲気でもなかった。
「生きてるの確認できたし、今やってることのケリついたら1回実家にも顔出す言うてるから、今日のところはエエかな」
片頬で笑って見せた透さんだけど、とても安心しているように感じる。
「良かったですね」
何だか私も嬉しくなって、自然に笑顔になった。
不意にポンポンと大きな手が頭頂部に触れる。振り返ると眞澄くんがいた。
「ちょっと遅いけど、飯食って帰ろうぜ」
みんなも並んでそれぞれに微笑んでいる。
「うん!」
私は大きくうなずいた。
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