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6章
君のとなり 1
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今日は出かけないで、私は剣の稽古をしたいとお願いした。するとみんな付き合ってくれると言う。
先日の透さんの姿を見て、皆それぞれに思うところがあるみたい。もちろん、私も感じることがあった。
当の本人である透さんは、今日は身体を休めるためにゆっくり寝て過ごすと自宅に戻った。隣の市におうちがあるそうだ。
今は裕翔くんが誠史郎さん相手に、攻撃の間合いの取り方などを研究していた。
珍しく眼鏡をかけていない誠史郎さんに軽く往なされて、突進していた裕翔くんは体勢を崩す。だけど倒れたりはせず、見事な前方宙返りを披露して華麗に着地を決める。そして、すぐに誠史郎さんへ振り返って不敵に笑った。
勢い良く床を蹴ると、冷静に裕翔くんを見つめる誠史郎さんに躍りかかる。顔を狙った裕翔くんの拳は誠史郎さんに手首を掴まれ、捻られるとお尻から床に沈められた。
「狙いが安易です」
裕翔くんの武器は、拳に装着できるものを数種類イズミさんに頼んで作ってもらっている。今は着けていないけれど。
誠史郎さんは普段、中距離や遠距離の武器を使用しているから、こんなに武術に長けているなんて驚きだった。
どうも顔に出ていたみたいで、誠史郎さんは苦笑いを見せる。
「私は攻撃力がないので、近距離攻撃をいかに避けるかを研究しただけです。裕翔くんのパワーやスピードは羨ましい限りですよ」
先ほど見せてくれたのは合気道のようなものらしい。
誠史郎さんにこんな風に言わせるなんて、裕翔くんの身体能力は吸血種の中でも稀有なものなのだと感心する。
「オレも習いたい」
裕翔くんの目がキラキラしている。新しいことを学ぶのが本当に楽しいみたい。
「構いませんよ。ですが、一度休憩しましょう」
「じゃあ、みさき」
眞澄くんの声に、私は彼の顔を見てうなずく。竹刀を手に立ち上がった。
夕陽の沈む頃、牛乳を買い忘れていたので私と裕翔くんで歩いて5分ほどの場所にあるスーパーへ行った。
その帰り道、遥さんと初めて会った場所で彼は私たちを待っていた。
和服姿の、涼しげな目元の美少年だった。だけど人間ではない。
「……ええと、どちら様?」
「紫綺」
その声に聞き覚えがあった。
「あー、悩み多き青年」
裕翔くんがポンと手を打つと、シキくんはこめかみに青筋を立てそうなほど険しい表情になる。
「遥のヤツ、余計なことを……!」
シキくんはキッとこちらを睨んでくる。そして裕翔くんの鼻先に人差し指を突きつけた。
「お前、俺と勝負しろ」
シキくんの申し出に裕翔くんはきょとんとして首を傾げる。私もそれは仕方ないと思った。あまりにも突然過ぎる申し出だ。
「何で?」
「俺がお前より弱いはずないんだ!」
いきなり飛びかかってきたシキくんを、裕翔くんはひょいひょいと軽やかな動きで後方へステップを刻んで翻弄する。
埒が明かなくなったふたりは一旦、成人男性ひとり分ぐらいの距離を取った。
「お前が勝ったら、翡翠の居どころを教えてやるよ」
ニヒルに笑って見せたシキくんの呟きを聞いて、裕翔くんの目の色が変わる。
「みさき!これ持ってて!」
私は牛乳の入ったエコバッグを差し出されて、慌てて受け取りに走る。
「さっきの言葉、忘れるなよ」
裕翔くんは猫のようなまんまるの瞳を好戦的に輝かせて、ちろりと舌舐めずりをした。
重力など感じていないように裕翔くんは跳躍すると、旋回しながらシキくんの左頬を足の甲で蹴りつけようとする。だけど読まれていたみたいで、掌で受け止められてしまう。
そのまま捕まえようとしたシキくんの手を素早く避けた裕翔くんは、着地してすぐ肘鉄砲で喉を狙った。まともには食らわなかったけれど、頬の辺りを掠めたみたいでシキくんは僅かにバランスを崩す。
「くっ……」
よろけた隙を裕翔くんが見逃すはずもなく、シキくんを背負い投げようとした。だけどすり抜けた白く細い腕に、逆に背中を強く突き飛ばされてしまう。
裕翔くんはうまく力を受け流してすぐにシキくんに向き直る。私はほっとした。
でも裕翔くんの襟首を後ろから掴んだ人がいた。
「牛乳買いに行ったヤツが何やってんだ」
眞澄くんが呆れた面持ちで立っている。
「眞澄!だってあいつが……」
「お前!邪魔するな!」
抗議するふたりに、眞澄くんはやれやれと首を振ってため息を吐く。
「やるなってわけじゃない。結界ぐらい張れ」
すっかり忘れていた。私の練習にもなるので結界を張ろうとした時、お隣の亘理さんが通りかかった。
「こんばんは」
亘理さんににこやかに挨拶をされて、私は何となく構えていた両手を後ろに隠してしまう。
シキくん以外はそれぞれに挨拶したり会釈したりした。そしてみんな無言でスーツの背中が見えなくなるまで待った。
「……興が削がれた」
シキくんは仏頂面になって、踵を返す。
「あっ!逃げるな!」
裕翔くんの声で振り返った人形のように整った面は、子供じみた苛つきに溢れていた。
「逃げてない!後日、仕切り直しだ!」
「忘れるなよ!」
ふん、と鼻を鳴らしてシキくんは嵐のように去って行った。
先日の透さんの姿を見て、皆それぞれに思うところがあるみたい。もちろん、私も感じることがあった。
当の本人である透さんは、今日は身体を休めるためにゆっくり寝て過ごすと自宅に戻った。隣の市におうちがあるそうだ。
今は裕翔くんが誠史郎さん相手に、攻撃の間合いの取り方などを研究していた。
珍しく眼鏡をかけていない誠史郎さんに軽く往なされて、突進していた裕翔くんは体勢を崩す。だけど倒れたりはせず、見事な前方宙返りを披露して華麗に着地を決める。そして、すぐに誠史郎さんへ振り返って不敵に笑った。
勢い良く床を蹴ると、冷静に裕翔くんを見つめる誠史郎さんに躍りかかる。顔を狙った裕翔くんの拳は誠史郎さんに手首を掴まれ、捻られるとお尻から床に沈められた。
「狙いが安易です」
裕翔くんの武器は、拳に装着できるものを数種類イズミさんに頼んで作ってもらっている。今は着けていないけれど。
誠史郎さんは普段、中距離や遠距離の武器を使用しているから、こんなに武術に長けているなんて驚きだった。
どうも顔に出ていたみたいで、誠史郎さんは苦笑いを見せる。
「私は攻撃力がないので、近距離攻撃をいかに避けるかを研究しただけです。裕翔くんのパワーやスピードは羨ましい限りですよ」
先ほど見せてくれたのは合気道のようなものらしい。
誠史郎さんにこんな風に言わせるなんて、裕翔くんの身体能力は吸血種の中でも稀有なものなのだと感心する。
「オレも習いたい」
裕翔くんの目がキラキラしている。新しいことを学ぶのが本当に楽しいみたい。
「構いませんよ。ですが、一度休憩しましょう」
「じゃあ、みさき」
眞澄くんの声に、私は彼の顔を見てうなずく。竹刀を手に立ち上がった。
夕陽の沈む頃、牛乳を買い忘れていたので私と裕翔くんで歩いて5分ほどの場所にあるスーパーへ行った。
その帰り道、遥さんと初めて会った場所で彼は私たちを待っていた。
和服姿の、涼しげな目元の美少年だった。だけど人間ではない。
「……ええと、どちら様?」
「紫綺」
その声に聞き覚えがあった。
「あー、悩み多き青年」
裕翔くんがポンと手を打つと、シキくんはこめかみに青筋を立てそうなほど険しい表情になる。
「遥のヤツ、余計なことを……!」
シキくんはキッとこちらを睨んでくる。そして裕翔くんの鼻先に人差し指を突きつけた。
「お前、俺と勝負しろ」
シキくんの申し出に裕翔くんはきょとんとして首を傾げる。私もそれは仕方ないと思った。あまりにも突然過ぎる申し出だ。
「何で?」
「俺がお前より弱いはずないんだ!」
いきなり飛びかかってきたシキくんを、裕翔くんはひょいひょいと軽やかな動きで後方へステップを刻んで翻弄する。
埒が明かなくなったふたりは一旦、成人男性ひとり分ぐらいの距離を取った。
「お前が勝ったら、翡翠の居どころを教えてやるよ」
ニヒルに笑って見せたシキくんの呟きを聞いて、裕翔くんの目の色が変わる。
「みさき!これ持ってて!」
私は牛乳の入ったエコバッグを差し出されて、慌てて受け取りに走る。
「さっきの言葉、忘れるなよ」
裕翔くんは猫のようなまんまるの瞳を好戦的に輝かせて、ちろりと舌舐めずりをした。
重力など感じていないように裕翔くんは跳躍すると、旋回しながらシキくんの左頬を足の甲で蹴りつけようとする。だけど読まれていたみたいで、掌で受け止められてしまう。
そのまま捕まえようとしたシキくんの手を素早く避けた裕翔くんは、着地してすぐ肘鉄砲で喉を狙った。まともには食らわなかったけれど、頬の辺りを掠めたみたいでシキくんは僅かにバランスを崩す。
「くっ……」
よろけた隙を裕翔くんが見逃すはずもなく、シキくんを背負い投げようとした。だけどすり抜けた白く細い腕に、逆に背中を強く突き飛ばされてしまう。
裕翔くんはうまく力を受け流してすぐにシキくんに向き直る。私はほっとした。
でも裕翔くんの襟首を後ろから掴んだ人がいた。
「牛乳買いに行ったヤツが何やってんだ」
眞澄くんが呆れた面持ちで立っている。
「眞澄!だってあいつが……」
「お前!邪魔するな!」
抗議するふたりに、眞澄くんはやれやれと首を振ってため息を吐く。
「やるなってわけじゃない。結界ぐらい張れ」
すっかり忘れていた。私の練習にもなるので結界を張ろうとした時、お隣の亘理さんが通りかかった。
「こんばんは」
亘理さんににこやかに挨拶をされて、私は何となく構えていた両手を後ろに隠してしまう。
シキくん以外はそれぞれに挨拶したり会釈したりした。そしてみんな無言でスーツの背中が見えなくなるまで待った。
「……興が削がれた」
シキくんは仏頂面になって、踵を返す。
「あっ!逃げるな!」
裕翔くんの声で振り返った人形のように整った面は、子供じみた苛つきに溢れていた。
「逃げてない!後日、仕切り直しだ!」
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ふん、と鼻を鳴らしてシキくんは嵐のように去って行った。
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